幼馴染の聖賢女は頼まれる

  本日、ティファ達のパーティーは1日お休みで、それぞれ自由行動の形となり、リッカは朝起きて朝食を食べた後、王都ギルドディアで唯一の図書館「ギルドディア王立図書館」にやって来た。

  この国でたった一つしかない図書館だが、その広さと大きさと本の数は他国にも負けていない。リッカはこの図書館で静かに本を読むのが好きで、たまに食事も忘れてしまう程の読書家だ。今日は一日休みでもあるし思いっきり本を読もうとこうして足を運んだのだ。


「う〜ん……困ったわねぇ〜……」


リッカが「ギルドディア王立図書館」に入ると、入り口にある受付に、見知った人物が難しい顔をして首を捻っていた。


「マリノアさん。どうかしたんですか?」


リッカは受付にいた眼鏡をかけた女性に話しかける。彼女は、この「ギルドディア王立図書館」の司書長マリノアだ。リッカは王都に来てからここに通い詰めであり、リッカと同様に彼女も読書が趣味で司書になったというのもあり、色々とうまがあった2人はよく話す間柄になっていた。


「あっ!リッカちゃん!今日も読書しに来たの?」


「はい。今日は一日お休みなのでせっかくだから思いっきり読書に耽ろうかと……ところで、マリノアさんは何か困り事ですか?」


「そうなのよ……実はね……」


ここ、一応図書館なのでもちろん本の貸し出しは出来るのだが、当然貸し出しには期限がついている。その貸し出し期限が過ぎても未だに本を借りている人が何人もいるとの事だ。


「結構人数がいてね。他の司書に返却してもらうように向かわせたのだけど、まだ数人程いてねぇ〜……私が離れる今誰もいないから、どうしたものかと思ってねぇ〜……」


ギルドディアがいくら治安がいい国とはいえ、100%と悪事を働く者がいない訳ではない。しかも、「ギルドディア王立図書館」の本の中にはかなりの希少本も存在するという。売れば高値になる。なので、流石に誰もいないまま空けておく訳にいかないだろう。となれば……


「私が代わりにその延滞者の所に行って返却を求めに行って来ましょうか?」


リッカはマリノアの手伝いを申し出たのだった。




「延滞者って言っていたからすぐに返さないかと思っていたけど、やけにアッサリと返却に応じてくれたわね」


リッカは5人の本を延滞して貸し出ししている人の家に行き声をかけたが、5人共アッサリと返却に応じたので少しばかり拍子抜けだった。


「これなら受付を代わりにやって本を読んでた方が良かったかも……」


最初はそちらの仕事を手伝おうかと思ったリッカだったが、本を延滞している人なら難癖つけて返さないような奴らばかりと勝手に思い込んでいたので、マリノアは読書が好きなだけの大人しい性格であるのを知っている為、自分のような力がある人間が行くべきだと判断したのである。


「まぁ、いいか。この延滞されていた本……私が興味をそそられる物ばかりだし、早くこれを返却処理してもらって私が読もうと」


延滞されていた本は、どれも魔法を応用して攻撃・錬金・調合、更には魔道具まで作るやり方を載せた半分魔導書に近い物だった。リッカは我慢出来ずチラッと読んだ内容は、どれもリッカを驚かせるような魔法の使い方が書かれていて、危うく読み耽りそうになった。


「けど……こんな本、図書館にあったかしら?」


リッカは魔法関連の本なら全て読了している。「ギルドディア王立図書館」で、リッカが読んだ事がない魔法関連の本はないはずなのだが……


「まぁ、いいか。早く行って読みましょう」


  リッカは早く読みたいが為に足早で「ギルドディア王立図書館」に向かう。


  しかし、リッカは「ギルドディア王立図書館」にたどり着いて驚きの光景を目の当たりにする。


「は?え?『閉館』???」


「ギルドディア王立図書館」の扉は閉まっており、その扉の前には『閉館』と書かれたプレートがぶら下げられていた。確かに、気になって本を少しチラ読みしたとはいえ、まだ閉館時間には早いはずだ。

  突然の出来事に訳が分からず困惑するリッカ。そんなリッカの所に見知った顔が姿を現した。


「あら?リッカちゃん。そんな所でどうしたの?」


それは、先程リッカが手伝いを申し込んだ相手マリノアだった。マリノアはリッカがここにいるのを不思議そうな顔で首を傾げている。


「えっと……マリノアさん……まだ閉館時間には早いんじゃ……?」


リッカが恐る恐るそう尋ねたら、マリノアからとんでもない返答が返ってきた。



「何を言ってるの?リッカちゃん。今日は図書館はお休みよ」


「へっ……!?」


マリノアの返答に目を見開いて驚愕するリッカ。マリノア曰く、たまには図書館も一日休みがあった方がいいと、一日休みにしたのが今日だという。マリノアが今来たのは、図書館に忘れ物があり、それを取りに来たらしい。

  リッカはマリノアの言葉が信じられず、リッカはマリノアに自身が起きた事を話した。マリノアは逆にリッカの言葉に驚いていた。しかし、マリノアは間違いなく昨夜は図書館の鍵を閉めたし、今日は午前中は友達と遊んでいたという。マリノアはだが顎に手をあて


「もしかして……本の精霊の仕業……?」


「本の精霊……?」


「そう。本の精霊。本好きの人の所に現れて、その人の為になる本を悪戯のような形で渡すって……正直、噂というか……伝承のような話なんだけど……リッカちゃんの話を聞くと本の精霊仕業としか……」


「いや……まさか……そんな……」


あり得ない。そう思うリッカだったが、リッカが手に持つ本は間違いなくリッカにとって有益な本。しかも、あの後調べリッカが回収に行った延滞者の家は全部空き家である事が判明し、リッカは頬を引きつらせた。


  結局、リッカが回収した本は「ギルドディア王立図書館」に置いてなかった本であった為、その本は全部リッカの物になった。リッカにとっては有益な物である為そこは問題なかったが、若干複雑な想いを抱くリッカだった。

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