第2話
「いやいやいや。緑山さん。冗談きついですよ。こうやってボイスチャットできてるんだから……」
自分の身に起こっていることなのだから、薄々感じているものの、素直に認められるほど若くもない。
それに、相手がテクニカルディレクターなのだから、特殊なプログラムによってドッキリを仕掛けている可能性も否定できないではないか。
『まあ、僕も正直、驚いてるよ? 通信が生きてるとは思わなかったから。でも、これ、ゲーム内のシステムを利用してるけど、別回線だから、僕以外は使えないんじゃないかなあ?』
「別回線?」
『別回線っていうよりも、ぶっちゃけ、神パワーって言った方が正確かな?』
「は?」
『僕ね。実は、コウさんが今いる世界の創造神なの。Greenhorn-onlineって、その世界をベースにしてるんだよね』
「いや。ちょっと、何言ってるかわからないんですけど……」
『え? だから、僕がその世界の神様で』
「そうじゃなくて!! は? 神様? 冗談言ってないで、どうすれば元に戻れるんですか? ログアウトすれば」
『ストップ! ログアウトだけはダメえ! それだけは、マジでダメ! 下手したら、こっちにもそっちにも帰れなくなって存在が完全消滅しちゃうー』
「嘘でしょ?」
『マジ。緑山としてではなくて、その世界の創造神としてマジの忠告』
「じゃあ、どうしたらいいんですか!?」
『それがわかれば、僕もこんなにのんびりボイスチャットしてないよお。そもそも、僕にも原因がわからないバグだから、どうすればいいのかわからん』
「そんな無責任な。神様なんでしょ?」
『いや、神様だよ? でも、コウさんも知ってるでしょ? Greenhornって、未熟者って意味だってこと』
「え? もしかして……」
『ビンゴお! 僕、未熟者の神だから、世界創造を手伝ってもらうために、安藤さんに協力してもらってるんだよお! あ。これ、知ってるの安藤さんだけだからね? それでね。僕がそっちの世界に帰るための術式をサーバーに保存しておいたんだけど、どういうわけだか、コウさんにだけ反応しちゃったらしくて、色々混ざった状態で転生しちゃったみたい』
「軽っ! 軽すぎでしょ!? どうすんのさ、これ。どうすんのさ!?」
『んー。こっちでも色々調べてるけど、自分で組んだプログラムながら、さっぱりわからないんだよね。エラーらしきエラーもないし……。しょうがないから、そっちで僕の世界の手直ししておいてくれない? ゲームのバージョンアップだと思ってさ。コウさんだったら、信頼できるクリエイターだし。その間に、僕も原因探ってみるからさ』
「もう一度確認しますよ? これ、本当に、仕様じゃないんですね?」
『うん。完全にバグ。しかも原因不明。このままじゃ、発売は難しいんじゃない? 最悪、僕がそっちに帰るのを諦めて、サーバーから帰還の術式取り除けばいけるけど、それでコウさんが戻って来られるわけじゃないね。むしろ、コウさんが消滅しちゃうかもしれないから、下手に手を出せない。よって、僕もそっちに帰れないのよ』
どうやら、本格的に認めるしかなさそうである。
だいたい、今もボイスチャットをつなげたまま、この世界をあれこれ観察しているのだが、自分の知っているVRゲームとはかけ離れすぎている。
周囲を行き交う人々だけでなく、この体が、バーチャルのものとは思えないのだ。しかし、だからといって、生身の体なのかというと、そういう感覚とも少し違うと感じ始めていた。
「はあ。仕方ないですね。やれるだけやってみますよ。その代わり、成功報酬はきっちり請求しますからね? 失敗しても、働いた分は請求しますけど」
『え!? ホント! 言ってみるもんだね。やっぱり、コウさんは頼れる人だ! その世界、僕が心血注いで創り上げたんだけど、どうにも思ったように発展していかなくて、どうしたものかと悩んでたところなんだよね。Greenhornの神、イネトの名において、創造神の右腕に定めるので、道筋を整えてください。報酬は、神にも無理なこと以外なら最大限努力しますよ』
「はいはい。それじゃあ、神の右腕として、何か便利な能力でもくれますか?」
異世界転生と言えば、何はなくともチートスキルでしょ。
『え? そんな便利なもの、無理だよ?』
「え?」
『いや、だって。バグでそっちに行っちゃってるんだもん。通信できるだけでも、奇跡みたいなものなんだよ?』
「え?」
『まあ、その世界って、そもそも地球のシステムを真似して作ってるし、Greenhorn-onlineとほぼ同じだから、アシスタントディレクターとしての知識がチートスキルみたいなものだよ。一応、あちこち不安定になってる部分はこっちから修正できそうだから、手を加えておくけど、せいぜい整える程度だね。それも、チートレベルにまで手を出すと、下手したらコウさんの存在消しちゃうかもしれないから、やめておいた方が賢明だよ』
この神、使えねえー。こりゃ、報酬も過度の期待はしない方が良さそうな……。
こうして、なし崩し的に、俺の異世界生活は始まってしまったのだった。
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