大盾使いの少女はみんなと同じスピードで歩きたいと望む
ティファの素早さの数値は0である。そのせいで他の誰よりも歩くスピードや走るスピードが遅く、パーティーで移動する時もいつも1番後ろだった。故に、皆がティファの歩行速度に合わせなければいけない為、メンバーに迷惑をかけていたとティファは語る。
「あぁ……一応言っておくけどティファの歩くのが遅いのを気にしてたのはあのバカだけよ」
「えっ!?そうなの!?」
あのバカ=ガブリィだと認識するようになったティファに思わず苦笑するリッカ。
「メンバーの人はティファの事を貴重戦略だと認めてたわよ。その証拠にあのバカ以外は冷たく接してなかったでしょ?」
リッカにそう言われ、ティファは思い返してみれば確かにガブリィ以外の人は皆自分に親切だった。
「てっきりガブリィさんが私に冷たくあたるから同情してるのかと思ってた……」
「それも無きにしもあらずだけどね。でも、ティファに才能が無かったらティファに冒険者辞めるように忠告してるわよ」
確かに、ガブリィさんよりも冒険者経験のある人が何故かガブリィさんのパーティーに入っていたが、才能がないと思っていた自分を可愛がっていたし、むしろガブリィの方が冒険者を辞めるべきだと言っていた。他のメンバーも似たような感じだった。ガブリィに何回も冷たくあたられ、周囲の人の言葉や態度をちゃんと理解していなかったんだなぁ〜とティファは少し後悔した。
「私達が居なくなって今頃はあのバカのパーティーを抜ける人が続出してるでしょうね。残ってるのはお金を出して雇用してもらってる抜けるに抜けれない人達だけね」
リッカはいい気味だわと言わんばかりに黒く笑う。そんな幼馴染を見てティファは乾いた笑みを漏らすが、そう言えばコックルに要望の話をしている途中だったの思い出し、慌ててティファはコックルの方を向く。
「それで……素早さを上げられないでしょうか?やっぱりリッカと同じペースで歩きたいですし、リッカのピンチに駆けつけられないのも困りますし……」
ティファがそう言ってコックルを見たら、何故かコックルはキョトンとした表情でティファ達を見ていた。
「あれ?ティファちゃんは「タンクシューズ」は貰ってないの?」
「はい?「タンクシューズ」……ですか……?」
不思議そうにそう尋ねるコックルに、ティファも不思議そうに首を横に傾げる。これは本当に知らないんだと悟り、コックルは溜息をついて「タンクシューズ」の説明をした。
「タンクシューズ」とは、大盾使いの必須装備である。大盾使いは素早さがとにかく低い者が多く、下手すると、冒険者になる前よりも歩くスピードが遅くなってしまう。故に、大盾使いを職業に選ぶ人が減って焦った冒険者ギルドが、鍛冶商ギルドと共同して開発したのが「タンクシューズ」である。これを履けば、自分本来の歩行スピードを取り戻せるので、大盾使いの必須アイテムになった。
「ただ、初期装備品には含まれてなくてね。パーティー登録をした際、パーティーのリーダーに配布される形になってるはずだよ。大盾使いはパーティーがあってこその職業だからそれで問題ないとギルドは考えたんだろうね」
それを聞いて、ティファは恐る恐る隣の幼馴染を見る。リッカは顔は無表情だが、明らかに怒りのオーラが立ち上がっている。しかし、リッカはおもむろに携帯型連絡魔道具を取り出し、あえてスピーカー機能という、周りの者にも会話が聞こえる状態で話し相手が出るのを待つ。数十秒経過し
『リッカちゃん?今日はコックルさんにティファちゃんの装備の作製依頼をしてるんじゃ?』
リッカが連絡した相手はシンシアだった。しかも、シンシアに今日の予定を伝え済みらしい。
「シンシア。あのバカがちゃんと冒険者登録時に「タンクシューズ」を受け取ったのか。そして、その「タンクシューズ」をどうしたのか確認してほしいんだけど」
リッカが淡々と用件を告げた途端、何故だろうか、魔道具越しからシンシアの怒りのオーラをティファは感じた。
『すぐに調べるので切らずに待ってもらえますか?』
「えぇ、分かったわ」
リッカがそう答え本当に数分後……
『まず、ギルドは間違いなくガブリィさんに「タンクシューズ」をお渡ししてます。そして、肝心のその「タンクシューズ」ですが……あのバカ行きつけの酒場でたまたま財布がなくて!仕方なく「タンクシューズ」を売って金を作って酒代を払った事が酒場の店主の証言で判明しましたよ!えぇ!!』
それはもう怒りを露わにしてそう叫ぶシンシア。ティファはなんとも言えない表情で乾いた笑みを浮かべる。しかし、何故かリッカは冷静に「そう。ありがとう」と言って連絡魔道具を切り
「ティファ。悪いけど用事が出来たわ。ちょっとゴミを灰すら無くなる程燃やしてくるから」
「うわあぁ〜!?待って!?待って!!?リッカ!?落ち着いて!?ストップ!!ストップ!?」
ガブリィに何かする気満々のリッカをティファは慌てて羽交い締めにして取り抑える。正直、ティファもガブリィに言いたい事は沢山あるが、自分の為にここまで怒ってくる幼馴染を見ると、もういいかという気持ちになってしまった。
とにかく、ティファは自分はもう気にしていないからと必死でリッカを宥めた。リッカは全然納得していないものの、ティファにこれだけ宥められガブリィの抹殺は諦めた。
「コックルさん。「タンクシューズ」は最高の……ギルドで無料配布される物よりも最高の品を作って。お金は私が言い値で出すから」
それでも、ちょっとした意地からリッカはコックルにそう注文した。そんなリッカにティファは思わず苦笑が漏れる。コックルも笑って「了解」と頷いた。
そして、ティファの装備品作製には3日かかると言われ、次の目的地に向かった。
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