第17話

 メニューを開き、さっき会話したばかりの相手に呼びかける。

「おい。そこの創造神」

『はい。どうしました?』

「どうしました? じゃねーよ。何すか! 知恵と知識の神、って!?」

『えー? だって、その方が何かと便利そうでしょ? それとも、いちいち、実は異世界人で、部外者だけど他にやることもないから世界の仕組みぶっ壊して、堕落した人族に神に代わって鉄槌を下します。なんて、説明するつもりです?』

「元も子もないこと言いますね……。その通りだけど」

 しかも、緑山さんの説明でも、まだ控え目な表現なのが、またムカつく。

『実際、知識にかんしては、コウさんは僕に劣らないというか、僕以上かもしれないんだから、問題ないと思うよ?』

「自分で創った世界の仕様くらい、ちゃんと把握しておいてくださいよ。ってか、緑山さんが落とし込んだ内容しか知らないんだから、俺の方が上ってことは、ありえないでしょ!?」

『ふっ……。コウさん。人ってのは、忘れる生き物なんだよ?』

「あんた、神様だろが!?」

『てへっ!』

 ぷつんと脳の血管が切れそうになったタイミングだったが、文句を言う前に通話を切断されてしまった。

 しかも、どれだけ文句を言ったところで、緑山さんの提案が、もっとも効果的なのは、理解できたのが悔しいところだ。


「くそぅ……。えーと。そういうことで、知恵と知識の神、です。でも、俺を呼ぶ時はコウだけで大丈夫です」

「おお! なんと、寛容な。しかし、崇高なる神に対して、そのように軽々しく振舞うことなど、できようはずもございません」

 俺の妥協案を、あっさりと否定されてしまう。

「でしたら、コウ様のことは、賢者コウと呼ばれるのはどうでしょうか? コウ様は世界を導かれる御方。しかし、神であることを明かすのは、不都合も多く、できれば伏せておきたいとお考えなのですよ」

 どうにか言い包めようと思ったが、先にユグドが妥協案を提示してくれた。

 賢者という肩書も、千年近く生きている相手に対してどうなの? と、思わなくもないが、神と崇められるよりは、マシな気がした。

「なるほど。そういうことでしたか。かしこまりました。今後は、賢者コウ様と呼ばせていただいます」

 この世界の賢者は、魔法職の上位クラスのひとつだ。INTを高め、気の遠くなる回数魔法を使った者が至れる極地。

 そこにきて、俺。

 使える魔法? 何もないよ?

 レベルも1だし。初期装備だし。

 初級魔法は、街に行けば買えるはずだが、お金が流通していない現状、それも怪しい。だいたい、〈発見〉のスキルを取るために、ステータスはDEXに振ってるから、INTは最低値の10しかない。

 計算式は全然違うけど、偏差値10と、大差ないレベルだ。いや、INT50なんて、けっこうあっさり到達するから、偏差値2と表現しても高く見積もりすぎかもしれない。まあ、偏差値の下限は25、理論的にはもっと下もあるとしても、そうそう起こることはないはずだから、そもそも比較できないのはわかってるんだけどさ。

 しかも、困ったことに、エルフという種族は、長命なこともあり、総じてINTの高い種族である。当然、魔法のエキスパートも多い。

 ただ、森と共存する種族であるため、魔法に秀でた者と、狩猟系の能力に秀でた者とに大別される。確か、俺の記憶では、魔法のエキスパートよりも、狩猟系のエキスパートの方が人口比率は高かったはずだ。

 でもさ。

 目の前の長を務める人物が、どっちなのか、なんて、だいたい予想がつくでしょうよ?

 千年近く生きている人物を相手に、40年ちょっとしか生きてないただの会社員が、賢者を名乗るハメになるとは……。童貞でもねーし。

 これからも、こういうことが頻繁に起こるのかと思うと、すでに心が折れそうになってしまっている。

 それでも、まあ、やるしかないんだけどさ。

 さて……。

 まだ俺がやるべき最終目標も定まっていない段階で、どこまで言い包めることができるだろうか? 我の強いプランナーの手綱を操ってきた能力が、どこまで通用するのか、試練の始まりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る