第3話

 納得した訳ではないが、否定できる材料もない。

 とりあえず、この世界が緑山さん――創造神イネト――の造った実在する世界だとしても、俺のやることはあんまり変わらない気がした。

 何のためにこの世界に来たのか?

 テストプレーのためである。

 ただ、ちょっと命がけでやらなければならなくなっただけだ。

 ……。

 だけだ、じゃねーよ。

 何だよ、それ。命がけって!

 はあ……。

 幸い、製品版では実装する予定のペナルティスキルに関しては、β版までは入れないことになっていたので、取得すると不利になるものはないはずだ。

 ログアウトも離席も使えないのだから、最悪のペナルティスキル〈不眠不休〉の条件なんか3日とかからず取得してしまう。それがないだけでもありがたい。

 ちなみに、〈不眠不休〉とは、健康問題を考慮して、連続ログイン時間が一定時間以上になると問答無用で取得してしまうものだ。

 スキルの効果は常時HPとMP半減の上、自動回復の量よりも多いスリップダメージが入るというものだ。回復ができないこともないが、回復量はかなり低い。その上で、何かしらの状態異常も常に入ってしまうというものだ。はっきり言って、ログインしても、何もできない。

 サービス開始後には、このペナルティスキルを一定数が取得してしまうことが予想されているが、ゲームのせいで病院に送られるような事態にはしたくない、という安藤さんの強い要望で実装されることになっている。じゃあ、先に公表しましょうか? と、議論になったこともあるが、びっくりさせたいから非公表で、という安藤さんの我がままが採用されている。

 あの爺さん、茶目っ気があるというか、時々Sっ気を出すのは、止めて欲しい。対応に追われるのは、開発チームではなく、運営チームの方なんだから。

「しかし、戦闘スキルもなければ、碌な装備もないんじゃ、先が思いやられるな」

 インベントリの装備袋には、初期装備が入っている。

 スキルの取得方法も、だいたいは頭に入っているので、使えば良いだけなのも理解しているのだが。

 いや、待てよ?

 命がけのつもりでいたが、そもそも、この世界で戦う必要があるのだろうか? ゲームじゃあるまいし。

「この世界にもモンスター出るのか?」

『出るよ』

「うお!? まだ、つながってたんですね!」

『だっひゃっひゃっひゃ。僕、神様だよ? このくらい、チョチョイのチョイってやつだよ』

「じゃあ、神様。何でモンスターなんて物騒なものまで創っちゃったんです?」

『良い質問だねえ。……答えは、僕は創ってない』

「は?」

『いやね。その世界って僕が未熟だったせいで、隙間だらけみたいでさ。僕にはどこに隙間があるのかわからないんだけど……。それで、別の世界の見知らぬ邪神の瘴気が漏れて入ってきちゃってるの。そりゃ、もう、閉め切ってるはずの部屋の中にコバエが入り込んでるみたいに。それが、その世界の魔力とか素材とかと結合したり何だりして、モンスター化しちゃってるわけよ。困った話だよね。でも、そのおかげで、ちゃんとアイテムをドロップするよ? すごくない? ゴールドは滅多に落とさないと思うけど』

「何で、そんな余計なところまでゲームを再現してるんですか」

『逆、逆。その世界のルールをゲームで再現したの。まあ、もともと日本のRPGとその世界のルールが酷似してたから、助言をもらいに行ったっていうのが正解だけど。上手いこといかなくて悩んでた時に、色んな世界を参考にしようと思ってうろついてたら、たまたま見かけてさ。安藤さんって、神様って呼ばれてるじゃん? 同業者だ! って、思っちゃったわけよ。そうでなくても、この国って八百万の神の国じゃん?』

「創造神にも同業者っているんですね」

『いるいる。その世界の創造神は僕だけだけど、他の世界を造ってる一人前の創造神も多いよ? あ、ちなみに、その世界には僕が創ったり呼んだりした他の神がいるから、困ったら頼ると良いよ』

 創造神が未熟者な時点で、だいぶ不安なのだが、言わない方が良いだろう。

「スキルの取得方法や、生産職関係も俺の知ってる通りで大丈夫ですよね?」

『その辺は、大丈夫。でも、生産職の分野はあまり発展してないはずだから、レシピが手に入りにくいかも。それでも、初期のものは問題ないと思う。ただ、ゲームと違って、発明する余地があるから、僕もコウさんも知らないレシピが生まれてる可能性はあるかな』

「了解っす。あと、この通信って、俺からも普通にコールできるんですか?」

『うん? そうだね。できるようにしておこうか。僕も、神様パワー発揮して、24時間年中無休で対応できるようにしておくよ。でも、大事な会議中とかだったら、後回しになっちゃうかも?』

「会社員の仕事優先かよ……。まあ、いいや。ないよりもマシですから、頼もしいですよ」

 口ではタメ息交じりの呆れた雰囲気を出してしまったが、実のところ、本心から頼もしいと思っている。

 現状、この世界に知り合いはひとりもいないわけで、この通信だけが、生命線なのだから……。

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