第十一章



なんだかんだ紆余曲折はあるものの、キタキツネは生活に慣れてきているし、今の環境で幸せになれそうだ。

あのあと結局キタキツネはギンギツネに謝り、今も仲はまあまあだ。

俺とギンギツネは…まぁ…なんだ、あの後話せてないしまだ気まずい。

でも温泉の人たちも、アカギツネも元に戻っていった。きっとあの頃に戻れるだろう。

全部元通りになるはずだ。


だけど


そうなったら、俺が生きていく意味がなくなる。

きっとへましてクビになるまでここで働き続けるか、それとも心に限界が来て終わるか。


「はぁ…」


日曜の昼ほど気怠く憂鬱な時間はない。

やっと授業を終えて、コンビニで蕎麦を買って家に戻ってきたが、もう何をする気力もない。

暇つぶしにキタキツネの所にでも…と思ったが理由もなしに暇だったからと行くのも気持ち悪がられそうで気が引ける。


何か口実でもないものか…


コンコン


「はーい、今行きますー」


パンケーキを作りに行くとか?

いやダメだ、不自然すぎる。

温泉に入りに来た…いや馬鹿みたいだな。

どうしたものか…


ガチャリとノブを回して開ける。


「はーい…」


って


「キタキツネぇ?!」




「なんでそんなに驚いたの?」


「いや…ギンギツネに怒られない?俺なんかのところに来て」


「別に大丈夫だけど…?」


ギンギツネが許可してくれるとは思えない…

というか変なことを聞いたのでキタキツネが訝しんでいる。


「なんで?来たらまずかったの?」


「あ、いやいやそんな事はないよ、むしろ会いに行こうかと…それよりなんでウチに?」


それを聞くと、キタキツネは少し顔を赤らめて、


「別に…なんか暇だったから…」


と言った。

フレンズの自由気ままな性格が出た。


「そっか…昼飯…つってもソバ買ってきちゃったしな…ソバ食べるか?」


話している最中に、ちょうどキタキツネの興味はコンビニの蕎麦に移っていた。


「え?!いいの?!」


「別に高いヤツでもないし…いいぞ」


と、見栄を張ってみたものの、実は日曜だから自分を労ってわざわざ高いモノを買ったのであって、本音は血涙が出るほど食いたい。


バリバリと包装を開けて、キタキツネが食べようとする。


「これどうやって食べるの?」


「このツユをだな…」




「ん!おいしいね!」


「だろ?」


満面の笑みでソバをすするキタキツネ。

お気に召して何よりです。


ググググーっ…


とお腹が鳴ってしまう。

昼飯また食べてないのに目の前で旨そうに啜られたらそりゃあねぇ…


「カンタも食べる?」


「え、マジ?!いただきます!」


立場逆転。

キタキツネは箸とツユ皿を渡してくれた。


「サンキュ、じゃあいっただっきま


この時キタキツネの思考回路は告げた。

アレ?この人に渡した箸ボクが使ってたやつじゃん。

つまりボクのくちのなかに入ってたのがカンタのくちのなかにも入るわけね…


「…だ、ダメぇっ!」


突然、キタキツネに箸と皿を奪われた。

顔を真っ赤にしている。


「こ、これボクが全部食べるから」


「お、おう…」


ググーッとまた腹から音が鳴る。


「なぁ、ちょっとだけ「ダメ!」


ケチなところがギンギツネに似たんだろうか…




「ごちそうさまでした」


結局俺は冷蔵庫に入っていたハム4枚と、数個の卵でオムレツを作って食べた。

腹が膨れるわけがない。


「…よし、買い物にいってホットケーキでも作ろうか…キタキツネも来る?」


「うん、ボクも行く」


玄関には俺の靴の横にキタキツネのブーツが置いてあって、溶けた雪の水滴がキラキラ光っていた。

外に出ると、まあまあの積雪で、一歩踏み締めるたびにギュウギュウと鳴る。


スーパーは五分くらい歩いた所にある。


「…何してんの?」


「スンスン…いい匂いがするよ」


動物の本能的な所なのか、奥の焼き鳥コーナーに釣られているようだ。


「とりあえず、卵とホットケーキミックスを買って帰ろうか。キタキツネ、卵探してきてくれる?」


「うん、わかったよ」


俺は上を見上げる。

看板がぶら下がっていて、粉類はあと数列奥にあるようだ。


「あったあった…これがいいんだよね」


ホシナ印のホットケーキミックス!!

と凄まじく誇張された名の粉。

なかなかに膨らみが良いのだ。


そろそろキタキツネも卵を見つけてくれた頃だろうか。

きっと向こうから走ってくるだろう。


肉売り場の近くに向かうと、ちょっとした人だかりができていた。


「ん…何だ…?セールか?」


しかし人混みは通路に円を作っていた。

何事かとかきわけていくと、そこには


キタキツネが倒れていた。


卵が落とされて割れている。


「キタキツネ?!キタキツネ!!!」


思わず俺もカゴを取り落としてキタキツネに駆け寄る。


「うん…カンタ…頭が…いたいよ…」


「キタキツネ!?おい…キtktn%$*5>…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る