大盾使いの少女は幼馴染の聖賢女と対話する

 ティファとリッカは現在「山猫亭」の食堂で朝ご飯を食べていた。

 ティファは目が覚めて何故自分の部屋にリッカがいるのかが分からなかったが、すぐに伝えるべきだと「話があるの!」とリッカに言ったら、リッカは何故か待ってと言わんばかりに手を突き出し


「実は昨晩急いで戻ってきたからお腹空いてるの。話の前にご飯にしましょう」


リッカがそう言った後、リッカのお腹が盛大に鳴って一緒ポカンとなるティファ。リッカは恥ずかしくて顔を真っ赤にして俯いてしまう。ティファはすぐに苦笑を浮かべ


「そうだね……私も昨日色々あってお腹空いてるからご飯先に食べよう……」


ティファがそう告げると、リッカは黙って頷き2人は食堂へ向かった。


 そして、それから数時間後、2人は朝ご飯を食べ終え食堂で小休止していた。昨晩から何も食べてないと言っていた為か、いつもより多めに食べてるなぁ〜とティファはどうでもいい事を思いながら、今がリッカと話せるチャンスだと思った。


「ねぇ……リッカ。話があるの」


ティファがそう言うと、リッカは何も言わずジッとティファを見つめている。長い付き合いから、すでにリッカが自分の続きの言葉を待ってる事に気づき、ティファは一度深呼吸して話し始めた。


「私ね……昨日ガブリィさんのパーティーをクビになったの。理由は……私が魔物の攻撃を受けてボケッと立ってるだけの役立たずだからって……」


ガブリィの名前が出された瞬間リッカの片眉がピクリと上がったが、それでもリッカは黙ってティファの続きの言葉を待った。


「それで……ギルドに行って……私は実は大盾使いとして優秀で、沢山の冒険者から「スカウト」を受けた。でも……私……ガブリィさんの言葉が忘れられなくて……「転職」する事も考えた……」


「転職」とは、文字通り冒険者職業を別の職業に変える事だ。「転職」はどのランクでも出来るのだが、お金がそれなりにかかるのと、ランクは再びFランクからやり直しになる為、よほどの事情がない限りする者はいない。

 しかし、ティファはそれを行う事を考えていた。いくら、ギルドであれだけ自分が凄いんだと言われても、パーティーリーダーのガブリィの言葉が忘れられそうになかった。だから、新たな職業でやり直す事を考えてしまった。


「でも……夢で思い出したの……私達の「約束」を……」


何故あんな大切な「約束」を自分は忘れてしまったのだろう。ティファの心に罪悪感と後悔が生まれる。


「私が冒険者登録した時……希望した職業で何で「大盾使い」を選んだのか……私……すっかり忘れてた……私はみんなを守る盾になるって夢を……それなのに……私は……」


気づいたらティファの目から涙がポロポロ零れ落ちていた。リッカは思わずハンカチを取り出して涙を拭きたい衝動に駆られたが必死で我慢した。今はティファの言葉を待つべきだと判断したからである。ティファも腕で自分の涙を拭ってリッカを見る。


「リッカはこんな私に失望して……ガブリィさんがいいと思って私を捨てたかもしれない……でも……私は……やっぱりリッカと「約束」を果たしたい……!あの「約束」は2人で交わした大切な夢の「約束」だから……!」


ティファは言うべき事を言った。だから、ジッとリッカの言葉を待った。リッカはしばらくの間沈黙していた。が、すぐに溜息を一つつき


「やっと思い出してくれたか……あのバガブリィのせいで自信喪失したのが原因か……これは私がティファを守る為とはいえ、ティファにもティファの良さを伝えなかったのは失策ね……」


唐突にそんな事をぶつぶつと呟きだした。ティファは首を横に傾げる。すると、リッカは再び溜息をついた後、深く深呼吸し


「最初に一つこれだけは訂正しとく。私がガブリィがよくてティファを捨てたとか絶対にあり得ないから!!!」


リッカはテーブルをバンッ!!と両手で叩いた後、ティファにむかってそう叫んだ。ティファは驚いて目が見開くが、リッカの怒りの言葉が続く。


「だいたい!あいつのどこがいいって言うのよ!?ステータスだって目立った特徴がある訳じゃないし!派手な技でわざわざ私にアピールしてるけど!それだってティファが魔物を引き寄せてくれるから命中させられてるだけでしょう!あんな派手でスキの多い技!ティファがいなくなったら絶対に当たらないからね!それに!私に惚れてみたいな事ほざいてるけど!常に胸が大きい女性冒険者に目がいってるの知ってるんだから!胸が大きけりゃ何でもいいのよ!!あのバカは!!!」


まるでこれまでの不満をぶつけるかのように語り出すリッカ。ティファはどう反応していいのか分からず、とりあえず黙ってリッカの話を聞いた。それからしばらく延々とリッカはガブリィへの不満をティファに話し、ようやく落ち着いたのかしばらく沈黙した後、急に立ち上がり始めた。


「まぁ、けどそれも今日で終いね。私もティファも奴から抜け出したんだから、さっさと私達の「約束」を行いましょう」


「えっ!?リッカ辞めてきたの!?」


「当たり前でしょ。ティファがいないならあそこにいる理由ないわよ」


さも当然とばかりに言うリッカに、ティファは本当に大丈夫か心配になった。ガブリィがリッカに執着していたのは、流石のティファにも分かっていたし……まぁ、本人はあれだけ嫌がっていたし、どのみち無理な話なのだが……


「そうと決まったら早速行くわよ。ティファ」


リッカは唐突にティファの手を取り、ティファを連れて「山猫亭」を出ようとする。


「ちょっ!?リッカ!?行くってどこに!!?」


「そんなの決まってるでしょ。ギルドよ。「約束」通りティファをリーダーにして2人でパーティー登録するのよ」


またさも当然と言わんばかりに話を進めるリッカにティファは制止の言葉をかける。


「ちょっ!?待って!?リッカ!無理だよ!?私がリーダーなんて!?」


「何?今更「約束」を違える訳じゃないわよね?」


「いや、そのつもりはないけど……その……」


若干言いづらそうに口籠るティファ。が、黙っても仕方ないので、ティファを意を決して無理な理由を話した。


「私……まだ冒険者ランクはFなの……」


「は?」


幼馴染の言葉が一瞬理解出来ず、リッカは口をポカンと開けてしばし呆然と立ち尽くした。

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