二章

大盾使いの少女は冒険者に必要な事を知る

ガブリィがギルドで散々喚き散らした上で恥をかいている頃、新しく2人だけのパーティーを組んだティファとリッカは王都ギルドディアの商業区域の近くにあるベンチに腰かけていた。

 ティファは難しい顔でエルーシャに渡されたパーティーリーダーになった際のルールを必死で頭に詰め込んでいた。


「そうか……ギルドポイントはちゃんとメンバーに平等に振り分けなきゃいけないんだね……依頼をクリアしたらちゃんとリッカにも渡すからね」


ティファは、まさか自分へポイントを振り分けないのがルール違反だと知らず、ガブリィに対して少し複雑な想いを抱くようになったが、反面教師と思い気持ちを切り替えて自分はちゃんとしたリーダーになろうと決意した。


「あぁ、私ならしばらくポイントいらないから大丈夫よ」


「うえぇ!?でも!?それはルール違反なんだよ!?」


そう決意したばかりなのにまさかリッカからそんな言葉がくるとは思わず驚愕するティファ。しかし、ティファは先程商店で買ったアイスを舐めながら


「そもそも私Aランクよ。今更ポイント必要だと思う?」


「うっ……それは……」


Aランクと言えばSランクの次に高いランクである。いや、Sランクはそもそも世界的な規模の事件を解決した熟練の冒険者に与えられるものなので、実質はAランクが1番高いランクである。


「むしろ、ティファが1番ポイント必要になるでしょ。いつまでもリーダーなのに私より下のランクじゃ格好がつかないわよ。まぁ、あのバカは例外だけど……」


自分がAランクになってもランクを上げる努力もせず、むしろ自分がパーティーにいる事を周りに自慢するような無能の顔を思い出し、リッカの髪がまた逆立つ。若干持っていたアイスが急速に溶けていく。


「けど……ルールが……」


「マスターに確認したけど、メンバーの同意があればリーダーが保有していても問題ないそうよ」


ギルドポイントはお金ね代わりにもなる。冒険者には何かと物が入り用になる為、メンバーと相談し話し合い、同意が得られたならギルドポイントをリーダーがそのまま保有するのは問題ない。ただし、メンバーを騙して自分の好きなようにポイントを使えば問題行為になるが


「それより……問題はティファ。あなたよ」


リッカはベンチからスッと立ち上がると、ティファを上から下までじっくり眺める。幼馴染が何故自分をジッと見るのか分からず、ティファはポカンとしていると、リッカはコホンと一つ咳払いをする。


「今のティファには冒険者として必要な事が欠けているわ」


「えっ!?何!?私の何が欠けてるの!!?」


リッカに突然そんな事を言われて焦るティファ。一応、1年間冒険者としてやってきたので、それなりに冒険者の心得はあると自負していたのだが……しかし、そんな風に思ってる幼馴染の間違いを指摘するかのようにズビシッとリッカはティファを指差す。


「ティファが冒険者として欠けてる物……それは……装備品よ!!」


「えっ……あっ……あぁ……」


リッカの指摘にティファは納得したように俯いた。ティファの現在の装備は、冒険者登録した際に渡された初心者向けの大盾と、冒険者初心者用の防護服である。ティファの事を知らない者から見たら、間違いなく駆け出しの冒険者にしか見られないだろう。


「ティファは防御力の数値は最初から高いから、その初期の装備でも何とかやってけるでしょうね。でも!装備品の効果ってのはそれだけじゃないわ!」


リッカのまるで学校の先生のように語る態度に、ティファも生徒になった気分で耳を傾ける。


「騎士が鎧で騎士を示すように!女性達が綺麗なドレスで男性にアピールするように!冒険者はそれなりの装備を着て!依頼人に私達は一人前の冒険者ですよってアピールする為に必要なのよ!」


「な……!なるほど……!?」


あまりにも説得力のある言葉に、先程まで渡されていた紙の裏に、リッカの言葉をメモするティファ。そんなティファを見てリッカは満足そうに頷き


「特にティファ!あなたはもうパーティーのリーダーなんだから!それなりの装備品は絶対必要よ!」


「そ……!そうだよね……!私がリーダーなんだからリッカの隣にいて恥ずかしくない装備をしないとダメだよね!」


ティファは思わず立ち上がってグッと握った拳を上げる。その言葉を待ってましたと言わんばかりにリッカはティファの手をとる。


「分かってくれたなら早速行きましょう」


「へっ?行くってどこに?」


ティファはリッカの言葉に首を横に傾げると、リッカは自分の髪と同じ真紅のローブをアピールするようにクルリと一回転した。


「もちろん。私のこの装備品を作ってくれた武具屋さんによ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る