王太子は勝者を宣言する

  ガブリィが波動によって無惨に吹っ飛ばされ、ティファの勝利かと誰もが思っていたら、その肝心のティファも目を回して倒れているのを見て、観客達がどうなってるんだ?とザワつき始める。王太子アルフレッドはティファの状態を軽く確認した後、会場に控えていたコロシアムを普段は運営する闘技ギルドの者と協議し始める。

  一体ティファに何が起こったんだと皆が疑問に感じている中、やはり1番付き合いの長い幼馴染のリッカが、ティファのやった事を察した。


「もしかして……あの娘……盾を回してたんじゃなくて、盾と一緒に回ってたって事?」


「ん?どういう事だい?リッカ」


母親のステラに尋ねられ、リッカはティファの作戦を溜息混じりに説明する。


  ティファは6色の盾を、一つは自分の真上に移動させて、他5つの盾には自分を囲うように移動させた後、その盾と一緒にグルグル回りながら常時『プロリフレ』を発動し続けたのである。グルグル回す事により、自分が構えてる盾がどれか分からなくさせ、自分が構えてる盾とは知らずに攻撃して地雷を踏ませる作戦だ。


「って……その作戦……ティファの大盾は水色なんだから、それさえ攻撃しなけれゃいい話なんじゃないのかい?」


「そうね。正にこの作戦の欠点はそこだけど……相手がそこまで考えてないバカだから功を奏したのよ」


リッカは呆れたように溜息をついてそう言った。ステラの言う通り、しっかり水色の盾を見極めていればどうって事ない稚拙な欠陥だらけの作戦だが、ガブリィがティファの事を下に見て、ティファの事について何も研究していなかった為、この作戦で撃退出来たのである。


「でも、この作戦にはもう一つ大きな欠点があった。それが、グルグルと回ったせいで目が回ってしまう事よ」


「あぁ……なるほど……そういう事か……」


リッカの説明を聞いて、ステラは納得したように苦笑を浮かべて倒れているティファを見た。

  ようは、ティファはずっとグルグル回っていたせいで目が回り、しかも、『プロリフレ』を使った反動で目が回っていたティファはヨロヨロとフラつき倒れ、目を回してるせいで起き上がれなくなったのだ。『全状態異常無効』を持つティファだが、自分で目を回した状態異常は無効に出来なかったようだ。


  そして、審議がようやく終わった王太子アルフレッドがマイクを手に取り語り始める。


『皆、お待たせして申し訳ない。先程の決闘の様子を色んな箇所で映した映像で確認したところ、2人共同時に倒れている事が判明した』


王太子アルフレッドの言葉に観客がザワつき始める。決闘のルールには、例えHPが残っていても、地面に倒れて伏して起き上がれなくなった場合敗北というルールもある。それにのっとればティファも負けた事になる。が、両者共に倒れたなら、先に倒れた方が負けになる。しかし、同時に倒れたなら引き分けという事になるのだろうか?と観客は思った。


『引き分けにすべしという意見もあったが、ガブリィの方はHPが0になり、完全な敗北の姿を晒してる一方で、ティファは全くの無傷な上に、あのケルベロスにすら勝利した事も考え、最終的に私が判断を下し……この決闘……ティファの勝ちとする!!よって!この決闘の勝者はティファだ!!皆!勝者に盛大な拍手と声援を!!」


王太子アルフレッドの宣言に、観客達が一斉に立ち上がり、ティファの勝利を讃える拍手と歓声を送る。

  エルーシャ・シャーリィー・マウローの3人は静かに立ち上がり拍手する。

  ヒルダは未だに興奮が収まらず、「やっぱりスキルは偉大よぉ〜!」と叫んで身体をくねらせている。そんなヒルダに苦笑を浮かべつつ、コックルもティファに拍手を送る。

  ヤン・ポン・ロンの3人は嬉し涙を浮かべながら、3人で抱き合ってティファの勝利に喜んでいた。

  シンシアは、微笑みを浮かべながら、ティファに拍手を送った。その隣には亡き親友が同じように拍手をしているようにシンシアは感じた。

  リッカとリッカの両親も立ち上がり、ティファへ勝利を讃える拍手を送っていた。リッカは、きっと起き上がった幼馴染は、自分が恥ずかしい姿で勝利したのを思い出し、顔を真っ赤にさせて閉じこもりそうだから、自分が後でフォローしなきゃなと苦笑を浮かべながらそう思った。













  そんな祝福ムードに包まれた観客席の一角で、フード目深に被った者が、会場を静かに見つめていた。こんな怪しい姿をした者がいるのに、会場の観客は誰一人気づく事なく、ティファに祝福の拍手と歓声を送っている。


「ケルベロスが倒され、ケルベロスに見合うだけの額が得られていないが、魔道具で魔物を出す事には成功。残念ながら、使用者が低能である為、ケルベロスをコントロール出来なかったが、まぁ、実験はだいたい上手くいったようだから、これはこれで悪くない」


フードを被った者は静かに立ち上がり、未だに興奮して歓声を送る観客の横を通り過ぎる。やはり、誰もフードの者が立ち去って行く姿に気づかない。


「それにしても……話を聞いてとんでもない防御力の持ち主だとは思ったが、まさかケルベロスの牙を砕く程とは……そういう意味でも収穫は大いにあったな」


フードの者はニヤリと笑みを浮かべると、誰にも気づかれぬままコロシアムから姿を消した。

  

  

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