ボクとキタキツネ




もう

月が半分海から上がっている。


そこにたどり着くまで時間はそうかからなかった。

雪は、崖を境にして降っている。

エリアの境だった。

崖の下の砂浜では、カサカサと船虫が動き回る音が聞こえてくる。

部屋には何も残してこなかった。


すうっと空気を吸い込むと、少しベタついたような潮の香りが鼻をつく。


空の雲を見やった。

やけに今日は低い空だった。

雲はまばらに散っていって、2度と同じ形に戻ることはないのだろう。


目を閉じて思い浮かべた。

ボクが壊しちゃったんだ。

もっとしゃんとしていれば…


少なくともみんなが傷つくことはなかった––



崖に立ち、風を感じる。

気持ちの良い冷たい空気が体の輪郭を知らせてくれている。


このまま跳べば、自由になれるはず。




「はぁ、はぁ、きっつ…キタキツネ…?」


キタキツネがゆっくりと崖で手を広げる。


「キタキツ…えっ?嘘だろ?」


キタキツネはゆっくり深呼吸する。

バクンと心臓が泡立ち、全身の毛穴がビリビリと逆立っていく。

とっさに走り出した。


「おい!キタキツネ!キタ…キタキツネぇっ!!」


彼女は足をスッと前に出すだけ。


あとは



ふっ。

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