大盾使いの少女はギルドマスターに助けてもらう
「もうこれで分かったろ。ティファ。あんたは大盾使いとして優秀さね。だから私達はあんたを「スカウト」してるのさ。それで……どうするんだい?」
「ふえぇ!?あの……!?その……!?」
シャーリィーの言葉にどうすればいいか戸惑ってしまう。正直、ティファが願った以上の展開にはなっているが、ティファは先程リッカのついでとはいえ、「スカウト」で入ったガブリィのパーティーをクビになったばかりである。その事がティファが他のパーティーの「スカウト」を受けるのを躊躇させていた。
「はいはい!みんな!そこまでだよ!」
手を大きく叩いて1人の女性がティファの前まで優雅に歩み寄った。
「ギルドマスター!?」
自分に歩み寄って来た女性を見てティファは目を見開いて驚いた。彼女こそ、この王都ギルドディアの冒険者ギルドの総責任者であるギルドマスターのエルーシャだ。元は冒険者で冒険者ランクもSだった事もあり、その存在感は周りの騒いでいた冒険者達を静かにさせた。
「ティファ君はバガ……ガブリィ君のパーティーを不当にクビになったばかり。おまけにリッカちゃんの件で誤解している事もある。少し考える時間が必要だと思うがどうかな?」
エルーシャの言葉にギルドにいた冒険者達が全員が沈黙した。そして、代表するようにシャーリィーとマウローがティファに頭を下げた。
「すまないね。ティファ。あんたの気持ちも考えずに「スカウト」をしちまったよ。許しとくれ」
「俺もすまない。お前が手に入ると思って興奮してそこを考えていなかった。本当に悪かった」
王都ギルドディアを代表する2人のSランクが揃って頭を下げるのを見て、慌ててギルド内の冒険者達も『ごめんなさい!!』と言ってティファに頭を下げて謝罪する。
「皆さん!?どうか頭を上げてください!皆さんが私の為に「スカウト」してくださった気持ちは嬉しく思ってますから!?」
突然謝罪されて、ティファは余計にアタフタしながらも頭を上げてくれるよう声をかける。ティファの言葉を受け、ギルド内の冒険者達は頭を上げたのでティファはホッと安堵する。
「だけど、ティファ。「スカウト」の件は考えとくれ。あたし達はティファを必要としてるんだからさ」
「さっきみたいに急いで結論を出せとはもう言わん。だが、何らかの答えをくれると俺達も嬉しい」
再び代表してシャーリィーとマウローがティファにそう声をかけると、ギルド内の冒険者達も黙って頷いた。
「……分かりました。自分なりに答えを出して決めたいと思います」
ティファが皆にそう返事をした事で、ティファの「スカウト」の話は一旦保留という事になった。エルーシャはニッコリと笑ってティファの方を振り向き
「それで、ティファ君はこれからどこに滞在する予定なんだい?」
「えっ……?あっ……えっと……その……」
エルーシャの言葉に再びティファは言いづらそうに口籠ってしまう。だが、ここで黙っていても仕方ないと思い、ティファはその重たい口を開く。
「その……あまり持ち合わせのお金が無くて……野宿して過ごそうかと……」
ティファの言葉を聞いたギルドにいた者全ての人が固まった。エルーシャすらしばらく固まっていたが、なんとか笑顔でティファに言葉をかける。
「ティファ君はガブリィ君からクビを言い渡されたんだろ?だったら違約金……あっ、そっか……ティファちゃんも一応「スカウト」だったか……」
エルーシャは違約金の事を言おうとして、ティファが「スカウト」でガブリィのパーティーに入ったの思い出してこめかみを抑えて溜息をついた。
お金を出してパーティーに入った雇用契約の場合、雇用するという期間内にパーティーを辞める、もしくは辞めさせられた場合、それを告げた方が違約金として渡したお金の倍額を払うシステムになっている。
が、逆に「スカウト」の場合は辞めるか辞めさせられても双方共に違約金は発生しない。その代わり、どちらかが不服を訴えても成立するのが「スカウト」システムである。自由にパーティーを抜けるのを促す為のシステムが、ティファの件は見事に穴を突かれた。
「でも、ティファ君はそれなりに貯蓄はあったよね?」
「はい……ですが……あまり貰ってないのでそこまでの貯蓄ではないですし……今後の事を考えるとちゃんととっておきたいです……」
冒険者とはなにかと入り用が多い職業だ。装備品だけで3日分の生活費ぐらいの金額になるのはよくある話だ。ティファの言い分は元冒険者であるエルーシャにも理解出来る話だった。だが、流石に冒険者で防御力∞とはいえ、16歳の少女を野宿させるなんて事をさせるつもりはエルーシャにはなかった。
「分かった。ティファ君。今から「山猫亭」に私の方から連絡するから「山猫亭」に今日は泊めてもらいなさい」
「えっ!?でも!?ギルドマスターにご迷惑をかける訳には……!?」
「このぐらい迷惑でも何でもないさ。冒険者をサポートするのが冒険者ギルドの役目だからね。私はそのマスターでもあるんだからね。もし、それでも気になるなら依頼で返してくれたらいいさ」
エルーシャの有無を言わさぬ笑顔に押され、ティファは「お世話になります」と返事して、エルーシャに頭を下げた。
こうして、ティファはエルーシャのおかげで野宿で一晩を明かす事態は回避出来た。
「シンシア。リッカ君にティファ君の一件を連絡してくれ」
ティファが「山猫亭」へと向かったのを確認した後、エルーシャはすぐにシンシアに指示を出した。
「はい。もちろん。バガ……ガブリィさんのランクや評価を下げる手続きもついでに行います?」
シンシアがエルーシャにそう聞いたが、エルーシャはニッコリ笑って首を横に振った。
「必要ないさ。ティファ君だけじゃなく間違いなくリッカ君もいなくなるんだ。彼の評価は勝手に下がっていくさ」
「それもそうですねぇ〜。分かりました。リッカちゃんに連絡だけはしておきますねぇ〜」
「あぁ、頼んだよ」
エルーシャとシンシアはニッコリ笑いながら会話しているが、その目は全く笑っていなかった……
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