第4話
とぼとぼとウォータニカの街を見て回る。
確かに、見知らぬ街ではあるが、要所要所の施設や建物は、Greenhorn-onlineと同じみたいだ。街の規模も、だいぶ大きく感じるが、概ねイメージ通りである。
水の大陸のスタート地点に設定されている街ではあるが、水路や河川で入り組んだ造りになっているというわけでもない。多くの日本人がイメージする、中世ヨーロッパの古い街並みに近いレンガや石材を使ったシンプルなものだ。ただ、妙に裕福な家庭が多い気がするのだが、そういう生活水準の世界なのだろう。
「とりあえず、育成方針を決めないとな」
元々、短期のテストプレーだけで、正式なα版に移るつもりだったので、可もなく不可もなくのステータスにしてしまっているのだ。しかし、それだと、中長期的な視点で考えると、非常に心許ない。
このゲームは、安藤さんの要望で、尖ったプレーをする人が強くなりやすいようにデザインされている。それでも、単にステータスを極振りにすれば良いというものでもないのが、なかなかに厄介なところだ。
緑山さんが即座に問題を解決してくれるなら、街中でやり過ごすという手もあるのだが、おそらく期待薄だろう。あの人のことだから、解決策を見つけても、俺がこっちの世界である程度の成果を出すまで、飄々と白を切り続ける可能性もあるくらいだ。
「と、なると……。生存率を上げるために、〈発見〉のスキルは早いうちに取っておきたいな」
生産職向けのスキルであるが、フィールドに落ちている素材やアイテムを効率良く見つけられるだけでなく、モンスターの出現位置を事前に察知することもできるようになる。このスキルを育てていくだけで、かなり上級のモンスターが相手であっても、自分が不利な状況で遭遇する事態を回避しやすくなるのだ。
ただ、問題がひとつ。
「このスキル、DEX上げないとダメなんだよなあ」
主なステータスには、HP、MP、STR、VIT、AGI、INT、DEXが存在する。MD(MagicDef)もあるのだが、これは任意で成長させることができないものなので、今は無視だ。
HPが0になれば、死を意味する。そのため、可能な限り高める必要がある。
MPは0になっても、すぐに命の危険に直結するものではないのだが、これがなければ一部の魔法とスキルを除き使えない。なので、これも、あるに越したことはない。
STRは力の分野。要は腕っぷし関係だ。剣や盾で戦うとなると、必要になるステータスである。さらに、装備品には重さの項目もあり、STRがないと上位の装備品を身につけることもできない。
VITは生命力の分野。打たれ強さに置き換えても大きな問題はないだろう。これが高いことで、受けるダメージなどを軽減できるようになる。これも、欲しい。
AGIは素早さの分野。回避率や行動間隔などに関係してくるので、やっぱり欲しい。
INTは賢さの分野。ただ、魔力にも関連付けられているので、Greenhorn-onlineでは、魔法の性能に直結するものだ。その他にも色々意味のある数値だが、やはり魔法関連にとって最重要な数値である。
剣と盾の物理系統であればSTRを、魔法系統であればINTを上げていくことになる。どちらとも、ということもできなくはないが、そんな悠長なことはやっていられないので、どちらかに専念した方がいいだろう。
そこにきてDEXである。
これは、器用さに分類されるもので、生産職をするなら重要なステータス。でもね。ぶっちゃけ、戦闘では余り重要視されない。いや、重要な数値なんだよ? 会心率とか、ガード率とか、これで左右されるんだから。でもね。やっぱり、他のステータスと比べると、優先度は低くなっちゃうわけよ。
将来、製品版が出た後で、こいつに特化したプレイヤーが天下を取る可能性はあるけども、かなりレアケースなんじゃないかな?
「とはいえ、背に腹はかえられないか?」
身の安全を確保するためには、やはり〈発見〉のスキルは欲しい。それに、生活費を稼ぐにしても、職人系のスキルは持っていて損はないはずだ。そうなると、DEXに注力してもいける気がする。
それでも、踏ん切りがつかないのは、現状、〈発見〉を取得しようと思うと、虎の子のスキルふり直しアイテムを使って、DEXに極振りしなければならないからだ。しかも、このスキルを成長させるためにも、DEXを上げ続けなければならない。更に困ったことに、この振り直しアイテムも、救済用のアイテムのため、使えるのはレベル10までなので、決断は今のうちにしなければならない。
「仕方ない」
俺は、インベントリに初期収納されているアイテムを使って、DEXに振り直すことを決断するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます