謎の美女テイマーは自分の事情を話す

  マリーは『迷宮』に潜むスライム以外のギルドディア中のスライムをテイムしていた。故に、彼女はそのスライム情報網を駆使して、アスファルト領近くの『迷宮』からブラックスライムが抜け出したという情報をいち早く仕入れていたので、マリーはどの冒険者よりも早くブラックスライムをテイムする為に向かったのである。

  元々、ギルドディア中のスライムをマリーが全てテイムするという条件で、王様にスライムには手を出すな宣言をさせたので、マリーにとってこれは一つの仕事でもあった。王様にそんな事を言わせるという時点で、マリーがとんでもない身分の者であるのが明らかなのだが、彼女は気にせず淡々と話を進めていくので、ティファ達もそこは気にせず話に耳を傾ける。

  それで、結果的に言えばマリーがそのブラックスライムをテイムする事には成功した。彼女はルンルン気分でスライム達と帰ろうとしたのだが、アスファルト領にいるスライム達からある情報を伝えられたのである。


「ん?あれ?マリーさんは『迷宮』以外のギルドディア中のスライムをテイムというか家族にしてるんですよね?だったら何でアスファルト領にスライムが……」


「私も出来るなら連れ帰ってスライムちゃん達を愛でる楽しい嬉しい生活を送りたいけど、魔物も動物達と同じくその土地から急にいなくなったら、環境変化とか起きやすいのよ。特に、魔物の場合は変異種の魔物が発生しやすくなるから、低級と言われてしまっているスライムちゃん達でもその土地から離す訳にはいかないの。だから、私が自分の所に連れ帰っているのは一部の子と、今回のブラックスライムみたいに『迷宮』から抜け出した子ね」


ティファの疑問に淡々と答えるマリー。これは、テイマーの間では常識で、テイマーは自分達の用事が済んだらテイム契約を解除して、元の場所に帰るように指示する。テイマーを気に入ってずっと永続のテイム契約を結んでいるテイマーも中にはいるが、土地に帰した状態でもずっとマリーとテイム契約を結んでいる状態はあり得なかったりするが、そんな事は気にせずマリーは話を続ける。


「それで、アスファルト領で暮らしていたスライムちゃん達が言うには、何者かがアスファルト領にいるイエロースライムちゃん達を全て捕獲したというのよ」


「イエロースライムも?何で?」


マリーの言葉に、ティファは疑問に思い首を傾げる。確か、イエロースライムと言っても、スライム種らしい特殊な毒は持っているが、基本強さ的には先程ティファ達が戦ったブルースライムと変わらないはずだ。もし、戦力にするつもりで捕獲したのなら、スライム種の中でも危険種であるブラックスライムを捕獲した方が断然にいいだろう。


「さぁね……私は犯人じゃないからそこまでは分からないわ。けど、私はその犯人を探すべく、アスファルト領内のイエロースライムの生息地帯を歩き回っていたら、貴方達がブラックスライムを討伐するなんて言ったから、貴方達が犯人だと確信したの」


「な……なるほど……そうだったんですね……」


ティファは苦笑を浮かべて納得する。自分達が討伐するとあの時宣言したのはブラックスライムだが、大切な家族であるイエロースライム達を捕獲した犯人を探していたマリーだ。同じく大切にしているブラックスライムを討伐しにきたと宣言したティファ達を犯人と決めつけてしまっても仕方ないだろう。なんとも間が悪い話である。


