襲撃
「おはよう、体の調子は?」
次の日、タクミは昼の10時近くに病院を訪れていた。シンヤに、病院に売っていないジュースが飲みたいと頼まれたのだった。
「もう全然平気です!凄いですねここ、むしろいつもより調子いいくらいです」
タクミは汗をかいた缶ジュースを冷蔵庫の中に入れ、横のテーブルにお菓子を置いて腰掛けた。
シンヤは、むしろタクミの方が元気がないことに気がついた。
「…先輩、やっぱり大学側から何か言われましたか…?」
「え?あぁ…うん…ちょっとね」
タクミはシンヤに向かって無理やり苦笑いする。
コンコンとノックの音がして、おじさん先生とナースの服を着たフレンズが入ってきた。
「はい、あっかんべーってしてください」
「どこか痛む所があればパッp「結構です」
手際良くシンヤを診察していく先生と執拗にパップを進めてくるフレンズだったが、獣医学の知識があるので絶対にパップは受け取らない。
2人が部屋を出ていくのを見ると、タクミは少し唸ってから言った。
「…実はさ、去年も僕やらかしててさ…多分僕のせいで来年からジャパリパーク研修無くなるんだ…だから、後輩達にすごく申し訳ないなって…」
「そんな、去年は知らないすけど…でも今年のは自然災害みたいなものだし…」
タクミが目線を下に落とす。
ヌラヌラとした青い躯が水の色に自然と溶け込んでいる。
水路の中をセルリアンは遡って進む。
その、全く自然ではない存在は、自らの姿も、感知されるような体内の環境も隠れている。
四神にも研究者にも気づかれることなく、セルリアンは真っ直ぐ川上から感じる輝きを目指す。
「…とりあえず、マサキくんは今日退院できるみたいだし、シンヤも明日から戻れるなら、出来るだけ早く帰るしかない」
次第にセルリアンは気付く。
川上から感じる輝きよりも強いものに。
そこには沢山いることに気付く。
「…ホッキョクギツネは…退院するまで一緒にいてやれませんか?」
美味しそうだとか、腹が減ったとかではない。
そもそもそんな反応は存在しない。
ただ輝きを感じる。
感じるという表現が正しいかすらよく分からない。
「…ごめん。すぐ帰らなければ」
「でも…帰りたくないです!自分の担当するフレンズなのに…しかも俺のせいで苦しんでるのに置いてくなんて…」
その存在こそがアンチテーゼ。
武器、本来の意味を奪われど本能は求める。
あのよく分からない何かを食わなければ食いたい食いたくて仕方がない食わなければならない。
流れる水の上に笹舟を流す子供とフレンズ。
突然、子供は泣き出して母親の元へと走り始める。
フレンズはぐったりとして青い触手に抱き抱えられ、ゆっくりと中に沈み込んでいく。
セルリアンは、その躯を小さく、白く変化させていった。小動物程まで小さくなると、慄いている親子を尻目に病院の中へと駆け込んでいく。
素早い動きでセルリアンは人々の股をくぐり抜け、病院のエントランスホールへと躍り出る。
暗闇の中に、星々が浮かぶ様に見える。
弱い輝きの中に感じる、ポツリポツリと強いサンドスターと輝きはフレンズのそれ。
テーブルに飛び乗った白いキツネをなだめようとフレンズが近づく。
白いキツネの背中から頭がパックリと割れ、水風船に穴が空いたときの様に「中身」が飛び出した。
「どうにか残れませんか?」
シンヤが真剣な眼差しでこちらを見つめる。
シンヤの気持ちは痛いほどわかる。
自分のフレンズが苦しんでるのに放っておける飼育員など一人もいない。
タクミはどうにか、パークに残る時間を少しでも長くしてやれないかと考えていた。
「キャァァァァァッ」と、突然けたたましい悲鳴がした後、多くの叫び声と足音が始まった。
しばらくして、不快な音程のアラートが耳を貫く。
『皆さま、セルリアンが敷地内に出現しました!病室から出ずに、鍵を閉めて開けない様にしてください!廊下にいる方や、足の不自由な方は近くのスタッフが対応致しますので、エントランスホールには行かないでください。繰り返します…』
タクミは頭の中が真っ白になった。
なんで?
こんなに酷い目にあったのに?
セルリアンは大きな躯を伸ばし、近くにいるフレンズを捕まえて握っては気絶させ、体のなかに取り込んだ。病院のスタッフは必死に人を逃す。
「完全に油断してたわ…」
苦虫を噛み潰した様な顔でビャッコは森を走り抜ける。
自然環境で生まれたセルリアンの存在なら察知できた筈だが、なぜこんなにもあの時逃したタコが見つけにくかったのか。
なぜ海からこんなに離れた病院まで?
「聖地に手を出しやがって…調停者として許せん…ニャッ!」
ビャッコの体は白い稲妻の様に光輝き、さらに速度を上げて病院を目指していった。
空も飛べるはず カフェインの精霊 @atoributo2
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