第20話

「なるほど。話はわかりました。拙者個人としては、快くお手伝いさせていただきたいと思っております。ただ、一族総出となると、拙者の一存では、決めかねますので、返答はお待ちいただきたい」

 マサナガの説得は早かった。あまりの落ち着きぶりに、こっちが驚かされるほど、あっさりしたものだ。

 しかし、これにも理由があった。

 ダークエルフの里と違い、彼らは情報収集能力も長けているため、世の中の情勢をかなり正確に把握していたからだ。

「マサナガ殿は、ご存知だったのですね」

 ソロリは、改めて聞かされた神のお節介に愕然としている。

「我ら忍びは、戦闘のスペシャリストというよりも、隠密活動のスペシャリストですからな。ここで暮らしているのも、見聞を広げるため。とはいえ、お恥ずかしい話、拙者も実戦経験はほとんどありませぬ故、四方山話を集める程度でございますよ。今も隠れ里では厳しい修行に耐えている者が大勢おりますが、それを活かすことは、ここ200年ほどありませんでな。一族の中には、忍びを抜け、神の恩恵に頼ろうとする者も出始めておるようです」

「そいつは、もったいないな」

 マサナガの言葉に、率直に答える。

 技術を伝えるのは困難だというのに、消失させるのは簡単だ。せっかく、200年以上も伝え残してきたというのに、宝の持ち腐れのまま、本当に腐って消えてしまうのは、もったいない以外の言葉が思い浮ばない。

 何より、ダークエルフ達とは違い、自立することを選択してきた者達なのだ。

 苦労は報われて欲しいじゃん?

 ってか、緑山さんがこの世界離れてから200年以上も経ってるのか? あの人、地球に行く前に、どっか寄り道でもしてたのか?

 この辺が、どうにも妙なんだよな。

 俺が、初代プロデューサーの小林さんに引き抜かれる前には、開発チームにいたから、古株は古株なんだけど、200年前じゃ、安藤さんの親どころか親の親すら生まれてないぞ?

「先ほども申しましたように、拙者としても、培ってきた技術を活かせる世になるのであれば、里の者も浮かばれますから、コウ様にお仕えするのはやぶさかではないのですが」

「ふむ。忍びとしての本来の生き様を取り戻せる可能性は高い。それだけでなく、ここで培っている農耕の知識も重要だ」

 もしかしたら、戦闘技術の普及にも表立って動いてもらうことになるかもしれないが、そこは、あまり向いているとは思えない。

 忍びの戦術は大規模戦闘には不向きなはずだ。街の防衛という視点からすると、もっとも遠い位置にいる戦闘職かもしれない。

 まあ、忍び込むことに長けているのなら、守ることにも長けているのは道理なので、頼りになることは間違いないだろう。

「農耕、ですか……。ふむ。里の者への説明は、拙者がいたしましょう。コウ様は、どうでしょう、その間に、鍛冶職人のスカウトに行かれるというのは?」

 農作業に関する指導は、ハナレの者が請け負ってくれるとして、彼らだけでは用意できない物があるという。

 それが、農具類だ。

 鍬や鎌といった物は、ドワーフの職人に依頼しているらしく、紹介してくれることになったのである。

 これは、願ったり叶ったりの申し出であたったため、素直に受け入れることにした。

「それは、助かる。それと、忍びの情報網を見込んでの相談なんだが、勇者に相応しい人間の子供に心当たりはないかな? 忍びの一族の者でも構わない」

「勇者、ですか……」

 俺の問いに、マサナガは熟考を始める。

 表情からは、何も読み取れない。

 候補者が多い、ということはないだろうから、いなさすぎて困っている、といったところだろうか。

 しばらくすると、マサナガは首を横に振ってから口を開いた。

「申し訳ございません。コウ様のお話から推察するに、勇者とは、人族全体の希望となり、導く人物でしょう。我らの情報網も脆弱になっております故、傑物といった人材に対する警戒は緩んでおりましてな。しかも、子供となりますと、心当たりはございません」

「やはり、難しいか。いや、気にしないでくれ。これは、優先度の低い話だ。マサナガ殿には、隠れ里の説得の方をお願いしたい」

「ははっ。かしこまりました」

 こうして、俺達は、紹介されたドワーフの職人の元に、マサナガの息子、マサユキの案内で向かうことにした。

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