幼馴染の聖賢女は色々叩きつける

「それで……ティファをクビにしたってどういう事かしら?何故クビにしたのかしら?」


「いや……!?その……!?それは……!?」


ガブリィは目の前にいる少女の気迫に恐怖し、尻餅をついた状態でガクガクと震えていた。

 ガブリィの目の前に立つのは、真紅の長い髪に美少女とも美女とも言える顔立ち。魔術師のローブは露出があまりないが、そんな服からでも彼女がどれだけスタイルがいいのかが分かる。そんな美しい少女がニッコリと笑顔を浮かべているが、その目は全くと言っていい程笑っていない。おまけに、真紅の長い髪は彼女の魔力によるものか、彼女の怒りを表しているのか分からないが、異様なまで逆だっていていた。


 ガブリィの目の前で仁王立ちして笑顔を浮かべている少女こそ、ティファの幼馴染で魔力数値900000を叩き出し、ギルドディア内最高の魔力量保持者。攻撃魔術・回復魔術の全てを習得した事から『聖賢女』の称号を得ているリッカである。


 実は、ティファがガブリィにクビを宣告された時、リッカはギルドに頼まれて個人で隣村の魔物退治の依頼を受けていた。リッカはガブリィのパーティーに所属しているが、リッカの冒険者ランクはこれまでパーティーへしっかり貢献した事もあってAランクになっており、リーダーだが冒険者ランクがCランクのガブリィより上だったりする。

 よって、Aランクという高ランク冒険者であるリッカなら個人で依頼を受ける事も出来る。リッカが依頼を達成すればパーティーの評価にも繋がる為、それに関して誰も文句を言うものがいない。


 しかし、まさか自分が個人的に依頼を受けている間にあのバガブリィがティファをクビにするなんて……リッカはティファも一緒に連れて依頼をしなかった事をこの時激しく後悔した。


 隣村で突然大量発生した魔物を完膚なきまでに焼き尽くし、せっかくだからティファにお土産を買って帰ろうとお店を覗いていたら、突然携帯型の連絡用魔道具から発信があった。最初はティファがかけてきたかな?と思って見てみたら、相手はいつもお世話になってる冒険者ギルドの受付嬢のシンシアで、なんの用だろう?と出てみたら……


『リッカちゃん。多分依頼はクリアしたよね?だったら急いで戻ってきて。ティファちゃんがバガブリィにクビを言い渡されたわ』


なんて事を言われ、最初は耳を疑ったが、あのバガブリィのティファを蔑ろにしている態度や、シンシアがこんな事で嘘をつく性格ではないと判断し、即風魔法の力を使ってガブリィの所まで飛んだ。




「どうしたの?仮にもパーティーのリーダーなんだからハッキリ私の質問に答えたらどう?」


リッカはあくまでニッコリ笑ってそう尋ねる。が、ガブリィは何も答えない。いや、答えられないと言った方が正しい。

 そもそも、ティファをクビにした理由はボケッと立ってるだけの役立たずだと思っていた事もあるが、それよりも1番大きな理由はガブリィの嫉妬心である。


 1年前、ガブリィが冒険者ギルドを訪れた時、まだ冒険者登録してパーティーを探し中のリッカに出会った。リッカはガブリィの好みドンピシャだった。スタイルの良さも、気の強い感じのする性格も含めて。

 だから、誰かに取られる前に自分のパーティーに誘おうとリッカを必死に「スカウト」した。リッカは幼馴染の親友を入れてくれるのを条件に出した。正直、幼馴染の親友であるティファはガブリィの好みとは真逆の存在な上、大盾使いというあまり人気のない職持ちではあったが、それでもリッカが手に入るならとそれを承諾した。

 しかし、いざリッカをパーティーに入れ、どれだけリッカにアプローチしても、リッカは自分に全く振り向いてくれない。リッカの優先順位は常にティファが1位なのである。それでも、リッカに自分はそんなボケッと突っ立って魔物の攻撃を受けるしか能がない奴よりも役に立つアピールを戦闘でしても、やはりリッカが目を向けるのは自分ではなくティファだった。

