神の右腕、何本までなら許される?
おとのり
第1部 新たな神の降臨
第1章 自作の異世界
第1話
その瞬間。俺の人生は変わった。
VRの準備を整え、異世界での冒険を始めるために各種設定を終わらせ、ゲームをスタートさせた。
プレイヤーネームはコウ。最初に振り分けることができるステータスポイントは、バランス良く振り分けている。
ゲームクリエイターの神様と称される、安藤雄仁が手掛けるVRMMORPG『Greenhorn-online』
そのβテストを行う前の、α版を準備するための最終テストを行うのが目的だ
……ったはず、なのだが?
「いやー。最近のVRゲームは、臨場感がスゴイな!」
初期設定でスタート地点は6か所から選択できる。その中で、カーソルはランダムで初期配置されるので、そのままウォータニカからスタートさせた。
ウォータニカは6つある大陸の中、水の大陸の初期エリアの街である。
設定画面から切り替わり、街への転移が始まった瞬間、チカッと視覚を刺激されたかと思ったら、見知らぬ街に立っていた。
「待て! 待て待て待て!」
見知らぬ街って、おかしいだろ!?
俺、α版が出来上がったら、病気療養のために離職することが決まっているとはいえ、アシスタントディレクターだよ?
安藤さんの右腕として、この世界を創ってきた人間だよ?
何で、見知らぬ街なのさ!?
いやね。完全に、見知らぬ街ってわけじゃないんだよ?
俺の知ってるウォータニカの面影はある。けど、こんなに緻密な街じゃない。もっと、メリハリの利いた初心者にも優しい造りの街のはずだった。
街行くNPCも、こんなに多く配置していなかったはずだ。というか、そもそも、
だいたい、現実と区別がつかないほどリアルなグラフィックにしてない。
しかもね。
「嗅覚も、味覚も、実装した記憶がないんだが?」
どこからか漂ってくる食べ物の匂いに、鼻をヒクヒクさせる。味覚を確かめたわけではないのだが、口の中を動く舌の感覚が、しっかりと存在するのだ。それだけでなく、触覚も全身に行き渡っている。
どう考えても、バーチャルの反応ではなく、生身の体だ。
そうかと思うと、メニュー画面を表示させることもできる。
プレイヤーネームはコウ。
ステータスも、先ほど振り分けた通りだ。
インベントリに入っている初期アイテムも、仕様通りの内容である。目の前の現実がおかしいと思うよりも、自分の頭がおかしいと考えた方がしっくりくる状態だ。それとも、妙にリアルな夢、と判断するべきだろうか。
こりゃ、ログアウトするしかないか? と、思った矢先だった。
視界の中に、チャットの申請が届いた。
「何だ。チャットが届くってことは、仕様通りなのか?」
許可、拒否、保留の3択の内、許可をタッチする。
『コウさん、聞こえますか?』
「うお!?」
急に耳元に息を吹きかけられたみたいな感覚に襲われ、驚いてしまう。
「この声は、緑山さん?」
緑山さんは、俺よりも先に安藤さんに声をかけられ、チームに参加していたテクニカルディレクターである。プログラムチームのトップとしてだけでなく、プランナーとしても参加しており、俺よりもGreenhorn-onlineの世界を熟知している超人だ。
『良かった。つながった。ビックリしたよ。テスト始めようと思ったら、急に消えちゃったから……』
緑山さんは、安堵の声で告げてくる。
ちょっと待って?
「消えちゃった?」
『それは、もう、きれいさっぱり。存在が消えたね。探すのに苦労したよ。まさか、そっちの世界に直に行っちゃうとは、想定外!』
だっひゃっひゃっひゃと、緑山さんは聞き慣れたいつもの豪快な笑い声を上げる。
「そっちの世界?」
普段通りの緑山さんの反応に対して、こちらは嫌な予感だけが頭の中を渦巻いている。
『その予想。正解! コウさん。異世界転生しちゃってる! 異世界転生? 異世界転移? 死んでるわけじゃないし、こっちの世界の肉体そのままじゃないし、この場合、どっちなんだろう? まあ、どっちでもいいよね』
緑山さんの軽い口調のせいで、かえって冷静に、事態を受け入れることができたのだった。
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