間話:それぞれの休日

大盾使いの少女は料理に没頭する

  ティファは起き上がる。まだ意識が完全に覚醒していないぼんやりした状態で辺りを見回すが


「……誰もいない……」


少しでも宿代を安くする為、ティファ・リッカ・アヤが寝泊り出来る大きな部屋を一つと、同じぐらいの部屋一室をマリーが(スライム達がいる関係上)利用して宿泊している。だから、部屋にはリッカとアヤが必ずいるはずなのだ。


「あっ、そっか……今日はお休み貰ってたんだ」


ティファ達はアスファルト領事件と事件後の諸々の依頼、更にはマリーが増えた事で、早くパーティーホームを手に入れなければと、張り切ってお金を稼ぎをしていた。だが、そんなティファ達を心配してシンシアが提案した。


「ティファちゃん。1日ぐらいお休みしない?パーティーホームを購入したいティファちゃん達の気持ちも分かるけど、たまにはちゃんと休息を取らないと身体を壊しちゃうわよ」


それを聞いてティファは確かにその通りだと思い、シンシアの提案に乗る事にした。そして、みんなと話し合い、明日をお休みにして、その日はみんなそれぞれ1人で自由行動日にしようという話に決まった。そして、そのお休みの自由行動日が今日なのである。



「う〜ん……もうリッカもアヤも出かけたのかな?マリーさんは多分……あのスライム屋敷だろうし……う〜ん……私は何しようかなぁ……?」


時刻はもうお昼近くである。いっそこのまま1日寝てしまおうかと考えたが、流石にそれはどうかと思い、とりあえず一旦顔を洗って今日自分がするべき事を考える事にした。




「う〜ん……私のしたい事かぁ〜……」


ティファは部屋を出て、遅すぎる朝食を採り、とりあえずいつもの装備品を着て、今日自分がしたい事をずっと考えながら王都の街を歩いていた。


「私って考えるとこれっていう趣味がないんだなぁ〜」


「山猫亭」の主人に聞いたところ、リッカ達はそれぞれ自分の趣味に没頭出来る場所に向かったそうだ。リッカは読書が趣味なので街1番の図書館に。アヤはもうトレーニングするのが趣味のようなもので、近くの岩山に向かったそうだ。マリーは趣味というより、日常であるスライム達の世話の為、スライム達の為に購入したというスライム屋敷に足を運んでいた。


「趣味かぁ〜……思いつくとしたら料理ぐらいだけど……」


ティファは料理を作るのが趣味である。しかし、それをする為には厨房がいる訳だが、「山猫亭」の厨房を借りる訳にはいかない。ただでさえ部屋もいい部屋を2つ、お金を出しているとはいえ借りてるのである。これ以上のワガママを言う訳にはいかない。


「う〜ん……けど……私の趣味ってそれぐらいしかないし……どうしようかなぁ〜……」


趣味の料理の事を考えたら、作りたくて仕方なくなってきたティファ。最近、遠征もあるにはあったが、そういう場で料理の腕があまりふるえないので、久しぶりに思いっきり料理を作りたい気分にかられるティファ。


  そんな時だった。ティファの想いを叶えてくれる人物がやって来たのは



「ん?ティファじゃないか。そんな所で首を捻ってどうしたんだい?」


ティファが首を捻って考えていた時に現れたのは、Sランク冒険者のシャーリィーだった。シャーリィーの後方にはシャーリィーのパーティーメンバーも何人かいた。


「あっ!シャーリィーさん。実は……」


  普段のティファならこんな事をシャーリィーに相談するなんてと躊躇うが、どうしても料理したい欲が勝り、ティファは素直にシャーリィーに悩みを相談した。


「ふ〜ん……思いっきり料理がしたいけどそれを振るう場所がないと……うん。なら、ティファ。ちょうどいい場所があるよ。ついて来な」


「えっ!?本当ですか!?」


「あぁ、本当さ。とにかくついて来れば分かるさ」


ニヤリと笑うシャーリィーに、料理がしたい気持ちがいっぱいのティファはアッサリ従ってついて行く。


「シャーリィーさん。ティファちゃんに頼む気満々よねぇ〜」


「十中八九間違いないでしょ」


「まぁ、私達もティファちゃんの料理楽しみだからいいんだけど……」


後方のシャーリィーのパーティーメンバー達は苦笑を浮かべてそんな会話をしながら、シャーリィー達について行った。




「こ……ここが……シャーリィーさんのパーティーホーム……」


ティファが案内されたのはシャーリィーのパーティーホームだった。しかも、その広さと大きさは、アスファルト領元領主のニールセンの屋敷と負けてない程だった。

  シャーリィーに更に案内された厨房は、それはどこかのレストランか?と思うぐらい本格的に広い厨房だった。


「ほ……本当に私がここで料理してもいいんですか……?」


「あぁ、むしろ大助かりさ。今日突然緊急の魔物討伐の依頼が入ったからさ。突然の依頼だから料理人も雇えなくて困ってたところだったんだよ!」


シャーリィーはとても嬉しそうにそう語る。それもそのはずで、料理人が雇えなかったら、依頼終了後に料理を作るのは本日の料理当番だ。その本日ね料理当番がシャーリィーだった。

