幼馴染の聖賢女はギルドマスターと会話する

 ガブリィに色々突きつけてきたリッカは宿を出た後すぐに冒険者ギルドに足を運んだ。扉を開けたら受付で待っていたのはギルドマスターのエルーシャだけだった。


「シンシアは?」


「シンシアならもうあがったよ。リッカ君が来るまで残るとは言っていたけど、うちはホワイトな職場だからねぇ〜。残業なんてさせられないさ」


冒険者達をこんな時間まで平然とこき使える職場のどこがホワイトなんだと口から出そうになるのをリッカは堪える。


「じゃあ、マスターでもいいわ。ティファはどこにいるの?」


「うん。教えてもいいけど一つ一応念の為確認してもいい?」


「何……?」


リッカはさっきのガブリィの事もあって若干舌打ち混じりでそう言ったが、エルーシャは特に気にした様子もなくニコニコ笑っている。


「リッカ君がティファ君のクビを了承したっての本当かい?」


「はぁ!?そんな訳ないでしょ!!?」


あまりにも馬鹿げた発言にリッカはキレ気味でそう叫んだが、エルーシャはやはり特に気にした様子もなく「やっぱりそうだよねぇ〜」と笑いながらそう言った。

 ギルドマスターとして有能であるエルーシャが何故こんな事を聞くのか……リッカは瞬時にエルーシャがそんな事を聞いた意味を理解して、再び怒りで髪の毛が逆立ち始めた。


「あんのぉ!?バガブリィ!?やっぱり骨も残らず焼きつくしてやれば良かった!!!」


「こらこら……いくらなんでも犯罪はよくないよ」


「分かってるわよ!?だから!黒焦げだけに済ませてやったんじゃない!一応黒焦げの治療費も置いておいたわよ!!」


状態異常や深手の傷、HP0による瀕死状態はアルテミス教会で治療する事が出来る。ただし、その治療に見合うだけの金額は必要になる。リッカはガブリィを黒焦げ状態で倒した後、治療費と宿屋の店主に「あとはお願いします」と書いた置き手紙を置いておいた。宿屋の店主は気の良さそうな人だったので、今頃ガブリィは宿屋の店主に連れられて教会で治療してもらってるだろうとリッカは考えている。


「とりあえず、まずはティファ君だろう?ティファ君は「山猫亭」だ。野宿して一夜を明かすなんて言ったから止めておいたよ」


「……助かったわ。ありがとう。宿代は私が払うから」


「そう言うだろうと思って「山猫亭」の主人にも話を通してあるよ」


「……本当につくづく有能ね……あなたは……」


リッカは呆れたように溜息をつく。すると、先程まで笑っていたエルーシャが急に真剣な顔つきに変わった。


「それで……君達はこれからどうするんだい?もちろんガブリィ君のパーティーを君も抜けてきたんだろ?」


「当然よ。あんなとこに2度と戻るつもりはないわ」


「だろうね。それで……早速ティファ君とリッカ君2人をパーティーに「スカウト」したいという冒険者が続々ときてるんだよ」


エルーシャのその言葉に、リッカは「やっぱりか……」と溜息をついた。

 ティファの有用性を分かっていないのはあのバカだけだ。他の冒険者達がティファの「スカウト」を狙っていたのは薄々勘づいていた。なんせ、ティファはガブリィのパーティーで散々罵倒されていたし、辞める可能性が高かったから狙い目だったろう。おまけに、ティファが辞めたら自分も付いてくる可能性があるので一石二鳥だろう。


「……そうね。その辺の今後についてはティファ次第ね」


「そうか……私はてっきりもう2人パーティーを組んで活動すると思っていたよ。リッカ君をリーダーとしたパーティーをね」


パーティー登録は2人だけでも可能だが、パーティーのリーダーになる者は冒険者ランクがDランク以上の者でなければならない。そういう意味ではリッカは条件を満たしているのだが……


「当たらずも遠からずだけど……それだと私達の「約束」とは違うから私が拒否するわね」


「なるほど……「約束」ね……」


エルーシャは2人が冒険者登録した日をハッキリ覚えている。2人の若い少女が夢を持って冒険者登録していると、エルーシャは見た瞬間にそれを悟った。きっと、2人の夢はその「約束」が絡んでいるのかもしれない。


「まぁ、無理に聞くつもりないけど……私はどんな形であれ2人がパーティーを組むのはいいと思っている。魔力最強に防御最強の2人。とても面白いパーティーじゃないか」


「お褒めいただきどうも。まぁ、魔力最強と言われてもティファの防御には敵わないのだけど……まぁ、あなたの期待にそえられるかはその防御最強次第よ」


リッカはフッと微笑を浮かべながらそう言ってギルドを後にした。エルーシャは笑いながら去って行く真紅の髪の少女の後姿を眺めていた。


「きっと君達は私の期待に応えてくれるよ。冒険者時代から私の勘だけはよく当たるんだよ」


エルーシャはそう呟き、2人がパーティー登録の申請にくる姿を頭の中で想像し微笑んだ。

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