大盾使いの少女はギルドマスターに相談する

「うん。2人がパーティー登録への相談に来てくれる予感はしていたけれど、まさかこんな相談を持ちかけられるとはね……」


ティファとリッカがギルドに訪ねてきて、やはり自分の勘の通りパーティーを登録してくれるかと思っていたら、まさかの相談でエルーシャはこめかみを抑えて溜息をついた。


「すみません。マスター。私達のせいで頭を悩ませる事になってしまって……」


「いや、ティファ君のせいではないよ。これはむしろギルドと……まぁ大半はガブリィ君のせいだね……」


ガブリィの名前を出した途端、リッカが片眉を上げ怒りで髪の毛が逆立ち始めたので、ティファは必死でリッカを宥める。そんな2人の様子を見てエルーシャは深い溜息をついた。


 冒険者ランクを上げるには依頼をこなす事で貰えるギルドポイントをギルドで払い、ギルドがそのランクへ上げられると判断すれば冒険者ランクを上げる事が出来る。

 正直、ティファなら間違いなくリッカと同じA。いや、ティファの大盾使いとしての才能は間違いなくSランクと言っても過言ではない。だから、ギルド側としてはティファのランクを上げる事は何の問題もない。


 だが、問題は別にあった。ティファはランクを上げるのに必要なギルドポイントを1ポイントも持っていないのだ。と言うのも……


「ただ魔物の攻撃を受けてボケッとしてる奴にポイントなんて必要ないだろう!」


と言って、ガブリィがティファにギルドポイントを振り分けなかったのが原因である。

依頼をこなして、報酬とは別に貰えるギルドポイントは、パーティーでクリアした依頼だとリーダーである者に全て渡され、リーダーがメンバーにポイントを振り分けていくというシステムになっている。

 昔は、そのポイントの振り分けもギルドが担当していたのが、何十もある冒険者パーティーのメンバーの実績映像を観て振り分けていくというのは、ギルドにあまりに大きな負担となっていた。故に、パーティーリーダーを信用して振り分けしてもらう形になったのである。


「どうりでおかしいとは思ってたのよ!私だけやたらポイント貰えてるし!聞いても『お前は頑張ってるからな!』とかキモい事しか言わなかったし!ごめん!!ティファ!きっと私の貰ったポイントにティファが受け取るポイントもあったんだわ!!本当にごめんなさい!!!」


リッカはティファに頭を下げて謝罪した。ティファはそんな幼馴染を見て慌てて頭を上げるように訴えかけた。


「大丈夫だよ!?リッカ!だから頭を上げて!リッカが悪い訳じゃないんだから!?」


だから落ち着いてとティファは何度も訴えかけた結果、リッカはようやく顔を上げてニッコリ笑っていた。が、その目は全く笑っていない。


「そうね。私もティファもギルドも悪い訳じゃない。悪いのは全てあいつ。今から骨も残さず灰にしてくるわ」


「うわあぁ〜!?待って!?待ってぇ!?リッカ!?落ち着いてぇ〜!!?」


リッカが今にもガブリィを焼き尽くしに行きそうなのをティファは必死で止める。ティファの必死の制止が功を奏したのか、リッカはようやく落ち着いて用意された椅子に座った。


「ねぇ……リッカ……「約束」は違うけどやっぱりリッカがリーダーって事じゃ……」


「ダメ。それじゃあ「約束」を果たしてないもの」


妙に頑固な幼馴染に思わず溜息が出るティファ。だが、思いもよらぬところから、リッカへの援護射撃が飛んだ。


「私もティファ君がリーダーの方がいいと思うよ」


「ちょっ!?マスターまで!?」


 ギルドマスターであるエルーシャもそう言い出したので、ティファは驚いて目を見開く。


「私は色んな冒険者パーティーを見てきたからね。パーティーのリーダーとしての資質を持ってる人はだいたい分かるよ。ティファ君はその資質を持ってる気がする」


「あら?前は私をリーダーに推したじゃない?」


「あの時は君達が他のパーティーに行くよりもそっちの方がいいと思って提案しただけだよ。パーティーのリーダーはいつでも変更登録可能だしね」


リッカとエルーシャがお互いニッコリ笑ってそんな会話をする。ティファはエルーシャにまでリーダーになれと言われ、どうしていいか分からずアタフタするも


「でも……私はFランクだからパーティーのリーダーにはなれないです……」


「そうだねぇ〜……問題はそこなんだよねぇ〜……」


 ティファの言葉に重たい溜息をつくエルーシャ。パーティーのリーダーになるには最低でもDランク以上でなければならない。Fランクであるティファではそれが適わない。


「特例でティファのランクは上げられないの?ギルド側としてはティファの実力を認めてるんでしょ?」


「あんまり特例を出して好き勝手にやると、監査ギルドに突っつかれるからねぇ〜……」


この世界では、様々な職種を支えるギルド施設があるが、そのギルド全体を厳しく取り締まってるのが監査ギルドである。ギルドで妙な動きがあればすぐに動き、監査され悪いと何ヶ月間のギルド使用禁止令が出される。正直、ギルド側からしたら天敵のギルドだったりする。


「あの……だったらリッカさんのポイントをティファさんに譲渡するのはどうでしょうか?今だけ仮のパーティー登録すればポイントの譲渡が出来ますよ。リッカさんもかなりポイント貯めてましたよね?」


 シンシアが名案とばかりにそう提案するが、リッカは何故か困った表情で俯き


「その……実は……持っていたポイント全部バガブリィに譲渡したんです……違約金代わりに……」


「はぁ!?リッカさん「スカウト」枠ですよね!?違約金なんて払う必要ないじゃないですか!?」


「まぁ、払いたくなかったんですけど……付き纏われるのも面倒だし、後腐れなくする為につい……」


リッカはそう言った後「けど、こうなるならやっぱり譲渡するんじゃなかった……」と呟いて溜息をついた。それを聞いたシンシアも困った表情を浮かべる。が、エルーシャだけがとてもいい笑顔を浮かべ


「それなら何とかなるかもしれない」


「えっ!?本当ですか!?マスター!?」


 エルーシャの言葉に驚いてそう聞くリッカ。エルーシャは「もちろんだとも」と言って更に笑みを深め


「これより。ギルドマスター権限においてガブリィ君のポイントを強制差押さえする」


それはとてもいい笑顔でエルーシャはそう宣言した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る