王太子アルフレッドsideストーリー

  王都ギルドディアの王城。その一室というか、自室で王太子アルフレッドは1人耳を傾けている。と言っても、自室には自分ともう1人しかいない。その1人もアルフレッドの事を邪魔せずに沈黙して立っている。だが、それでもアルフレッドは真剣は誰かの声を聞き届けるように耳を傾けていた。

  ギルドディアの王族には、王族専用の冒険者とはまた違うスキルを所有している。と言っても、このスキルが、昔に比べ継承する者が少なくなっていき、王族専用スキルを継承する者は即次期国王に任命される。

  そんな王族専用スキルはいくつも所有している事から、幼い頃より次期国王の座を与えられた王太子アルフレッドは、王族専用スキルの一つ『民の声』で、国民の声に耳を傾けていた。


王族専用スキル『民の声』は、この王都ギルドディアに住まう者の声を聞く事が出来、国民が何に不満を持ち関心を持っているか聞く事が出来るスキルである。しかし、当然国民全部の声が聞ける訳ではない。民が一際関心が高く話題が上がってる声を聞けるだけである。

  そして、そんな『民の声』を使ってアルフレッドは自身が1番関心の高い話題を聞き届けた。


「ほう……あのティファが新しいメンバーを……しかも攻撃力999999の数値を持つ格闘家の少女か!これは是非会ってみなくては!」


王太子アルフレッドは早速出かけようと自室を出ようとするが、部屋に待機していたもう1人に首根っこを掴まれて阻止される。


「王太子殿下。王太子殿下ともあろう方がそうホイホイと町へ繰り出さないでください」


その男は、無表情でアルフレッドを睨んでそう言った。王太子の首根っこを掴み、あまつさえ睨みつけるなど不敬とも言える行為だが、そうしなければアルフレッドが止まらないというのもあるが、もう一つ彼が不敬罪にならない理由があった。


「相変わらず固いなぁ〜。我が弟よ。たまには私にも息抜きが必要だと思わないか?」


アルフレッドはおどけた口調でその男に語りかける。そう彼は、アルフレッドの男で、この国の第二王子でもあるレオン・ギルドディアである。

  レオンは兄アルフレッドと同じく美しい金髪をしているが、アルフレッドとは真逆で常に人を凍てつかすような無表情をしている。まぁ、それでも兄とタイプの違うクール系のイケメンであるのだが。

レオンは第二王子だが、アルフレッドが王太子になってから、さっさと王位継承権を放棄し、現在はアルフレッドの右腕のような秘書的な立ち位置で動いている。


「息抜きなら先の決闘で十分されたのでは?」


レオンは基本無表情だが、その額には青筋が浮かんでいる。先のティファとガブリィの決闘の件は、アルフレッドがほぼ勝手に1人でゴリ押しで進めたのである。そのせいで、レオンがアルフレッドの公務を1人肩代わりするはめになったので、アルフレッドは弟がまだその時の事を根に持ってるなと、長い付き合いから察している。


「いやあぁ〜。これも立派な公務だよ。レオン君」


「先程聞いた内容ではとても公務とは思えませんが?」


アルフレッドの言葉に、レオンはアッサリとそう言い返す。アルフレッドはどうしたもんかと考える。この堅物でクソ真面目な弟をどうやって騙して、ここから抜け出そうか考えていると……


「……ん?はぁ〜……またか……」


突然アルフレッドが深い溜息をついた。そのアルフレッドの急変に、長い付き合いから何かあったと察したレオンは掴んでいた首根っこを離す。アルフレッドは自室にある机に王都ギルドディア全体を描いた地図を広げ、ある場所を指差す。


「ここで、また小さな女の子が行方不明になったと……私の『民の声』の力で耳に入ってきた……」


「またですか?最近この辺りでそういった事件が多発していますね」


  最近、とある貴族の領地付近で小さな女の子が行方不明になる事件が勃発していた。流石に『民の声』でその話題が多くなったので、アルフレッドが兵士を使ってその貴族に問い合わせたが、「よく分からない」との返答が返ってきた。ならば、国が調査に乗り出すかと問うても、「自分の領地の事は自分で解決しますので、お手を輪ずらせる事はありません」と返ってきただけだった。


「どうします?流石に被害も多くなってきてます。強制捜査に乗り出しますか?」


「いや、強制捜査に乗り出し、何も無かったらそれで終いだ。下手したらこっちの立場が危うい」


「歯痒いですね……事件は間違いなく起きているのに何も出来ないとは……」


「いっそ、俺がただの平民アルフとして調査を……」


「それは絶対にダメです」


いつもやっている王都の街並みを散策するのとは違い、明らかに危険だと思う場所に王太子を派遣するなど出来るはずがない。


「しかし、ならどうする?他に手はあるのか?この貴族はこれだけ領地に事件を起こしながらも隠し通す古狸だぞ。普通の方法ではまず無理だ」


アルフレッドの言う事は最もで、この貴族はそれだけの事が出来る地位や身分がある貴族である。普通の方法では調べる事すら出来ない。


「……ん?ちょっ!?おい!?マジか!?」


思わず王太子らしからぬ声を上げるアルフレッドに、注意するよりも気になってレオンは問いかける。


「何かあったのですか?」


「…………あいつがその問題になってる領地に向かったと……俺のもう一つの王族専用スキルで判明した」


  アルフレッドが深々と溜息をついてそう告げる。アルフレッドが告げた「あいつ」にレオンは心当たりがあり、レオンの片眉がピクピクと上がる。


「何故急にアレが動きを……って……一つしかありませんか……」


「あぁ、そうだな。あいつが動く理由なんて一つしかない……」


アルフレッドは深々と溜息を一つつき



「スライム探しだ」
















「ハックシュン!?……ん?これは……またお兄様達がまた私の噂をしてそうですわね。ですが!私は止められませんわ!待っていてくださいね!私の愛しのブラックスライムちゃん!」


金髪の長い綺麗な髪を靡かせた1人の少女が、意気揚々とアルフレッドが問題視していた領地に向かう。


  その少女の後ろには、千をも超える大量のスライムが、少女に付き従うように移動していた。


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