第13話
最初の目的地はエルフの辺境都市であるエルダールだ。
途中、いくつもの集落を見かけた。ゲーム内にも、いくつか集落や小規模な町をフィールドに配置してあるが、これほど多くはないし、街道沿いのようなわかりやすい場所にはない。
開発初期の頃は、街道沿いに点在していたのだが、プレイヤーさんに探してもらった方が楽しいだろうから隠そうと、安藤さんが言い出した結果ではある。
それでも、エリアボス毎にフィールドを区切っているのだが、1エリアに1つあるかどうかなはずなのだが、この世界では1エリアに3つも4つもある。
俺が通ってきただけでも、これだけの数を見かけたのだから、全体としたら、その数倍はあるはずだ。
「そりゃ、人が外的要因で減る要素がほとんどないんだから、町も集落も増える一方だわな」
神の恩恵によって、退屈なほどに平和である。衣食住にも困らず、命が無暗に奪われることもない。
娯楽らしい娯楽もない。
街の中にコロシアムがあったが、誰が命をかけて戦うものか。案の定、長いこと使われていない。不思議なことに、演劇や音楽会といったものも催されている気配はなかった。もしかしたら、技術を磨いて生計をたてるという思考がないせいかもしれない。与えられたものを貪り食う。そんな感じなのだろうか。
承認欲求はあるようだが、基本的に狭いコミュニティで満足してしまっている。王様になりたいと願えば、おそらく叶うだろう。しかし、王様になって何をする? 王様としての特権など、何もないのに。
富を独占したいと野望を抱いても、張り合う相手は神なのだ。
この世界の神は、過剰なまでに恩恵を与える。人族に甘い。しかし、だからといって、何でも許してくれるわけじゃない。
ちゃんと、神罰を下すのだ。そりゃ、働き者の神達なので、その辺もきっちりしっかり手を抜かないらしい。
「管理は緩いが、神に飼われている家畜みたいなもんだな」
そんな世界で暮らす人々が、日々やることといったら、そりゃ、セックスくらいのものだろう。
避妊具が発達しているようには見えなかったので、人口は増える一方のはずだ。むしろ、溢れていないのが不思議なくらいである。
そう考えると、神のお節介が始まってから、そんなに時間が経っていないのかもしれない。
ただ、魔法が発達した世界であるが故に、医療は遅れているように感じられた。
死者を復活させることができる世界であるにもかかわらず、病を治す術を知らないのだ。
ケガを魔法で癒せても、病気を取り除くことはできない。病気の原因が病魔であれば別だが、だいたいはウィルスや細菌が原因だ。生活習慣病だって普通にある。むしろ、怠惰な生活で食事しか楽しみのない者も多いので、生活習慣病はけっこう深刻に見えた。
子どもの死亡率も、思っている以上に高いらしい。これは、街中を散策している間に、何度も葬儀を見たので間違いないだろう。
実にアンバランスに感じる。この辺も、神の恩恵の弊害だ。
エリア――この場合は国境になるだろう――を越えると、何やら違和感を覚え始める。
エルフの領土に入ったはずだ。
「あれえ? もうひとつ先だったか?」
俺の記憶だと、エルフの領土に入ると森の質が変わったはずだ。
人間の領土の森は、どこか手つかずで、荒れ放題という雰囲気なのに対し、エルフはしっかり森を管理している。
そのため、木々は人間の領土よりも多いのに、すっきりした印象を受けるのだ。
森を大切にしているからこそ、森の手入れを欠かさないのが、この世界のエルフなのだ。
「このごちゃっとした感じは……、長いこと間伐してないよな?」
鬱蒼と茂る森に入り込み、身の危険を感じる。
人間の領土は、森の管理は専用の山以外ではあまり行われておらず、こういう荒れ放題の森が多い。そのため、迂回して進んできたのだ。
だが、エルフの領土は、基本、森である。
森であるが故に、人間が手を出してこなかったという方が正しい。
つまりは、迂回路があまりないのだ。
それでも、間伐を丁寧に行い、森を管理しているエルフのおかげで、森の中であっても見通しは悪くなかったはずなのだ。
まあ、そういう風にフィールドを作るよう指示を出していたのは安藤さんなんだけど、緑山さんの知識も加味されているはずだ。
「いや、待てよ? あの緑山さんだぞ? そこまで詳細に話を詰めてるか?」
この世界に来る前の緑山さんしか知らなければ、信頼度は高かったのだが、この世界を知れば知るほど、信頼度は下がっている。むしろ、今ではかなりのポンコツ認定だ。仕事中の頼れる姿とは違い、プライベートのいい加減な印象の方が強さを増す。
しかし……。
「まあ、森の管理を辞めちゃうくらいにエルフも堕落しちゃってるって考えた方が良いだろな」
こりゃ、期待薄だな。
こんな所でモンスターに出くわしたら、簡単に死ねるので、少しでも安全に進めるルートを探すため、一度森から抜け出すのだった。
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