 そんな鬱憤が溜まった結果、リッカが個人依頼を受けてる間にガブリィはリッカをクビにしたのである。が、もちろんそんな事を正直に話せば、このティファ最優先である少女は間違いなく自分を焼き尽くす。だから、ガブリィは何も言えずにいると、リッカは笑うのをやめて真顔で溜息をついた。


「まぁ、いいわ。どうせいつかはあの娘があの「約束」を思い出してくれたら、2人でこのパーティーを辞めるつもりだったし。それが今日になっただけね」


「なっ!?なんだと!?」


リッカは最初から辞めるつもりだったというのを聞き、驚愕で目を見開くガブリィ。そんなガブリィをリッカは冷たい眼差しで見つめる。


「ティファはあの「約束」を忘れてそうだけど……私は最初からこのパーティーは「約束」を果たす為の踏み台にしか考えてないもの」


リッカが最初から自分の事を踏み台としか考えていなかった。その事にガブリィは怒りをあらわにする。


「てめぇ!?ふざけんなよ!!?」


「ふざけるな?それはこっちのセリフよ。散々ティファを蔑ろにしておいて……私が怒ってないと思っていたわけ?」


「あんなボケッと立って魔物の攻撃を受けるしかないクズをクズ扱いして何が悪い!!?」


ガブリィがそれを口にした瞬間、リッカは恐ろしい眼差しでガブリィを睨みつける。ガブリィはそれを受け「ひいぃぃぃ!?」情けない声を上げて縮こまる。しばらく、ガブリィを睨んでいたリッカだったが、すぐにまた真顔になって溜息をつく。


「まぁ、どうでもいいわ。あんたみたいな奴にティファの有能性が分かるとは思ってないし」


 リッカはすでにティファの有能性に他の誰よりも早く気づいていた。いつも近くティファを見ていたリッカだからこそ気づいたんだろう。だが、リッカはそのティファの有能性をガブリィに説明しなかった。言っても理解しないだろうというのもあったが、説明してガブリィがティファを散々利用するかもしれない事を考慮したからである。だが、残念ながら結果はこの通りだ。どっちにしても同じだったかもしれないとリッカは感じた。


「とりあえず、今この時をもって私はこのパーティーを辞めるわ」


「ま……待て!?辞めるなら違約金を……!?」


この期に及んでまだバカな事を言ってくるガブリィを再び睨みつけるリッカ。が、すぐに溜息をつき


「私は「スカウト」枠だから払う必要はないのだけど……いいわ。私が今貯めているギルドポイントは全部あんたにくれてやるわ」


ギルドポイントとは、冒険者ギルドで依頼を達成すると報酬とは別で貰えるポイントで、このポイントを使えば、ギルドランクを上げられたり、色んなお店で物を購入出来たりする。

 いつかティファ共に歩む為、リッカはAランクになってからはずっとこのポイントを貯め、個人依頼もかなり受けてきたのでポイントは相当な数字だったが、リッカはそれを全部ガブリィに譲渡した。譲渡する必要性は1ミリもないのだが、これ以上文句を言ってティファに近寄ってきたりするのを防ぐ為である。


「じゃあ、これで十分でしょ。私は行くから」


「なっ!?ちょっ!?待て!!?」


「あっ、そうそう。忘れてた」


リッカはニッコリ笑顔を浮かべてガブリィの方を振り向く。そのリッカの笑みに思わず見惚れるガブリィ。そのリッカの右手上にある巨大な火の玉に気づかず……



「これが私の退職届よ。ティファの分も含めて受け取ってちょうだい」







 とある宿屋の一室で巨大な爆音が鳴り響き、慌てた店主が音のする部屋を確認したが、部屋はとくに荒れた様子がなく、部屋の真ん中には黒焦げになった男が1人倒れているだけだった……

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