「さて、私の事情は話したわ。今度は貴方達の番よ」


「あっ、はい。実は……」


ティファは自分達が依頼を受けてブラックスライムの討伐に来た事を説明する。それを聞いたマリーは驚いて立ち上がる。


「はぁ!?嘘でしょ!?ギルドがスライム討伐依頼を受諾する訳ないわ!?仮にそんな依頼が来ても、まず真っ先にエルーシャが私に連絡するはずよ!?」


「けど……その……その依頼を仲介したのもエルーシャさんなんです……」


「何ですって!!?」


マリーは目を見開いて驚愕する。マリーは一旦落ち着く為に深く椅子に座り直す。しばらく、マリーは思案に耽っていたが


「ねぇ?その依頼を出した人の名前って分かる?」


「あっ、はい。レオっていう金髪で……ちょっと無表情で怖い感じの男性です……」


ティファが依頼人のレオの特徴を話すと、マリーは先程よりも目を見開いて驚いていた。


「何で……い様が……!?いや……い様が関わってるって事は、イエロースライムの一件は、このアスファルト領で起きてる一件と無関係ではないって事……?」


マリーは再び思案に耽り、ブツブツとなにか呟き始めた。ティファにはマリーが何を言ってるのか聞き取れなかった。マリーはそんなのお構いなしにスッと立ち上がる。


「ごめんなさい。話を聞いて貴方達が犯人でない事は分かったわ。ここの代金は私が出すからしばらくゆっくりして構わないわ。まぁ、この程度でさっきの襲撃の慰謝料にはならないかもしれないけど、今度エルーシャを通じて貴方達の言い値の慰謝料を用立てするから待っていてちょうだい」


「えっ!?あの!?ちょっと!!?」


「それと、貴方達はさっさとここから出て行った方がいいわ。その依頼人に私の名前を出して、私に出て行くように言われたって言えばちゃんと討伐してなくても報酬は渡すはずだから。それじゃあ」


マリーはそう言うと、店の人に何か渡して店を出て行った。店員は目を見開いて驚いている。もしかしたら、4人分の飲み物代以上の額を店員に渡したのかもしれないとティファは思ったが、ティファはまずはメンバーの2人の方を振り向いた。


「えっと……どうしようか……?」


ティファは苦笑を浮かべて2人に尋ねる。と言っても、正直どうしようもない話なのだが……


「彼女は依頼人の事を知ってるみたいだった。つまり、この依頼は最初から私達を彼女に会わせるのが目的だったみたいね」


「えっ!?どういう事!?」


リッカは頼んだアイスコーヒーはストローで2、3回かき回した後、ストローを使い一口含んでから答え始める。


「恐らく、本当の依頼は私達に彼女の護衛をしてほしいって物。けど、一目見た感じだと、彼女の性格上、スライムが関わってる事件なら1人でしっかり解決するから護衛なんて必要ないと言いかねない。だから、あえて私達をあえて彼女に接触させようにあんな依頼を出した。そうすれば、お人好しのうちのリーダーは彼女を放っておく事なんて出来ないでしょ?」


「うぐっ……!?」


リッカの指摘を受けて言葉を詰まらせるティファ。確かに、リッカの言う通り、ティファはマリーの事を助けたいと思っている。スライムとはいえ、スライムを家族だと思って行動している彼女を見捨てる事が出来ないでいた。


「エルーシャの渋った態度にも納得だわ。あからさまにティファの良心をつけ狙った依頼だもの。そりゃあ渋っても仕方ないわね。けど、レオって人がそれ相応の身分だから断れなかったって事か……まぁ、それはあのマリーって人もだけど……」


「うん。でも、私、マリーさんを放っておく事は出来ないよ……」


完全に依頼人のレオの術中にハマっている幼馴染に溜息をつくリッカ。けど、どんな依頼でマリーに関わっていたとしても、ティファは同じ決断をしただろう。リッカは思わず苦笑を浮かべる。


「しかし、どうしますか?もうすでにマリーさんはどこか行ってしまったみたいですし……」


アヤはマリーが去って行った方を見てそう口にする。今からマリーを追っても、もうすでに姿は見えないし、辺りもだいぶ暗くなっている。ただでさえ物騒な噂があるアスファルト領でなくても、夜に少女が3人で出歩くのは危険だろう。


「……とりあえず、今日は宿屋で一泊して、明日の朝彼女を探しに行きましょう」


「そうだね。そうしようか」


リッカの意見にティファは同意の言葉を述べる。アヤも首を縦に振る。こうして、3人はせっかくだから喫茶店で軽く夕食を摂った後、3人で宿屋に向かって一泊した。3人共、マリーとの戦闘疲れがあった為か、その日はすぐに眠りについた。



  この選択が3人をとんでもない事態に巻き込むと知らずに…………

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