第7話

「え? 買取は、やってない?」

 集めた素材をいくらか売ろうと店主に話しかけると、怪訝な顔をされてしまった。何を言ってるのかわからない、という雰囲気すらある。

 何言ってんだ、こいつ? は、こっちの方だ。

 しかし、話を聞くうちに、事態が飲み込めてきた。

「嘘だろ……」

 今話している店主。店主と呼んでいるが、そもそも、ここを店と呼んでいいのか怪しい存在だった。何しろ、物を売っていないのだ。よくよく見てみると、確かに値札が存在しない。

 じゃあ、店先に物を並べて、何をしているのかと言うと、欲しい人に配っている。

 配っている。無料で。タダで。何の見返りもなしに。

 え? って、思うよな。

 俺だって思う。

 でも、それが現実。

 どうやって利益を出してるんだ? って、思うじゃん?

 話は簡単。利益を出す必要がない。

 え? って、思うよな。

 俺だって思う。

 でも、それが現実。

 利益を出す必要がないとは、これ如何に? だろ?

 これも話は簡単。

 生きていくのに必要な物は、神様にお願いすればもらえるから、らしい。

 今現在、店先に並んでいるものも、全部神様にもらったものなんだと。

 お金? 何それ? 何に使うのさ? って訊かれたよ。

 そりゃ、そうだ。

 欲しい物は神様にお願いすれば、たいていのものはタダで手に入るんだもの。家だってもらえちゃう。この街を散策している時に感じた、妙に裕福な家庭が多いと感じたのは、間違いではなかったのだ。いや、ある意味、間違いだったというべきか。誰もが、貧困という問題に縁がなかったのだ。貧富の差が存在しないのだ。

 ただ、神様も忙しいので、ひとりひとり聞いて回る時間はないから、こういった店? というか卸先? に、こまごまとした物はまとめて届けて、店主? 見張り番? に配らせているんだそうな。

 だから、物を持ち込んでも買い取るというシステムが存在しない。だって、お金が流通してないんだもの。

 店番の男性も、神様に与えられた役割を果たすために、律儀にいるが、不届きな輩に持ち去られても、特に困ることはない。だって、神様に頼めばまたもらえるんだもの。いたってシンプルな、NPCみたいな存在だ。

「じゃ、じゃあ。武器が欲しいって神様に頼めば、それも貰えちゃったりする?」

「物騒な人だな。そんなもの持って、誰を殺そうと思ってるんだい? 人殺しは、神罰ものだぜ? やめときな」

「え? いや、モンスターを、ね」

「ホントに、変な人だねえ。わざわざ命を懸けて自分で戦うつもりなのかい? 止めはしないけど、守護神様のご加護で、街の近くをうろつくようなモンスターは、すぐに駆除してくれるから、見かけることも滅多にないぞ? オレも詳しくは知らないが、街の近くだけじゃなくて、眷属様達が大陸中を守護してくださってるって話だから、探すだけ無駄じゃないかね? モンスターじゃなくて、野生動物だったら、見つかると思うが、それだって森の守り神様が目を光らせて下さっている……」

 どうりで門は開けっ放しで、門番もいないはずだ。外敵が侵入する心配もないんだもの。

 そして、ゴブリンを討伐して去っていった剣士の正体も判明した。

 あれが守護神の眷属だったらしい。


 どうやら、この世界。衣食住に留まらず、身の安全までも神様が保障してくれているようだ。

 俺は、怪訝な顔をされながら店を離れると、メニューを操作した。

『ほいほーい。どうしました?』

「どうしました? じゃないですよ!? なに、このクソゲー!?」

『え?』

 俺が通信できる相手なんて、ひとりしかいない。

 この世界の創造神である。

 しかし、話をしていくうちに、その相手も唖然としているようである。

『なに、そのクソゲー』

「いや。緑山さんが創ったんでしょ? ってか、緑山さんがクソゲーって表現しちゃうのも、どうなの?」

『いやいやいや。いくら僕が未熟者の神だからって、そんな仕様にはしてないって。確かに、僕がクソゲーって言っちゃったらマズイけど、……え? マジなの?』

「マジみたいですよ?」

『マジかあ……。あいつら、‶人族を守れ″っていう僕の命令を、そういう風に捉えちゃったかあ』

「この世界の神様って、そういう存在なんですか?」

『ああ、いや。厳密には、もっと細かく役割分担させてるよ? でも、大きく括ると、そうなるかなあ? それにしたって、僕の与えた能力を、何、無駄遣いしてるんだよ、って話だよ。融通が利かない子達ばかりだとは思ってたけど、そこまでとは……。プログラムで出来てるNPCじゃないんだから、僕の意志をくみ取ってくれるのを期待してたんだけどなあ』

「緑山さんのことだから、その辺ちゃんと指示して行かなかったんでしょ? だいたい、言葉足らずなんだから……。そりゃ、大前提を守ることを優先しますって」

『……返す言葉もございません。どうにか、ならない?』

「神様が相手じゃ、無理ですよ。緑山さんがこっちに戻ってきて、直接説得するのが手っ取り早いんじゃないですか?」

『それやっちゃうと、コウさんをそっちの世界につないでる術式解けて、消滅しちゃう可能性大なんだよねえ。僕も、コウさんには消えて欲しくないから、どうにか方法見つけてもらえません?』

 やっぱり、この神、使えねー。っていうか、この世界の神様、どいつもこいつもポンコツなのか?

 それでも……。

「はあ。ちょっと考えてみますよ」

 そう言うしかないだろ?

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