大盾使いの少女は幼き日の「約束」を思い出す

 これは、ティファ達が冒険者登録する前の幼き日の話


 この世界には、5人の英雄となった冒険者達がいた。

悪しき者を斬り裂く「剣士」

その拳は岩をも砕く「格闘家」

仲間達を守る盾「大盾使い」

攻撃魔術のエキスパート「賢人」

回復・支援魔術のエキスパート「聖女」


 かつて魔族を従える魔界の王。魔王が人間達を滅ぼそうとしていた。そんな魔王に魔族達を見事に撃退したのが先程の勇敢な5人の冒険者だ。彼らによって世界は救われ、5人の冒険者達「五大英雄」と呼ばれ、冒険者になる者は誰もが5人に憧れて冒険者を目指したといっても過言ではないだろう。


 そして、幼き日のティファもその1人であった。


「リッカ!私はいつか五大英雄様みたいな冒険者になる!!」


ティファは堂々と幼馴染であるリッカにそう宣言した。それを聞いたリッカを首を横に傾げた。


「五大英雄様みたいに?でも、もう魔王も魔族も倒されたから五大英雄様みたいな事は出来ないよ?」


 リッカの至極真っ当な意見に「うっ!?」と言葉を詰まらせるティファ。


「うっ……その……ほら!まだ魔物がいなくなった訳じゃないじゃない!それに!困ってる人を助けるのが冒険者の役目だしね!」


ティファはアタフタしながらもなんとか言い訳をする。だが、実際ティファの言い分も正しく、魔王が生み出した魔物は数が多く、繁殖もする為全部駆除は出来ない。それに、冒険者は魔物退治だけが仕事でもない。困ってる人の依頼をこなす便利屋なところもある。


「まぁ……それで五大英雄様みたいになれるとは思えないけど……でも、ティファはどの英雄様になりたいの?」


「えっ?」


「いや……だって……冒険者職業は1人一つしか選べないでしょ。まぁ、「賢人」様と「聖女」様なら同じ魔術使いだから1人で2人分の英雄様のようになれるかもだけど……」


冒険者登録時に冒険者職業を決められる。その際、希望があればその職に就く事が出来る。希望がない場合はギルドがその人の適正職を調べて、その職業にしてもらう事も可能である。

 が、その事を知らないティファは焦っていた。物語の五大英雄様には憧れたものの、どの英雄様みたいになりたいかは全く決めていなかった。焦ったティファがよく読んでいた「五大英雄物語」の本わチラッと見て、ティファはこれだっと思った職業をリッカに伝えた。


「うん!決めた!私!大盾使い様のような英雄になる!!」


「大盾使い様?何でまた……」


大盾使いは、五大英雄の職業の一つではあるものの、その職も使い勝手の悪さで冒険者からは不人気の職業である。そんな職業の英雄になりたいという幼馴染を不思議に思うリッカだが、ティファはやはり目をキラキラ輝かせて言った。


「だって!誰かを守る盾ってカッコいいじゃない!!……それに……私が守る盾を持っていたら……家族を守れたかもだし……」


「ティファ……」


ティファの言葉にリッカはなんとも言えない表情になる。

 ティファはかつて優しい両親と可愛いらしい妹の4人家族で暮らしていた。しかし、ある時ティファ達が住んでいた町に魔物が襲ってきた。偶然町にいた冒険者によって魔物は退治されたのだが、魔物が進行してきた場所のすぐ近くにあったティファの家が魔物の襲撃を受け、家にいた者は皆魔物に殺されてしまったのである。その際、たまたまリッカの家に寄っていたティファを除いて……


あれから時も経ち、ティファはリッカの家族と一緒に暮らすようになり、最初は落ち込んでいたが、徐々に昔のような明るさも取り戻したが、やはりあの時の事を忘れられないのだろう。だから、五大英雄様のようになりたいと言ってるのかもしれない。今度こそ大切な者を守り、自分のような犠牲者を出さない為に……


「……ティファが大盾使い様のようになるなら、私は賢人様と聖女様のポジション2つかな」


「えっ!?リッカ?」


幼馴染から突然そんな言葉が飛び出して驚いて目を見開くティファ。そんなティファを見てリッカは苦笑する。


「五大英雄様は1人で英雄になった訳じゃないんだよ。それに、ティファが全部守っても、ティファの事は誰が守るの?」


「リッカ……」


「だから、ティファの事は私が守る。だから!私は賢人様や聖女様みたいな凄い魔術使いになるわ!魔術を極めてみるのも楽しそうだしね!」


リッカの言葉にティファは胸が暖かくなる。少し涙が出そうになるのをティファはグッと堪え


「よし!それじゃあ!いつか2人でパーティー組んで!2人で五大英雄様みたいな冒険者になろう!」


「いいわよ。ただし、その際はパーティーのリーダーはティファだからね」


「えぇ!?私がぁ!!?」


「当然でしょ。こういうのは言い出しっぺがやるものよ」


 正直、リッカの方が頭がいいし、ズバッと物を言えるところもリーダーに向いてると思うんだけどなぁとティファは思ったが、リッカは一度言い出したら頑なに譲らない性格だと知ってるので、ティファは諦めの溜息をつく。


「分かったよ……それじゃあ……「約束」!いつか2人で冒険者になって!パーティー組んで!五大英雄様みたいな冒険者になろう!「約束」だよ!!」


「えぇ、その際はパーティーリーダーはティファなのもね」


「うぅ……分かってるよ……!」


 こうして2人は「約束」を交わしたのである……


















「ん……?ここは……?」


朝、起きたら見知らぬ天井に一瞬戸惑うティファだが、徐々に目が覚めていくうちに昨日の出来事を全て思い出し、ティファは軽く溜息をつく。そして、ティファは夢で忘れてしまった自分の大事な原点である「約束」を思い出した。


「リッカに会わなきゃ……」


リッカが自分のクビを了承したのなら、リッカは自分との「約束」を忘れたのかもしれない。いや、覚えていて自分のような役立たずではリッカの夢は達せられないと捨てられてしまったのかもしれない。

 それでも、ティファはリッカと一度ちゃんと話し合いたいと思った。何故なら、あの「約束」は2人で交わした大切な「約束」なのだから……




「私ならここにいるわよ」


「えっ?うわあぁ!!?リッカぁ!?」


 幼馴染の声が突然して、振り向いたらリッカが自分の寝ていたベッド横にある椅子に腰かけていたので、ティファは驚いてベッドから転がり落ちた。

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