第6話
ふわりと無から生まれたみたいにそれは現れた。
「ゴブリン2体か。ちょっとキツイか?」
ゴブリンは、最弱モンスターに位置する。ただし、これは単体の時に限る。数が増えれば増えるほど厄介さが増し、ランクも上の存在になってしまう。更に、ホブゴブリンやゴブリンロードといった上位種が指揮官に加わると、駆け出し冒険者には手が負えなくなる。まあ、この辺にはゴブリンロードどころか、ホブゴブリンも出ないはずだが。
しかし、そんなことよりも、頭を過る思いを止められなかった。
「あいつら、かわいくねーなあ」
ゲーム内のモンスターは、VRを活用して対峙することになる。そのため、リアルなモンスターにしてしまうと、精神をやられかねないので、威圧感を与えないキャラデザにしているのだ。
対して、出てきたゴブリンは、特徴はゲーム内と一致するものの、質感が別物のせいで、瘴気によって顕現されたクリーチャーとは思えないほど生物染みて感じられる。
まあ、おかげで、相容れない存在であると本能が理解してくれた。
俺は少し離れた位置から弓を構え、狙いを定める。
AGIは最低値なので、初撃で落とせなければ、2体同時に相手しなければならなくなるだろう。弓の初期性能の命中率は70%に設定してある。これに、DEXによる補正も合わせれば、100%命中できるはずなのだが、一抹の不安も残る。
この世界でも、これが適用されるのか? という疑問だ。
疑問という点で言えば、弓によるダメージ量は、武器性能によって固定で、ステータスに左右されないはずなのだが、これも適用されるのか、やってみないとわからない。この世界では、当たる場所によってダメージが変化する可能性も考慮するべきだろうからだ。
「まあ、やるしかないか」
これだけ絶好のシチュエーションで勝利できなければ、この世界での戦いに勝つことは不可能というものだ。
ギリギリと弓の弦を引き、狙いを定める。
視線の先にいるゴブリンは、まだ俺に気づいていない。
……が。
「はい?」
間の抜けた声が出てしまった。
矢を放とうと思った直前、それは起こった。
突如、どこからともなく完全武装した剣士が出現し、横薙ぎ一閃で2匹とも真っ二つにしてしまったのだ。
そうかと思ったら、何事もなかったかのように、どこかに飛び去ってしまったのである。
こちらがエンカウントしているわけでもないので、横取りと言うには微妙なタイミングだが、呆気に取られてしまう。
「なんじゃ、ありゃ?」
呆然と剣士が消え去った方角に目を向けるも、すでに姿は見えない。
いかん、いかん。
ハッと我に返り、周囲を警戒する。
しかし、他のモンスターは見当たらない。どうやら、この世界のポップ率は、ゲームと違いかなり低いようだ。
そりゃ、そうか。創造神の計算によって生じる現象ではないのだから、コントロールもできないのだろう。
すっかり緊張感が抜け落ち、改めてゴブリンがいた場所に向かってみることにした。
「ドロップ、残ってるんだな……」
最低ランクの素材アイテムが、草地に2つ転がっていた。先ほどの剣士が持っていくべきものなのだろうが、あの身なりから察するに、何の関心も持たなくとも不思議ではない。
「このまま放置するとどうなるのか、知りたいところだが、今はありがたくもらっておくか」
この世界の相場が不明なため、所持金が心許ない現状、少しでも稼ぎは多くしておくべきだろう。ゲームでも、所持金を稼ぐのには、相当苦労する設計になっているのだ。
そのまま素材集めに戻り、ウォータニカの街を1周する頃、それは起こった。
『スキル〈発見Ⅰ〉を取得しました』
『Fランク採取ポイントで発見できるアイテムが少し増える』
『Eランクまでの採取ポイントを発見できる』
『レベル1の罠を見つけることができる』
『Fランクモンスターの気配を見つけることができる』
【取得条件/規定値以上のDEXの時、アイテムを定められた数量採取する】
視界の中に、SEとともに突如浮かび上がるアナウンス。
「よっしゃ、取れた」
もともと、生産職を目指すプレイヤー向けのスキルだ。採取の効率を上げることと、生存率を高めるための性能になっている。先々、ダンジョンなどの探索も視野に入れると、トラップ系の発見も重要になってくるだろう。
やっぱり、生き残ることを最優先に考えるなら、このスキルは育てていくべきだと改めて自分に言い聞かせる。
「ま、何はともあれ、最初の目的は達成だ。一度街に戻って、集めた素材をいくらか売って、ゴールドに変えないとな。宿も探さなきゃだよな? いや、自分で家を建てるか? さすがに、早すぎるか。やっぱ、しばらくは宿生活だろうな」
結局、1回もモンスターを討伐することなく、当然、レベルも上がることなく、再びウォータニカの街に戻ることにするのだった。
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