大盾使いの少女はとりあえず冒険者ギルドに向かう

「はぁ〜……これからどうしよう……」


王都ギルドディア。そのギルドディアで屈指の綺麗な川であるテムス川を橋の上で眺めながらティファは1人溜息をついた。

 もちろん悩みの原因は先程のクビ宣告にある。と言っても、やる事の答えは一つしかない。新たな冒険者パーティーに自分を雇ってもらう。これしかない。

 ティファは守りに関してはそれなりに自信があるが、攻撃に関しては致命的である。冒険者の中にはパーティーを組まずソロプレイで頑張ってる者もいるが、ティファにはソロプレイでの活躍など絶対不可能だ。だから、新たなパーティーに自分を入れてもらうほかないのだが……


「私をパーティーに入れたいって物好きがいるかどうか……」


ティファが思い出すのはガブリィに言われたあの言葉。戦闘中魔物に攻撃を受けてボケッと立ってるだけの役立たずの自分を入れてくれる人がいるだろうかと……ガブリィに言われた事でティファはすっかり冒険者としての自信を無くしてしまっていた。


「お金は……全然足りないし……」


冒険者にはもう一つとある制度があり、お金を出して自分をパーティーに雇用してもらうというシステムがある。そうすれば、金額によってはティファも他のパーティーに入れてもらえるのだが、残念ながらこの1年……


「基本役に立ってない奴に報酬は必要ないだろ!」


と、リーダーであるガブリィに言われてティファはあまりお金を貰っていない。一応無駄遣いせずに貯金はしていたものの、このお金で自分を雇い入れてもらえるかは分からない。なにせ、その金額で雇い入れるか決めるのは当然相手側である。


「……考えても仕方ないか……」


ティファは冒険者ギルドを目指して歩き出す。普通に歩く人々よりも遅いスピードで……




 普通の冒険者達よりも時間がかかりながらもティファが辿り着いたのは冒険者達の運営支える施設。冒険者ギルドである。ここで、パーティー登録なども行えるのだが、ティファは冒険者ギルドの入り口の前で大きな溜息をついた。


「ガブリィさんのパーティーをクビになった件も報告しないとだよね……」


自分が新たなパーティーに入りたい事を言うなら、当然その理由も話さねばならない。ティファにはそれが憂鬱で仕方なかった。しかし、逃げていても何も始まらないと思いティファは一度深呼吸をして冒険者ギルドの扉を開けた。


「こんにちは〜。失礼します」


「おや?ティファじゃないかい」


「あっ!?えっ!?シャーリィーさん!?」


扉を開けた瞬間、とんでもない人物が自分に声をかけてきて驚くティファ。

 彼女は冒険者のランクで最高ランクのSランクで、自身のパーティーもSランクの評価をいただいている凄腕冒険者だ。ティファとは天と地程の差もある人物だが、こうして自分みたいな人にも声をかけてくれるのはやっぱり尊敬されるSランクだからだろうなぁ〜とティファは思っている。


「どうしたんだい?ティファ。そんなしょぼくれた顔して?」


「あっ……いや……その……これは……」


流石はSランク。自分が落ち込んでるのなんてすぐに見破られてしまったと思い、ティファはどう答えようか迷っていると……


「そりゃあ突然お前みたいな女狐に話しかけられたらティファもビビるだろうさ」


そう言って現れたのは、スキンヘッドで筋骨隆々の大男。彼もシャーリィーと同じく冒険者ランクSランク保持者で、自身のパーティーももちろんSランクの評価をいただいているマウローだ。

 マウローがその言葉を受け、シャーリィーはスッと目を細めてマウローを睨みつける。


「はん。むしろ、あんたみたいな筋肉ダルマが来たから、ティファが萎縮してしまったのさ」


「あんだと!?この女狐が!?」


「やろうってかい!?上等だよ!?今度こそ決着つけてやるさね!この!筋肉ダルマ!!」


「上等だ!返り討ちにしてやらぁ!この女狐!!」


突然始まってしまったSランク2人の喧嘩に、ティファはどうする事も出来ずにアタフタしてしまう。しかし、周りで見ている冒険者達は、この2人の喧嘩は日常茶飯事なので、全く気にしていなかった。むしろ、今日はどっちが勝つか賭けをする者達まで出る始末だ。


「はい!お2人共!そこでストップ!やるなら外でお願いしますね」


「シンシアさん!!」


Sランク2人の喧嘩にそう言って現れたのは、この冒険者の受付嬢のシンシアである。冒険者になった頃から何度もお世話になっているシンシアの登場にティファはホッと安堵の溜息をつく。


「ティファちゃん。いらっしゃい。私に用事かしら?」


「はい。あの……実は……」


ティファはすごく言いづらそうにしているのを見て、シンシアは笑顔でティファの顔を見て続きの言葉がくるのを待った。そんなシンシアの優しさに、ティファは少しだけ気持ちが和らぎ、言わなければいけない事への決心が出来た。


「あの……実は……私……ガブリィさんのパーティーをクビになったんです……」


『はぁ!?』


ティファの言葉を受け、シンシアだけでなくギルド内にいた冒険者達がみんな声を揃えて驚愕の声をあげて固まった。

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