大盾使いの少女は装備品を作製を依頼する

 リッカに連れられてティファがやって来たのは「ルボル」という看板がたてられたお店である。リッカが扉を開け入店するので、ティファも続くように入店する。


「ごめんくださぁ〜い!コックルさんいますか?」


「おや?リッカちゃん!どうしたの?また指輪の調整に来たのかな?」


入店したリッカが誰かを呼ぶと、いかにも鍛治職人らしき作業服を来た女性がやって来た。だが、その女性は頭の上に犬耳と、お尻にも犬の尻尾がある犬型の獣人だった。年齢は20歳前半ぐらいで、顔立ちはかなり美人で、鍛冶職人をやってるとは思えない程だ。おまけに胸はリッカ並に……いや、リッカ以上にあるかもしれない。自分のぺったんな胸と2人の胸を比べて若干凹むティファ。


「おや?その娘……もしかして……」


「そう。前にも話した私の幼馴染」


「そうか!君が噂のティファちゃんか!すっごく会いたかったよぉ〜!!」


リッカにコックルさんと呼ばれた獣人の女性はキラキラした瞳でティファを見つめている。尻尾も喜びを表すかのようにブンブン音をたてて振られている。ティファはどう対応したらいいか分からず、チラッとリッカの方を見る。リッカは盛大な溜息をつき


「コックルさん。落ち着いてください。まだお互いに自己紹介もしてないでしょう」


「おっと……そうだった……ごめんねぇ〜。興奮するとつい我を忘れちゃって……」


コックルは頭の後ろをかいて謝罪する。そして、すぐにコホンと咳払いを一つして


「私はこの「ルボル」の店主で、鍛冶職人でもあるコックル。見て分かる通り犬型の獣人だよ。リッカちゃんの装備品を作った者でもある。よろしくね」


コックルはニッコリ笑ってティファに自己紹介をする。それを受けてティファも慌てて自己紹介をする。


「はじめまして!リッカの幼馴染で、冒険者ランクDランクの大盾使いのティファです!よろしくお願いします!」


「うん。知ってるよ。君の事は散々リッカちゃんから聞かされてるし、冒険者の間でも有名だからねぇ〜。規格外の冒険者の持ち主だって」


まさか、自分がそんなに噂になってるなんて思いもよらず、ティファは乾いた笑みを浮かべていると、コックルは何故かティファの匂いを嗅ぎ始めた。


「スンスン……!確かに!これは凄い匂いだよ!!」


「えっ!?私ってそんな臭いますか!?」


ちゃんと夜はお風呂に入ったし、今日は暖かいとはいえ汗をかいた覚えはないのになぁ〜と思いつつも、ティファは自分自身の匂いを確かめようとすると、コックルさんは慌てて首を横に振る。


「違う!違う!私はね!人のステータスを匂いで判別出来るんだよ!」


「人のステータスを……匂いでですか……?」


「私も最初来た時似たような事されて、似たような事言われたわね……」


「だって!仕方ないじゃない!まだ冒険者成り立ての娘があんな濃い魔力の匂いを漂わせてるんだもん!ビックリして2回も嗅いじゃったのは私だって初めてだよ!」


 リッカも似たように匂いを嗅がれたらしく、ジト目でコックルを睨むと、コックルも慌てたように反論する。


「あの……犬型の獣人さんは皆さんそういった特徴が……?」


このギルドディアに来てから多種多様な獣人達のような亜人の人に会った事があるティファだが、その特徴まで知らずそう尋ねると、コックルは顎に指をあて


「う〜ん……犬型の獣人は匂いで何か判別する能力を持つ者はたくさんいるから、もしかしたらいるかもしれないけど、少なくともギルドディアでは私以外には聞かないかな……」


ステータスが匂いで判別出来るのはコックルだけらしい。それを聞いたティファは「なるほど…」と言ってメモをとる。何故メモをとるかというと……


「これから依頼で色んな人に関わるだろうからね。色んな人の事情は知っておいて損はないよ。特に、他国の人とかは他国のルールが存在したり、亜人のそれぞれの種族には、それぞれの種族のルールもあったりするからね」


と、エルーシャからアドバイスを貰ったからである。これもパーティーリーダーに必要だと考え、クソ真面目にメモをする幼馴染にリッカは溜息をつく。


「それにしても……リッカちゃんの魔力の匂いも濃かったけど……ティファちゃんの防御力の匂いはそれ以上だねぇ〜……」


「えっ!?やっぱりそうなんですか!?」


もうすでにギルドで判明した物を見せてもらったのに、改めて他の人にも言われても、やはり驚いてしまうティファ。そんなティファに微笑みながらコックルは首を縦に振る。


「私はこの店をやってきて様々な大盾使いを見てきたし、防御力自慢の人も見てきたけど……正直その人達が霞んで見えるぐらいの濃い防御力の匂いがティファちゃんから漂ってるよ」


先程から匂いが濃いと言われて若干恥ずかしくて顔が真っ赤になる。隣でリッカが「慣れなさい」と小声で忠告する。


「けど!これだけの規格外の防御力の持ち主の装備品作製なんて!鍛冶職人の腕が鳴るよ!あぁ!もう創作意欲が湧き起こってくるぅ〜!ワォ〜ン!!」


コックルは再び最初の時のように目をキラキラ輝かせると、素早い動きで作業机に向かい何かを書き始める。まだ何も依頼してないのに、もう何故か自分の装備を作る気満々のコックルにティファが焦っていると、リッカは軽く溜息をつき


「コックルさん。腕は確かな職人さんよ。ただ、なんというか……装備作製するのが大好き過ぎてね……特に私やティファのような規格外のステータスの持ち主の匂いを嗅ぐと、創作意欲が湧いて仕方ないらしいわ」


リッカの説明になんとも言えない表情になるティファ。その間にもコックルは鎧や大盾らしき図面を次々と書き上げていく。


「まぁ、でも……腕は確かだから……」


「それはリッカの装備を見たら分かるけど、私まだ値段交渉とか色々してないんだけど……」


「とりあえず値段は大丈夫じゃないかしら?本人前からティファに会いたい。ティファに似合う装備品作ってみたい。ティファの装備品作れるなタダでいいって言ってたし……」


「いや……流石にそれは悪いよ……」


「おっと……私とした事が忘れるとこだった。ティファちゃん。何かこういう装備品にしたいとかある?デザインとか色とか」


リッカとそんな会話していたら急に話しかけられ、思わずティファはビックリして肩が跳ね上がる。


「えっと……デザインや色はお任せします……ただ……その一つだけ……」


「ん?なんだい?」


「その……素早さを上げられたらいいなぁ〜って……」


「素早さ?」


ティファからの要求に不思議そうに首を横に傾げるコックル。ティファはコックルに素早さを上げたい理由をコックルに説明した。


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