元貧弱格闘家とスライムテイマー王女の戦い 前編

  一日お休みも貰っても尚、修練を積みたいアヤは岩山に向かうと「山猫亭」の主人に告げ、早速そこで魔物狩りなりなんなりして修練に励もうと思ったが、ふと、人集りが気になって足を止める。


「何かあるんでしょうか?」


何となく気になったアヤは人集りができている所に向かい、この人集りがなんなのか確認した。


「……冒険者ランク限定闘技大会!?」


それは、冒険者のランクが同じ者同士一対一のバトルをし、勝ち上がったランク優勝者を決める闘技大会だった。ギルドディアで本日このような催しが行われているとは知らず、胸を高鳴らせるアヤ。自分も是非参加してみたいと思っていたのだが……


「むっ……もう締め切られていますね……残念です……」


すでに、数週間前から告知があり、予選大会が行われ、本日の本戦大会に残る8名が戦う運びとなっている。故に、すでに募集をすでに締め切られているのである。


「諦めて修練をしに行きましょう……」


アヤは肩を落として修練する岩山へ向かおうとした所で、アヤにある意味救いの声が上がる。


「ん?お前……確かティファんところの新メンバーのアヤか?」


「あっ!?あなたは!?マウローさん!!?」


アヤに声をかけてきたのはこのギルドディアのSランク冒険者の1人マウローだった。


「何だ?随分としょぼくれた姿をして……メデューサを倒した貢献人がそんな姿を晒すもんじゃねえぞ」


「いえいえ!?私なんてそんな!?Sランクのマウローさんに貢献人と呼ばれる程の事は!!?」


「ティファもそうだが、過度な謙遜は嫌味にしか聞こえなくなるから注意しろ。んで、しょぼくれてた理由は何だ?」


「えっと……その実は……」


アヤは闘技大会に参加したかったけど出来なかった事を全てマウローに話した。マウローはしばし顎に手をあて考える仕草をし


「確か……お前最近Dランクになったよな?」


「あっ!はい!アスファルト領で働きが認められてありがたくDランクに昇格しました!」


アスファルト領でのメデューサ討伐などで、アヤは文句のつけようがない実績を認められて、つい最近Dランクの仲間入りを果たしたのだ。それを聞いたマウローはニヤリと笑う。


「Dランク限定試合は一方的に終わるかと思ったが、こいつは面白くなってきたな」


「???何の話でしょうか?」


「あぁ、すまんすまん。お前Dランク限定試合に参加したいんだよな?だったら問題ない。ちょうど予選を生き残った奴が辞退したんだ。お前をその枠に入れてやるよ」


「えっ!?しかし……そんな事は……いくらマウローさんでも……」


マウローがSランク冒険者とはいえ、そんな事出来ないのではと言おうとしたが、マウローは口の端を吊り上げ


「問題ない。この闘技大会の主催者は俺だからな」






『皆さん!!お待たせしましたぁ!!これより!冒険者ランク限定闘技大会!Dランクの部を開始します!!』


実況のアナウンスに、観客席はかなり歓声があがる。闘技大会はかなりの盛り上がりをみせていた。


『では!早速!第一試合!選手の紹介を!その甘いマスクと剣技で女性も魔物ももう虜!カリオス選手!!』


実況の紹介に観客席の女性陣は歓声を、男性陣からは嫉妬混じりのブーイングが飛ぶ。それら全てを受け止めるように、カリオスが前髪をかき上げ颯爽と東ゲートから入場する。


『続いて!マウローさんからの推薦で急遽飛び入り参加!あのティファちゃんパーティーのニューフェイス!!アヤ・サクライ!!』


実況からの紹介を受けアヤは西ゲートから気合を入れて入場する。今度は男性陣からの歓声があがる。観客席の女性陣は、男性陣がアヤのとある部分に目がいってるのを白い目で見つめる。


「ふっ、美しいお嬢さんを私の華麗な私の剣で虜にするよ」


「は……はぁ……その……よろしくお願いします……」


『両者気合十分ですね!?それでは!試合!開始!!』


実況から試合開始を告げられ、両者早速構える。先に動いたのはカリオスだった。


「いざッ!!」


カリオスが素早く動いて剣をアヤに振り下ろす。アヤは全く避ける挙動を見せず、構えたまま立っている。カリオスは勝利を確信して剣を力いっぱい振り下ろすが


ガキンッ!!!


「へっ?」


アヤはまるで瞬間移動のようにカリオスの目の前から消える。カリオスの剣は虚しく空を斬り床に突き刺さる。


「……せいッ!!!」


カリオスがアヤの居場所を確認する間もなくアヤがカリオスの背後に回り、正拳突きをカリオスにかます。カリオスはそれで場外に吹っ飛ばされ、壁に激突してグルグルと目を回して倒れた。

  会場がシンと静まりかえる。あまりに圧倒的な試合運びに会場がポカンとしているが、いち早く復帰した実況が勝者を告げる。


『勝者!!アヤ・サクライ!!』





「はぁ〜……良かった……無事に試合に勝てて……」


正直、カリオスを倒したのに、会場が静まりかえった瞬間、やりすぎて反則負けになったのでは?と、内心アヤは焦っていた。


「次の試合まで時間がありますし、せっかくだから他の試合も見てみましょう!」


純粋な好奇心を刺激され、アヤは自分と同じランクの言わばライバル達の試合を見に行った。

  が、アヤがその試合を見に行こうと選手用の観客席に入った時、


『勝者!!マリー!!』


「へっ?」


すでに見に行こうとした試合は終わっていた。しかも、勝者はアヤがよく見知った人物。金髪の美しい髪を靡かせた美女で、周りにはそんな美女を守るように囲うスライム達。その人物は間違いなく自分達と同じパーティーに所属しているメンバーのマリーだった。


「……はぁ……厄介な事になったわ……」


マリーは選手用の観客席にいるアヤをチラッと一瞥して軽く溜息をつき、スライム達と共に自分が入場したゲートに戻って行った。


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