  別に料理が作れない訳ではないのだが、ぶっちゃけ魔物討伐で疲労が溜まってる時に、料理なんて作りたくない。しかも、シャーリィーのパーティーは大所帯だ。ますますもってめんどくさい。けれど、料理人を訪ねても急な事で知り合いの料理人全てに断れた時のティファの悩みだ。まさに、シャーリィーにとっては渡りに船な悩み相談だった。


「食材はあそこにあるのを好きなように使ってくれて構わないよ。うちは大所帯で大食らいもいるから沢山作って問題ないさね」


「分かりました!皆さんにはいつもお世話になってるし!頑張ります!」


ティファが元気よく返事をする。シャーリィーはそれを快く受け取り、夕飯時には帰るとティファに伝えて、緊急魔物討伐依頼に向かった。


「ティファちゃんの料理ってどんなのだろう?」


「確か……前にガブリィパーティーを偵察していた子の話だと、リアルに頬が落ちるぐらい美味かったって……」


「なにそれ!?めっちゃ楽しみなんですけど!!?」


「まぁ、こっちは頼んだ立場さね。多少不味かろうと目を瞑るさ」


シャーリィー達はそんな会話をしながら、ティファが作る夕飯を楽しみにしていた。

  そんな会話をしているとは知らないティファは、シャーリィーのホームパーティーにある食糧庫を見て感嘆の溜息をついていた。


「すごぉ〜い……!珍しい食材とかも沢山ある……!こんなに沢山あるし、シャーリィーさんのパーティーメンバーも沢山いるから、久々に思いっきり張り切って作っちゃおうかな!」


ティファは装備品を外して、持っていた私服とエプロンに着替え、腕まくりをして久々の調理を開始した。

  だが、シャーリィー達は知らなかった……ティファが調理を思いっきりやるのがどういう事になるのかを……




「ただいまぁ〜……おぉ!」


時刻はもう日も沈み、辺りもすっかり暗くなった時間にシャーリィー達は自分達のパーティーホームに帰還した。入り口の扉を開けた瞬間、漂ってくる空腹のお腹を刺激する匂いにシャーリィーは思わずそんな声が出る。


「うわぁ!?すごぉい!?玄関前にもうすでに料理が置かれてる!?」


「何コレ!?めっちゃ美味しそう!?」


「前菜・スープ・メイン・デザート……もう完璧なフルコースじゃん……」


そして、その美味しそうな匂いに我慢出来なくなったメンバーの1人が思わず一口摘み食いする。


「ッ!?な……!?なにこれ……!?私ギルドディアの大半のレストランの料理食べたけど、それよりも遥かに美味しいんだけど!!?」


「えっ!?嘘!?マジ!!?…………本当だ……めっちゃくちゃ美味しすぎる……!」


「あぁ……!?ティファちゃん天使が私について来てって誘ってるわ……!?」


「って!?あまりの美味しさに昇天してるんだけど……!!?」


シャーリィーのパーティーメンバーはティファが作った料理に大変満足していた。しかし、シャーリィーには一つだけ疑問点があった。何故玄関前に料理が置かれているのか?と……しかも、よく見れば廊下にも食堂に続くように数々の料理が置かれている。

  シャーリィーは頬を引きつらせ、とりあえず恐る恐る食堂の扉を開けると……


「いッ!!?」


思わず強力な魔物が突然現れた時でさえあげた事がない素っ頓狂な声をあげるシャーリィー。何故なら、食堂は数々の料理でその一部屋全部埋め尽くされているのだ。

  シャーリィーのパーティーホームの食堂はそれはもう広い。大所帯のパーティーだからそれぐらいの広さがないとやっていけない。その広さを誇る食堂が全部料理で埋め尽くされてるのだから驚愕するのも無理はない。



「ふふ〜ん♪次はエッグベアーの卵でデザートにチャレンジしようかなぁ〜♪」


厨房で、そんな鼻歌交じりで未だに調理を続けているティファ。シャーリィーは慌てて厨房に駆け寄った。


「ちょっ!?ティファ!?ストップ!?ストップ!?もういいから!?もう十分だからぁ!!?」


結局、ティファはこの日シャーリィーのパーティーホームの食糧庫にある食材を半分近く使ったという。その食材で作った料理の数は、6人家族が朝昼晩と、2週間食べ続けてもまだ余る程の量だった。


  あの後、シャーリィーがリッカにこの事を伝えたら


「あの娘の料理は文句なく一級品です。けど、あの娘は一度没頭すると食糧庫にある食材を空にする程作りすぎるんで、誰かが見張りについて止めないとダメなんです」


と、溜息交じりにそう答えた。以来、ティファに料理を頼む時は、誰かを見張りにつけるのが、ギルドディア冒険者達の常識になった。

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