第18話
「単刀直入に言おう。このままでは、人族に未来はない。よって、試練を与えることにした」
自分自身の試練でもあるのだが、そこは、教える必要はなかろう。
「なん、ですと……?」
ミゼリーは、突然の宣言に、絶句してしまった。そりゃ、そうだ。慎ましやかに暮らしていたのだから、とばっちりも良いところだ。
「ふむ。すまないな。誤解させてしまった。試練を与えるのは、人族全般とはいえ、この里の者には、俺の協力者になってもらいたいんだよ」
そして、俺の知る世界情勢を語って聞かせる。
「つまり、これは人族の問題でもあり、神々の問題でもあるわけだ。神々の不手際に巻き込んでしまうのは申し訳ないと思うんだが、どうだろう、手伝ってもらえないか?」
精一杯、威厳のある表情をキリリと作り、説得してみる。
「外の世界では、そのようなことになっておりましたか……」
この里のダークエルフは、森の管理を細々と続けており、基本的に外に出ていかない。生活面で外部と取引があるのも、移住してくる前からの限られた相手ばかりのため、変化に気づいていなかったようである。
結果、緑山さんが地球に行った後も、伝統的な生活を続けていたらしい。
これは、自給自足で事足りる彼らだからこそ成立していた話である。
「どうだい? ここのダークエルフだけが、真面目に働いていたと知った感想は? なぜに、自分達だけ、神の恩恵を賜れなかったのか、と、不満に思わないか?」
「そ……そのようなことは……。しかし」
不満を口にしはしなかったが、神に見捨てられていた事実を知り、ショックは隠せないようだ。たぶん、見捨てられていたわけではなく、お願いされなかったから、気づいてもらえなかっただけだと思うけど、それは、俺の知ったこっちゃない。
「俺はね。だからこそ、この森のダークエルフには、価値があると思っているんだよ。神に頼らずとも生きてきた君達だからこそ、これからの世界のあるべき姿に貢献できると信じている」
これは、割と本音。
「我々だからこそ……」
「これから先、神の救いの手はなくなっていく。そうなると、魔物もこの世界に溢れることになるだろう。そうなった時、この世界を守るのは神ではなく、この世界で生きる君達自身だ。この世界で地に足をつけ生きているのは、君達なんだから」
「我々は、神から見放されるのですか?」
「少し違うけど、そういうことになるかな? でも、それで、何か不都合があるのかい? 君たちは、こうやって、神の手を借りずに、立派に生活しているじゃないか」
「しかし、我々は、魔物と戦う術は知りませぬ。確かに、私がまだ老いを感じ始める前には襲われることもありましたが、それもずいぶんと昔のこと。我らエルフ族が長命とは言え、衰退は避けられませぬ。獣を狩る知識はあっても、魔物を狩る知識は、多くが失われてしまっております」
「ふむ。それは、大丈夫だろう。人族を見守るのは神の務めだ。我々は、人族を見捨てるわけじゃない。ただ、現状、あまりに過保護だ。これからやろうとしていることは、何もかもを神が解決するのではなく、人族に自立を促すための試練なんだ。獣を狩る知識があるということは、戦う知識があるということだ。困ったことに、外の世界では、魔物と戦う知識どころか、獣を狩る知識すら消えてしまっている。つまり、魔物から身を守る以前に、自分達で食べ物を手に入れる手段すらないということだ」
「なんと……」
ミゼリーが思っている以上に、ヤバい状況であることを、俺自身が説明しながら感じていた。
マジで、モンスターどころの話じゃねーな。
ふと横を見てみると、俺とミゼリー以上に深刻な表情になっている者がいた。
森の守り神、ユグドである。
「あ、あわわわわ……。コウ様。どうしましょう?」
「うん。マジで、どうしようかね?」
明日食うものにも困るようなことになれば、モンスターと争う前に、近隣住民が争い始めてしまう。
モンスターとの戦い方より先に、生活基盤の確保だな。
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