第23話

「ほらよ。そこのエルフの男前。お前さんの腰のナイフよりかは、マシなもんだろう。腰のモノが大事なものだったら、別のやつにやっても構わんからな。ちなみに、オレは砥ぎはできんから、そっちは専門のやつにやってもらえ。ハナレの連中ができたはずじゃ」

 ガラックは、出来上がったばかりの短剣を、ソロリに差し出した。

「よろしいのですか?」

 こっちの世界では、装備品は劣化するのか。そして、ある程度は修復もできるみたいだな。

 ゲーム内で装備品は劣化しない。そこは、安藤さんの好みだ。

 あの爺さんは、省ける面倒事は省こうとする人だ。本心では、レベル上げという単純作業も、できればすっ飛ばしたい、もしくは自動でやってしまいたいと考えている節がある。

 武器や防具が劣化して壊れる仕様にすることで、生産職プレイヤーの需要も高まり、経済も活性化することはわかった上で、壊れることを楽しめるプレイヤーと、嫌がるプレイヤーのどちらが多いかを冷静に客観的に見極められる人なのだ。

『作り手のこだわりも大事だが、楽しんでくれるかどうかだろ? MMORPGなんて、膨大な時間を遊んでもらうんだから、一度面倒だって思われたら、終わりだよ』

 こんなことを口にしながら、たまにプレイヤーを突き落とすんだから、良い性格をしている。でもね。何年一緒に仕事をしても、敵わないって思わされる人なわけよ。俺も、それなりにディレクターとして場数を踏んで、それなりに成功させてきたんだよ? 

 まあ、愚痴はいいや。

 ソロリは、ガラックに渡された短剣を受け取ると、まじまじと見つめている。

 ダークエルフの里の者は、狩猟に長けた者も多い。ソロリもそのひとりだ。

 モンスター相手に経験値を稼ぐことはなくとも、狩猟によってある程度レベルが上がるのか、狩猟の合間にモンスターに襲われることがあるのか、ガラックの短剣も問題なく装備できるようである。

「それで、どうする? 今すぐ魔物であふれた世界になるわけでもないから、ここで生活を続けるか?」

「そうじゃなー。どのくらいで危なくなりそうなんじゃ?」

「正直、出たとこ勝負の連続になるから、まったくわからん。今すぐ守護神に頼んで魔物の駆除を止めさせたとしても、どのくらいのペースで魔物が生まれるのかもわからんからな」

「アンタ。知恵と知識の神様なんじゃろ? 知らんのか?」

「あいにく、この世界の生まれじゃないもんでね。専門外の部分は、これから調べるしかない」

「なるほどのー。それじゃあ、ヴェルクヴェルクの城で調べてみるか? どんな書物が収められているのか、全く知らんが、書庫と呼ばれる場所がある。人間族の王都なら、王立図書館もあったはずじゃが、あいにく、ドワーフはそっち系には疎くてな」

「書庫、か。城にあるみたいだが、そんな簡単に利用できるのか?」

「一般市民どころか、王でなければ入ることを許されておらんが、お前さんは神様じゃろ? ユグド様はドワーフにも知られておるし、大丈夫じゃないかのお? うーん? 面倒じゃが、ワシもついて行った方がいいか? 長らく戻っておらんから、覚えられてるか怪しいがの」

「何だ? その口ぶりだと、王族に伝手でもあるのか?」

「あー。ワシは、これでも一応、ヴェルクヴェルクの王子なんちゅう、面倒な立場なんじゃよ」

「「「「へ?」」」」

 これには、マサユキも含め、全員が目を見開いて驚かされた。

「あー。王子ちゅっても、6人兄弟で一番不出来な男じゃ。ヴェルクヴェルクの王は、代々鍛冶の腕前によって決められる。ワシみたいな出来損ないは、今頃忘れられとるじゃろう」

 がっはっはと豪快に笑っているが、だいぶ話が変わってきたぞ?

 これ、マジで、このおっさんが次代の王になる可能性が出てきちゃった。

 どうしよう?

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