元貧弱格闘家とスライムテイマー王女の戦い 後編

  会場のボルテージが最高潮まで上がってるのを確認した実況は、早速決勝戦で戦う2人、アヤとマリーの紹介を始める。


『それではまず!決勝戦を戦う2人を紹介しよう!!東方の国よりやって来たニューフェイス!!その実力は今大会の主催者であるマウローさんも認める実力者!アヤ・サクライ!!』


実況の紹介アナウンスを受け、アヤは西の入場ゲートから決戦会場へとゆっくり歩いて向かう。


『そして!もう1人!予選を圧倒的な実力で勝ち抜いた実力者!正直、本当にお前はDランクか!?いや、それはアヤ選手も同じか……巧みなスライム戦術も必見!マリー!!』


同じように紹介を受けたマリーが、東の入場ゲートから堂々とした気品を漂わせる歩みで、決戦会場に足を運ぶ。これで、決勝を争う2人がバトルフィールドに揃った。2人は軽く一礼して構えをとる。


『それでは!!試合!開始!!』




  試合開始が実況から告げられる。今回先に動いたのはアヤだった。アヤは先制攻撃と言わんばかりに、素早く鋭いかかと落としを放つが、マリーはそれをギリギリで躱す。それ以降も、アヤは果敢に攻めマリーがそれをギリギリで躱すを繰り返している。



「……正直予想外の展開ですね。私はもうさっきのかかと落としで彼女は負けたと思いました」


マクロスは驚愕の表情を浮かべて2人の戦いを見つめて呟くようにそう言った。マクロスでも、あのかかと落としを避けるのは難しいと思っていたので、驚くのも無理はない。


「アヤの奴はステータスは異常だが、戦闘経験に関しては素人も同然だ。まぁ、そこはティファにも同じ事が言えるがな」


かつて呪いの装備品でまともに魔物の戦闘が出来なかったアヤと、魔物の攻撃を一身で受け止めるしか出来なかったティファは熟練された動きがあまり出来ていない。それを補うだけのステータスが2人にはあるが、熟練されてない動きは振りが大きく隙が生まれやすいものである。


「ですがそれでもやっぱり彼女の動きは反則ですね。すぐに攻め手を緩めないように攻撃を素早く繰り出してくるんですから」


「だな。マリーがなんとか躱せているのは、アヤよりも積んだ経験の差と、支援魔法を何重にも重ね掛けした結果か」


マリーは幼い頃にA級冒険者の剣術を見て学んだ実績と、冒険者活動を積み重ねた経験値がアヤよりも高い。彼女が未だにDランクなのは、本人が上げる気が無かっただけである。実力から言えばマリーは紛れもなくAランク冒険者だ。

  おまけに、マリーは「テイマー」である為、仲間を支援する魔法が誰よりも優れている。今、アヤの攻撃をギリギリで躱しているのは、自身のステータス上昇魔法を何度も重ね掛けしている賜物だ。そして、アヤの連撃を受けながらそんなマネが出来るのはマリーだけである。


「しかし……これだとどのみちマリーさんのMPが尽きて負けるのでは?」


「一応、MPだけならマリーはリッカ並にある。が、確かにこのままだとジリ貧で負けるのは必須だ。さて、マリーはこの後どうでるか……」


マウローは2人の決勝戦をニッと笑いながら注目する。



  そんな風に注目を受けているマリーは、アヤの攻撃を躱しながらも内心物凄く焦っていた。


(くっ……!?この娘の動き早すぎて攻撃する暇も与えてくれない……!?)


