第8話
緑山さん、創造神イネトが創った世界は、意図せぬうちに、平和で平等で、ひどく退屈なものに変貌している。それが悪いのかと問われると、俺にも正解はわからん。たぶん、悪いってことはないと思う。じゃあ、この世界で死ぬまで暮らしたいか? と、問われると、ちょっと、いや、かなり嫌だ。
それでも、世界のひとつの在り方としては、間違っているとまでは言えない気がする。
俺が暮らしてきた地球という世界も、プレイヤーによってルールは好き勝手に解釈されるし、バグや抜け道だらけのクソゲー中のクソゲーを体現したものだ。それでも、それなりに楽しく生きてきたつもりだ。
どっちの世界がよりクソゲーかと問われると、返答に困る。
ただ、仕事しているのかどうかさっぱりわからない神様しか知らない人間としては、この世界の神様は働きすぎじゃね? とは、思う。
ウォータニカの街を改めて見て回ると、誰も彼もが穏やかで、満たされているようなのだが、それだけだ。子ども達は無邪気に走り回っているし、それを見守る大人たちも日向ぼっこをしながら時が過ぎるのを待っているだけに見える。
こんな何もない日々を過ごして、楽しいのか? という、素朴な疑問を浮かべているのは、これが当たり前だと思っていない俺だけなのだろう。
緑山さんの話だと、この世界の神は、創造する能力は持っていないらしい。そこは、創造神として頂点に立つイネトにしかできない奇跡なのだそうだ。
ただ、イネト以外の神には行えない創造する能力を持っている存在はいる。
人族だ。人間に限らず、エルフやドワーフといった、イネトによって創造された知性ある種族達である。
もちろん、無から何かを創り出すことができるわけではない。
イネトが創造した世界の理の中で、創意工夫によって新しいものを生み出す能力のことである。それが、ゲームと違い、レシピに頼らず、何かを発明する能力を有している点である。
つまりは、イネトも人族の好奇心と努力によって、イネトですら想像することのできない世界に作り変えて欲しいと願っているわけだ。
だというのに、そんなことが起こる気配がない。
だって、不満がないんだもの。
不便に感じてないんだもの。
争いのタネがないんだもの。
不安に苛まれることがないんだもの。
イネト以外の神に、創造する能力はない。でも、この世界にすでにあるものを模倣して複製することはできる。
「なんで、できちゃうようにしちゃったかなあ……」
神様に何度祈っても、何の手応えもないことに不満を覚え、無神論者になった人間が言うのもなんだけど、奇跡をホイホイ使われるのは、ダメなんだな、と、こんな所で思い知らされるとは思わなかった。
「どうにかして、って言われてもねえ……」
俺、ただの会社員だぜ?
しかも、元。
現在、無職。正直、この世界に飛ばされて、冒険者として生きていくことに、心躍らせていたのは、ここだけの話だ。
そんな感情も消失した。
冒険する必要ないじゃん。
1日と経たずに、冒険者稼業は廃業ですよ。
この世界の救世主?
危機が迫ってるわけじゃない。
無理に、この世界のシステムを崩壊させて、誰が喜ぶ?
津々浦々にいる神様に、イネトからの伝言を持って行って奉仕をやめさせたとして、誰が幸せになる?
誰も喜ばないだろうし、誰も幸せにならないでしょ?
たぶん。
でも……。
どうにも胸の奥がモヤモヤする。
気持ち悪い。
「そうか……。俺って、ただの会社員じゃん。その会社で、何をやっていた?」
俺はゲームクリエイター。
想像したものを創造するのが、俺の仕事。
「ハハハ……。何だ。答えはシンプルじゃねーか。この世界でもアシスタントディレクターの仕事をすれば良いだけじゃね?」
ディレクターはイネト。
マッチポンプを演出するのが本業だ。
俺は、自然と笑みを浮かべていた。
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