元貧弱格闘家とスライムテイマー王女の戦い 中編
遡る事数週間前……マリーは自分の資金がほとんど無くっている事に気づいた。いや、一応全くない訳ではないのだが、スライム達のご飯やスライム達がそれぞれ過ごしやすい環境作り、スライム達のお洒落代金などなどを考えれば全く足りないのである。
「仕方ない……しばらく私1人で野宿して……お風呂は……川で水浴びするしかないわね……」
マリーの発言にスライム達は焦り始める。そもそも、そこまでエサを必要とせず、どんな環境でも生きられるスライム達である。マリーがそこまでお金を出してやる必要はないのだが、スライム達は環境が変わりエサが変わると、それに応じた色に変化してしまう。故に、マリーはせっかく生まれ持った色を変えないようにお金を出して、スライム屋敷は、それぞれのスライム達が適した環境になっている。
しかし、そのせいでマリーは毎日金欠状態に近く、1人だけ野宿生活したり、お風呂は川で水浴びで済ますのが常だったりする。王城で何不自由なく生活していたマリーが、自分達のせいで不便な生活をしているのが、スライム達には耐えられなかったのだ。どうにか、マリーを説得出来ないか考えるスライム達に、1匹のスライムが朗報と言えるチラシを持ってきた。
「ん?何?コアナ……冒険者ランク限定闘技大会?優勝賞金……嘘!?これぐらいの額があればみんなのお屋敷は1か月は安泰に保てるわ!」
出来れば自分達の為でなく、マリーの為に使って欲しいと願うスライム達だが、マリーにとってはこれがお金の使い道である。
こうして、マリーはDランク限定予選を圧倒的に勝ち抜いて本戦出場を決めて現在に至る。
「と言う訳よ」
「はぁ……な……なるほど……」
あの後、2人は選手控室でお互いの何故大会に参加しているのか説明した。なんともマリーらしい理由に、アヤは苦笑を浮かべる。
「正直、あなた達のパーティーに入ったおかげで、私の宿代は節約出来たとは言え、それでもスライムちゃん達の為には資金が必要なの。それで……優勝は貴方に譲るから優勝賞金は私に譲ってくれないかしら?」
まさに、マリーがアヤを呼んで話し合いをしたのはこの為だ。マリーはアヤの実力をよく知っている。故に、自分には勝ち目がないと分かって、アヤの良心をつく形になってもこのような交渉を持ちかけたのだ。
しかし、アヤから返ってきたのは予想外の答えだった。
「……申し訳ありません。それはお断りします」
アヤが申し出を断ってきたのである。まさか、自分の申し出を断るとは思わず、驚愕で目を見開くマリーだったが、すぐにいつもの余裕ある気品溢れる態度をとる。
「まさか断られるとはね……貴方がお金に困ってるとは思わなかったのだけど?」
若干動揺しながらもそう尋ねると、アヤは困ったような笑みを浮かべ
「まぁ、確かに困ってるという程ではありませんね。私はティファ達へ恩返しがしたいので、報酬はなるべくティファ達の為に使って貰いたいと思ってます」
「ならば何故?」
「もちろん。マリーさんの本当の実力を見たいからです」
アヤは戦う者の本能として、マリーが全然まだ本気を見せていないのを感じていた。故に、アヤはそんなマリーの隠された実力を見てみたいと思ってしまったのである。
「スライム達の為ならば本気で相手をしてくれますよね?」
「……本気で厄介な展開だわ」
ニッコリ笑ってそう答えるアヤに、マリーは重たい溜息をついてそう呟くしか出来なかった。
そして、Dランク限定闘技大会本戦は、アヤとマリーのブロックが見事離れていたのもあり、観客の予想通りにアヤとマリーの決勝戦となった。
「なぁ?お前はどっちが勝つと思う?」
「順当にいけば間違いなくアヤちゃんだろうな。あの攻撃力はもちろんだが、あの素早い動きも……最早反則だろ……あれでDランクとか信じられねぇよ……」
「だが、あのマリーもマリーで厄介だぜ。戦った奴らはみんなスライム達の何かしらの毒粘液受けて倒れ伏してるし。スライム達がいなくてもあの剣技と魔法だろ?本当にアレで「テイマー」なのかよ……」
「普通に攻撃が当たれば間違いなくアヤちゃんの勝利だ。スライム達を駆使して戦い、何をするか分からねえマリー。正直、この試合……どうなるか分からないな……」
観客席の冒険者達が次々とDランク限定闘技大会本戦の試合予想で盛り上がっている。その盛り上がりは上位ランカーの限定試合よりも盛況だ。マウローはそんな観客達の様子を、主催者席で腕を組んで眺めている。
「盛り上がってますね。私が優勝したAランク限定試合よりも大盛況だ」
そう言って爽やかに笑ってマウローの隣の席に美青年が腰かける。誰もが恐れて座れぬその席に堂々と座るのは、Aランク冒険者で、マウローの右腕とも言われるマクロスだ。マクロスは先程自身が参加したAランク限定試合をぶっちぎりで圧勝して優勝してきたばかりだ。
「仕方ない。Aランク限定試合は予想しなくてもお前が勝つ事は分かっていたからな。Dランク限定試合も同じになると思っていたが……いいところに来てくれたもんだ」
マウローは眼下の試合を眺めてニヤリと笑ってそう答える。マウロー的にもこの試合がどうなるのか楽しみで仕方ないのだ。
「マウローさんは誰が優勝すると思いますか?」
「お前はどうなんだ?」
質問を質問で返されたマクロスだが、特に気にした様子も見せず、顎に手をあて考える仕草をする。
「そうですね……やはりアヤさんですかね。彼女の攻撃力は凄まじい。私も映像だけで背筋が凍りました。あの攻撃に当たれば私もひとたまりもないでしょう」
マクロスは微笑を浮かべながらそう答える。その答えにマウローは「なるほどな……」と言って頷き返す。
「観客達と同じ回答だな。賭けに興じてる野郎共は大半がアヤに賭けてやがる」
この試合での賭けは正当に行われている物なので、主催者であるマウローはもちろん賭けの結果を知っている。観客はやはりアヤの攻撃力の高さから、アヤに賭ける者が多いようだ。
「では、最初の質問に戻りますが、マウローさんはどっちが勝つと思いますか?」
「悪いが、俺の答えはサッパリ分からんだ」
マウローの回答に、マクロス「それはズルイですよ」と言って苦笑する。だが、マウローはそれを受け肩をすくめ
「順当にいけば間違いなくアヤの勝ちだ。アヤの攻撃力は例えあのマリーだろうと食らったら終いだ。だが、目立ちたくないマリーがわざわざこんな目立つ為のイベントに参加するって事は、恐らくスライム達の為……スライム達の為なら奴はどんな事でもするからな」
マリーの事をよく知ってるマウローは、スライム達の為に戦おうとするマリーが、どんな手段を講じてくるか分からないと考えて、あの回答をした。
『さぁ!!皆様!!大変長らくお待たせしました!!これより!Dランク限定闘技大会本戦の!決勝戦を開始します!!』
実況の言葉で観客もマウロー達も試合会場に注目し始める。
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