身代わり
動けない。
さしずめ、蛇に睨まれたカエルといったところ。
あれ?そういやカエルは恐怖で動けないんじゃなくて、お互いに行動を読んでいるから動かないんだっけ。
そんなの無理だろ。
足が金縛りにあったみたいに動かない。
あれ?なんでいきなり暗く…
特大のパラソルのように、膨れ上がったセルリアンの顔がシンヤたちに影を落とす。
洞穴のような「口」が顔の数十センチ手前まで迫り、シンヤたちをまるまる飲み込もうとした。
「…ぁ」
口の奥にはずーっと暗闇が続いているだけ。
ずーっと…
「そこからッ!離れなさぁぁぁいっ!」
後ろから、大声が響く。
次の瞬間、大きな口は後ろに引いてすぼんだ。
頭に沢山の羽根が突き刺さっている。
刹那、素早く化け物の脳天に飛び膝蹴りが打ち込まれるのが見えた。ハクトウワシだった。
「ぼ、坊ちゃま!こちらへ!」
細い手がシンヤの腕を掴んで引っ張る。
「ま、待った!まだ先輩が!」
ハクトウワシはセルリアンから飛んで距離をとる。
ひしゃげた頭蓋が元の形に戻っていく。
「shit. いまひとつってところね…」
ハクトウワシはたかを括っていた。
相手はそこそこな巨体、重そうだ。
このまま空中から攻撃を仕掛けていけば削り倒すことができると思っていた。
しかし、ハクトウワシの予想は外れる。
いきなりセルリアンは体をしならせると、思い切り地面を蹴り飛ばして跳ね上がった。
ハクトウワシがビーチの方をバックに戦っていたのが更にいけなかった。
「きゃぁぁぁぁっ!!」
セルリアンはハクトウワシに空中で体当たりをして、そのままウッドデッキを飛び越えてビーチの方に落下した。
ぐしゃっと、聞いたことのない音が鳴る。
「ハッ、ハクトォワシっ!!」
サッと身体中の血の気が引くのが分かる。
急いでウッドデッキに駆け寄り、下を見る。
「うぁ…ぁ…」
下が柔らかい砂浜なので出血は無かったようだが、ハクトウワシは背中を強く打ったのか呼吸ができないでいるようだ。
背中を押さえて口をパクパクさせている。
化け物はハクトウワシににじり寄り、また頭が膨らんだ。
喰うつもりだ。
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁっ!!」
大声を出しながら、パラソルを抱えてマサキがセルリアンに突撃する。
先端が脇腹に突き刺さったが、あまりダメージは
入っていないように見える。
「バッカ!マサキ!」
階段を転がるように駆け下りる。
マサキはハクトウワシから興味を逸らそうとしているが、セルリアンは気に留めていない。
「ん?外がうるさいな…」
用を足し終わって手を洗っていたら、ビーチの方から悲鳴が聞こえる。
なんかのイベントでもやっているのだろうか。
「シンヤー?まだいるかー?なんか始まったの?」
ウッドデッキの方を見ると、シンヤの親戚のおじさん二人がぽかんとビーチを眺めているではないか。
「あのセルリアン…そうだよな?」
「ええ、紛失してしまったサンプルの…」
「すみません、何か始まったんですか?」
茫然と会話している二人に声をかけ、下を見る。
あ、マサキとシンヤがセルリアンと戦ってる。
ハクトウワシがピンチじゃん。
なんだ、これが原因か…
「っでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ??!!」
シンヤはマサキが押し込んでいるパラソルに一緒に力を加えた。
ズブズブとヘドロに突っ込むような感覚で鉄の軸が体に沈んでいく。
ようやくセルリアンはマサキとシンヤの方に向き直った。
ほぉぉぉと不気味な音を上げながら、セルリアンが風船の様に膨らんでいく。
そして、大きな口から強風を吐き出した。
シンヤは先頭にいたので、モロに風を受けた。
「うあっ?!なんだこの匂い…硫黄…みたいな…喉がっ…」
目がチカチカする。
平衡感覚が失われていくのが分かる。
上も下もなくなって、万華鏡のような毒々しいピンク、グリーン、イエロー…
背中に壁があるや。
「シンヤ!シンヤ!シンヤ!」
雲が自分に話しかける。
右にはネコがいる。
可愛らしい、無害そうな子猫だ。
撫でて欲しそうにすりよってくる。
おいで…
「だめぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
声が聞こえる。
悲しそう。
そこに飛び込んできたのは、はたしてホッキョクギツネだった。
ホッキョクギツネはシンヤの上に立って手を広げ、一口で。
マサキも目をやられていた。
吐きそうなくらいに鼻の奥が不快だ。
空の色が緑色だが、それでも周りのものは見えている。
布の部分が破れてもはや鉄の棒と化しているパラソルを振り回す。
「助けに来たわよっ!」
ライフセーバーをしていたイルカのフレンズが後ろから飛びかかり、巨大な尾びれを打ち付けた。
「よくもやってくれたわね…」
ハクトウワシもようやく立ち上がったようだ。
その目はギラギラと光っており、激しい怒りに燃えていた。
ギリギリと歯を食いしばっているのが分かる。
「マサキ!シンヤ!大丈夫か?!」
「先輩…」
タクミは二人に駆け寄る。
知らないおじさんも二人ほど降りてきた。
「仕方ない!逃げよう!」
「まだホッキョクギツネが…」
「ダメだ、あとは彼女たちに任せるしかない!」
イルカのフレンズも目を青く光らせる。
ホッキョクギツネはまだ口の中にいる。
「ジャスティスッ!」
ハクトウワシが変な掛け声でセルリアンの首に蹴りを撃ち込む。
ブーツの裏には爪のような鋭いスパイクが付いていて、セルリアンの流動的な体にヒビが入る。
「首を狙って!」
セルリアンはハクトウワシとイルカのフレンズの両端からの一撃を貰う。
ハクトウワシがかかと落としを仕掛けた場所から、ブルンとセルリアンの頭がもげ、破裂した。
「ホッキョクギツネを!」
ハクトウワシが積極的に指示を出して戦おうとする。セルリアンの胴体はまだ動いていた。
「
羽根が背中の一点に集中して突き刺さり、その位置にハクトウワシが蹴り込んだ。
バッカーンとセルリアンは爆発四散し、液体と消化するサンドスターだけが残る。
ハクトウワシはその場で地面に手をついた。
何か蛇のようなものが、階段をするすると登っていった。
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