第2章 世間知らずと情報通
第11話
世界を直接見て回る。
現状、人間族の街をひとつ知っているだけなので、実は、思っている以上に神の生み出したぬるま湯に浸かっている場所は少ない可能性もなくはない。
あまり期待できないけど。
それでも、現地取材は欠かせない。
取材と称して、旅行したいとか、会社のお金で遊び回りたいとか、思ってないよ? 思ってない。
だいたい、そんな潤沢な予算なかったし。
企画だって、安藤さんの名前がなかったら、きっと通らなかったはずだ。会社としても、Greenhorn-onlineなんて新規タイトルを作るより、安藤さんの代表作であり、今でも続編を待ち望んでるファンが大勢いる、数字の取れるタイトルの方を作って欲しいと、けっこう粘っていたほどだ。
なので、Greenhorn-onlineを作っているという情報は、社外秘である。たぶん、販売ギリギリまで、少なくとも、βテストのテスター募集まで、発表することはないだろう。
「ま、この世界で予算もへったくれもないけどな」
まずは、インベントリに入っている、アイテムを使ってみる。
転移オーブだ。
6つある大陸の初期エリアの街に、最初から移動できるようにしているのだ。
プランナーの中には、最初から転移オーブで移動できるのに反対の者もいたが、メインストーリーがない関係で、導線をこちらが用意する手段に乏しい。そこで、最初から好きに移動できるようにしたのだ。
ゲームデザインだけでなく、ストーリーの秀逸さで名を上げ、神とまで称されるようになった安藤さんが、メインストーリーのないRPGにすると話していた時は驚いたが、緑山さんとの関係を知ると、納得する部分もあった。
「ドワーフが主にいるのは土の大陸で、エルフは風の大陸。緑山さんの助言を信じて、まずは自立してるエルフ探してみるか」
使い方は実に簡単で、メニューが生きてるおかげで転移はすぐに行えた。
シュン、パッ! ってな具合。
これで、目の前の景色は変わっていた。
到着したのは、ウィンドレッドの街。
6つある大陸は、水、風、土、火、闇、光の大陸にわけられる。それぞれの初期エリアにある街の名も、ウォータニカ、ウィンドレッド、アースガンド、ファイアール、ダークッタン、ライトライム、と連想しやすい名前だ。
これは、安藤さんの指示だった気がするが、どうやら、最初から緑山さんによって決められていたようである。
言語も『考えるのが面倒臭かったから、日本語をそのまま共通言語にしてるよ? 定期的に同期して、勝手にアップロードするようにしてるから、何の問題もないんじゃない?』と、言っていた。他の言語は存在しないらしい。そんなに最近できた世界なのかと聞いてみたが、自然発生していた言語もあったのだが、日本語に強制変換させてしまったらしい。
バベルの塔を作った人間に怒り、塔を破壊するだけでなく、言語もバラバラにしたというのと真逆のことをやったというのだ。
何で? の答えは、全部把握するのが面倒だったから、だそうな。全知全能の創造神、それでいいのか? 横着しすぎじゃね? とも思ったが、全知全能に至っていない未熟者ということらしい。
まあ、実際助かっているので文句は言わないでおこう。
ゲーム内では特殊文字で表記され、読むためには手順と根気が必要になるのだが、この世界では普通に読める。だいたい、その特殊文字を考えたの、俺だし。
とりあえず、目についた店に立ち寄り、話を聞いてみる。
「ま、だよな」
案の定、神の恩恵にどっぷり浸かっており、お金も必要ない。
欲しい物があったら、持って行って良いよと、軽く言われた。
やはり、これが当たり前の世界なのだ。
「エルフの国は、けっこう遠かったよな」
各大陸に人族は国を興している。全ての大陸に人間族の国があり、初期エリアの街も、その国の領土という扱いだ。加えて、人間族以外の人族も、同じく国を興している。ドワーフの国であったり、エルフの国であったり、そこは様々だ。天使のように排他的な種族もいれば、獣人のように異種族が仲良く暮らす国もある。
エルフの国は、どちらかと言えば排他的だが、他の種族との交流がないわけではない。むしろ、文化交流は盛んだったはずだ。ただ、超長命なエルフの文化に、他の種族は馴染めず、互いに嫌煙する傾向はある。
ウィンドレッドからエルフ族の国に向かう途中、中間地点に人間族の国とエルフ族の国それぞれの都市があり、交流していたはずだ。そのため、このウィンドレッドからエルフの国に向かえば、途中、人間族の国の王都も含めて、大きな都市を3つは巡れるはずだ。
順番的には、ウィンドレッドを出発、蛇行しながら北上すると、エルフ族の都市、人間族の都市、人間族の王都、エルフ族の王都だ。
この他にも、ウィンドレッドと同規模か、小さめの町もあちこちにある。
「ひとつずつ回ってみるか」
旅の準備をテキトーに済ませ、北に向かって出発した。
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