偶然の遭遇
すげぇコレ。
ワンチャン〇-MENに入れるまでもある。
「どうなってるの…?肺とか痛くないの?」
「なんか水っぽくて気持ち悪いですけど息ができます!」
いやマジに凄いぞ、帰ったらカズキに自慢できる。
興奮したまま、もう一回自分で潜ってみる。
「…がばぼぁ"っ"?!?!?!」
海水に顔をつけた瞬間、激痛が肺とか鼻とか目とかに走る。
「…え、ちょっと…え?!溺れてんの?!ねぇ!」
自分でも引くくらいの量の海水を吐きました♨︎
「ぜぇぜぇ…死ぬかと思った…」
変なところに水が入ったやつの六千倍くらいの強化版なやつをくらったようなもんだ…
思わず涙目になる。
「何やってんすか先輩…」
騒ぎを聞きつけてシンヤがやってきた。
「いや…調子に乗りすぎた…」
「さっきね、タクミ君水中で息できてたんだけど、もう一回試そうとしたら溺れちゃって」
シンヤが「は?」みたいな顔をする。
こないだ話した事もどうせ信じてないのだろう。
「先輩…酒飲んで海水浴は危ないっす」
「飲んでないよ!」
横でマコさんがクスクス笑う。
シンヤは何気なくスッと海の家の方を見やる。
そして、愕然とした様子で口を開けた。
「…誰かいるの?」
ウッドデッキの上には食事しているおじさんや、かき氷を食べている子供とフレンズ。
とくに珍しいものも無いが…
「い、いや、何でもないです…ちょっとトイレ」
シンヤは砂にまみれた木の階段を登る。
見間違いだとは思うが…万が一、万が一こんなところに来てたら…
違う人ですように違う人ですように…
ウッドデッキの上には木のテーブルが置かれていて、横には砂を落とすための大きな水槽がある。
一番奥のテーブルには完全に見覚えのあるおじさん役二名がタコライスと沖縄そばをすすっていた。
「ちょっとその沖縄そば食わせろよ」
「はしたないから止めなさい。あなたは沢山食べられるのですから自分で買えばよろしいでしょう」
「ちょっとくらいいいじゃねぇかよぉ」
「…何…してんの…?」
二人は手を止め、嫌な予感を感じながらゆっくりと声の方を振り返る。
「…おぼっ!」
こんな場所でお坊っちゃまと呼ぼうとするので咄嗟に口を手で塞ぎ、二人を引っ張って裏のトイレの辺りに連れて行く。
「え?…マジで何してんの?」
「あいやー…一通り仕事終わったので二人で海水浴でも行こうかと思って…もちろん社長の許可はとってますよ?」
この小太りの男は俺の父さんの企業の研究員かつ友人の兎角おじさん。
呑気にタコライスなんか食いやがって、無理やり引っ張ってきたのにまだ手にタコライスを持っている。
「そーゆー問題じゃ…うーむぅ…」
「しかし…ミッションは遂行して本社に情報も送りましたし、特に問題は無さそうですよ、お坊っちゃま」
「そりゃそうだけど…何もこんなときにこのビーチに来なくても…」
こちらの紳士的な雰囲気の漂うヒョロっとした方は俺の父さんの(以下同上)、亀山おじ。
「何故かすごく雑に紹介された気がしました。多分気のせいですね」
「どゆこと…?まぁいいさ、ちょっと出来るだけ早くビーチから上がって欲しい。マジで」
何がやばいってここには先輩がいる。
こんなだけど二人ともその道ではかなりヤバい科学者だ。
俺が生まれる前から父さんと一緒にサンドスターの研究だったりをパークでしていて、そっから独立した人たち。
しかも二人とも科学者のキャラ付けにありがちな『興味深いものを見るとマッドサイエンティスト化する』タイプの人間だ。
まずい。非常にまずい。
ザクザクと後ろで足音がした。
「あれ?シンヤ君?知り合い?」
振り返るとそこにはタクミ先輩がいた。
神は死んだ(ニヒリズム感)
「はじめまして、シンヤの叔父です」
予想に反して亀山さんはしっかり返答してくれた。
「お、俺もシンヤの叔父だ」
兎角さんが完全に後付けで入る。
「兄弟で旅行してらしたんですね。偶然ですか?」
「偶然ですよ!まったく偶然!」
「そっか、ごめん、ちょっとトイレ」
先輩が男子トイレの中に入った。
「いやぁ…危ねぇ…二人とも自制心を持ってたんだな!…ってなにそれ」
亀山おじが被っていた帽子の中からおもむろに試験管を取り出す。
「何って。尿採取」
「貴重なサンプルですからなぁ」
な ぜ な の か 。
「バカバカバカ!モラル!モラル!」
「バレないようにやりますから大丈夫…」
「目の前で知人のオッさんにコッソリ尿採取される先輩を見てなきゃいけないこっちの身にもなれよ!社長息子権限!やめろ!」
手から試験管をもぎ取ったその時、奥の茂みから何か重いものが落ちるような音がした。
クラゲに注意!と書かれていた看板が倒れる。
山の斜面でガサガサとアダンの木が揺れる。
そしてその波がこちらに近づいてくる。
「…なんかやばそうじゃね?」
海の家の中にいた人たちが、何事かと顔を覗かせる。
遠雷だろうか、という話し声が聞こえる。
しかし依然として、木の波がこちらに近づいてくる。
熱帯の植物の間から、毒々しい青と茶色で着飾った、目玉だらけの巨大な何かが這い出てくる。
口々に人はひっ…と怯えた声を出すが、2、3歩後退り出来るだけで逃げれない。
それに脚は6本ついていた。それぞれに人間のような指が沢山生えている。側面には規則正しく、どこを見るでもなく目玉が並ぶ。
獣医学部の新人でも見れば分かる、背中の丸まりかたはネコ科の大型肉食動物そのもの。
ちゅぱっ と音を立てて、ネコに似た顔の正面に付いていた一番大きな眼に穴が開く。
「に、逃げてください!」
第一声はシンヤのそれだった。
研修最初の日に言われた、セルリアンへの対処法。
クソ、マコさんの胸なんて見てないでよく聞いておけば良かったな。
観光客たちが砂浜に向かって走り出す。
恐らくというより絶対セルリアン。
しかも近くにはフレンズがいないので、確実に一番近い人間の俺たちがロックオンされている。
「ちょ!お前らなんで逃げないんだよ!」
「坊ちゃん置いて逃げれるわけねぇだろうよ」
兎角おじさんが汗ばみながら落ち着いた声で言う。
「刺激しないように後退してみようぜ…」
ゆっくり後ろに一歩踏み出す。
セルリアンは二歩こちらに踏み出す。
次の瞬間、セルリアンの顔の穴が、三人を丸ごと飲み込めるような大きさまで広がった。
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