攻撃を躱し反撃に移りたくとも、その素早い動きが反撃の暇を与えず、マリーに防戦一方の状態を与えていた。だが、このままだと観客の大半の予想通りマリーが力尽きて負けるのは必須である。


(やっぱりスライムちゃん達の粘液毒に頼るしかないわね。けど、使うとしたら、イエロースライムちゃん達か、アイススライムちゃん達か……)


  マリーもアヤのスキル『不屈の拳』の効果は熟知している。故に、そのスキルを恐れて、完全に行動不能にする石化か凍結を狙う事にした。

マリーは「テイマー」として完全テイムした魔物にスキルを与える能力も備わっていた。故に、マリーはスライム達全員に、何かに化けて身を隠す『擬態』と、数分間透明になれる『透明化』のスキルを与えていた。本当はスライム達を外敵に襲われない為に与えたスキルだが、スライム達の特徴とこのスキルはあまりにマッチングしていた。

  マリーは気配を消してるイエロースライム達に、アヤには悟られぬように合図を送る。イエロースライム達はその合図を受け取り、気配殺しながら一気にアヤに近づいて石化毒粘液を噴射した。


「……甘いですよ!そう何度も同じ手にはかかりません!!」


しかし、アヤはその石化毒粘液をアッサリ躱して回し蹴りでイエロースライム達を撃退する。


「みんな……!?」


このバトルフィールドでは、「テイマー」が戦う事も考え、テイムした魔物などは死なないようになっている。以前のティファとガブリィの決闘の際、ガブリィが出したケルベロスはテイムとは別物扱いされたので、ケルベロスは完全に魔石と化したが。

  まさか、イエロースライム達は完全に気配を消して近づいてやったのに、アッサリ躱して反撃するアヤに動揺するマリー。しかし、アヤはその隙を逃す程お人好しではない。


「これで私の勝ちです!!」


「ッ!!?」


アヤの手刀が完全にマリーを捉える。これはもう勝敗は決したと誰もが思った。だが……


ボムンッ!!!


「へっ……!?」


マリーから突然そんな音と同時に煙が上がると、マリーがいた場所には、マリーの服と1匹のスライムがそこにいるだけだった。


「なっ……!?」


マリーが突然消えてスライムだけになった事に驚愕し、アヤはスライムに当てる手刀を寸前の所で止めて、目が点になりポカンとする。そんな隙を彼女は当然逃すつもりはない。


「これで私の勝ちよ!!」


「なっ!?ふえぇ!?」


すぐにそんな声がして振り向いたアヤは更に動揺する。そこには、スライム達に全身を覆われたマリーの姿があった。アヤがその姿に更に動揺した事で、更なる隙が出来てマリーは攻撃を繰り出した。


「はあぁぁぁ!!!!」


「ッ!?しまっ……!?」


アヤはマリーの攻撃を受けてしまう。が、まるで斬られたような痛みはなかった。むしろとても柔らかい物に当たったようなそんな感じが……


「なっ……!?まさ……!?」


アヤが気づいた時にはもう遅かった。アイススライム達に包まれた剣による攻撃を受けたアヤは、そのアイススライム達の凍結毒粘液を受け、瞬時に凍結状態になって行動不能になった。


『……アヤ選手が凍結になり!行動不能になりましたので!勝者マリー選手!よって!Dランク限定試合優勝者は!マリー選手!!』


実況が優勝者を告げると、観客席が総立ちですごい戦いをした選手2人に拍手を送る。スタッフはすぐに凍結したアヤを救い出す為に動く。が、それよりも先にスライム達に包まれたマリーが、自身の服を回収して急いで自分が入場した東ゲートに退散する。マリーの突然の行動に観客達がポカンとなるが、観客の1人がある事に気づく。


「そう言えば……マリーさんが突然スライムに変わった時、スライムの周りにマリーさんの服と……チラッと下着らしきものも見えたんだけど……まさか……あのスライム達が居なくなったらマリーさんの今の状態は……」


マリーの現在の状態に思い至った男性観客陣は思わず前屈みになり、また女性観客陣に白い目で睨まれるのだった。


  こうして、マリーの奇策中の奇策でマリーが優勝して優勝賞金を手に入れたのだが、もう金欠でもこんなイベントには出るものかとマリーは心に誓った。

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