女風呂と浴衣の魔法



一方その頃フルル陣営は


「あったかーい…」


「ね!なかなか良いよね!ここのお風呂!」


マコさんとフルル、女二人の裸風呂!!!


と言えばえちえちに聞こえるが風呂は裸で入るものである。


男湯とは少し違った作りの女湯、浴槽の木枠には湯の華が少し付いていて、軽くぬめる。

美容にいい石鹸、美容にいいお湯、美容にいいサウナなどなど何でもござれ。


マコさんは肩くらいまでの髪を軽く束ね、どっぷりと湯に浸かっていた。


「あぁぁぁー…癒されるわぁ…」


透き通るように白い肌、女性らしい体つき。

ふっくらとした二の腕から細く綺麗な指先までがいかに彼女に魅力があるのかを語る。

しかし体勢は足を広げて木枠に寄っ掛かり腕を伸ばして、さながらおじさんそのものである。


フルルは体育座りして口元まで湯に浸かっていた。


「ねぇ、フルルちゃんの髪ってさ、その模様はどうなってるの?」


マコさんが犬かきのように這いつくばってフルルの細い髪をすく。

しかしどれだけ色を探しても、髪の位置を変えても、殆ど柄は変わらない。


「不思議…いいなぁー、私も色の変わらない髪欲しいわぁ…こないだなんてまた白髪があったんだから!」


「うーん、あんまり働きすぎちゃだめだよー」


「…ううん、いいの。コレがアタシの生きがい」


綺麗な手がフルルの髪からおりて頬をプニプニと触る。

プニプニプニプニプニプニプニプニ…


「えっへへぇ…可愛いなぁフルルちゃん…えへぇ」


「やぁっ!ちょっと!マコさん!あひっ!くすぐったいよー!」


「そのまま隠れ巨乳のバストサイズまで調べてやる!えいえい!」


「いにゃぁっ!ちょっとっ!」


キャッキャウフフと高い天井の換気扇に声が反射する。


「うーん…Dかなぁ?」


「ねぇ、マコさん酔ってるの?」


「どうかなぁ」


ニヤッと締まりのない顔。

絶対酔ってる。


「ねぇマコさん、あしたね、フルルの誕生日会するから来て欲しいな」


「ホント?!いくいくー!そっか、二個下だから22歳なのねー!ホント永遠の若さって羨ましいわぁ、ずっと可愛いままなのね」


「マコさんもまだまだ全然若いよー、しかも凄く大人だし羨ましいけどなぁ…」


「フルルちゃんと代わりたい」

「マコさんと代わりたい」


二人一気に同じような言葉が出て、思わず静寂の後に笑い合う。




バスタオルは使い慣れない。

いつもの配給と違う柔軟剤、色、香りのせい。

タオルのオレンジが柔肌に乗せた水滴を掠め取ってゆく。


脱衣所の少し角のところには、ちょうど木のランタンで照らされた洗面台が並べられていて、化粧水などが丁寧に配置されている。

丸鏡の中に映り込む自分を見る。

…確かに、マコさんの言った通り髪の模様が動かない。ちょっと不思議かも。

相変わらず少し間の抜けたようで、人の心を奥底まで見透かすような目がコチラを見つめる。

フルルよフルル、あなたの心はどこにあるの?


「へぇ…フルルちゃんも女の子だもんね、お風呂上がりのスキンケアかぁ」


「ん、うん…」


薄い桃色のブラのホックを留めながらマコさんが話しかける。


「でーも!風邪ひいちゃうからまずはお洋服着なきゃ!」


「いいの、意識すればすぐに着れるから」


「んふふっ、それがね奥さん、こんなものもあるんですのよ?」


マコさんが布をコチラに投げて寄越す。


「ん…コレは…」




「「「くぁーーーっ!!悪魔的だぁーっ!」」」


コチラ風呂上がりにフルーツ牛乳でカイジしてる男子チームになります。


「やっぱり風呂上がりはフルーツ牛乳が正解!」


「でしょ?」


「いーや私はいちごミルクを推すわ!」


突如女湯の方から現れたのはいちごミルクを手にしたマコさん。

その後ろに、同じくいちごミルクを持ってフルルちゃんが出てくる。


しかしフルルちゃんは藍色と紫の花が美しい浴衣姿で現れた。

その姿はまるで、僕が知っているキレイさとか可愛さとかの全てを束ねたようで、いやそれでもまだ足りなくて、


しばし絶句した。


「いや、マコさん、風呂上がりはフルーツ牛乳で決まりですよ」


「ふふん、大人ぶっちゃって、本当はこっちのいちごミルクも飲みたいんじゃないの?」


マコさんと二人が自らの飲み物がいかに素晴らしいかプロモーションする大会を始めている。

僕はフルルちゃんに見とれてしまっていて、しばらくしてから見つめられて少し照れている彼女に気がついて目を逸らした。


「…浴衣だね」


「うん、マコさんが高校生の時に来てたものだって。フルルに貸してくれたの」


「ねーっ!可愛いでしょ!」


マコさんが牛乳論争の間にフルルちゃんの浴衣姿を褒める。

フルルちゃんの少し濡れている髪から、自分の使ったシャンプーと同じ匂いがして少しドキッとする。

違う、これはきっと浴衣のせいだ。


「イチゴなんて地面に近い植物ですよ!雑草に赤い身がついただけのものを牛乳に混ぜてしまうなんてもったいないですよ!」


「フルーツなんて調子乗ってお高く止まった食べ物よ!あんなにブッとい幹なんか立てちゃって果実まで栄養回ってるのかしら?」


「「フルーツ牛乳が一番です!」」

「いちごミルクが一番よ!」


マコさんと二人の声がハモる。


「「「二人はどう思うの?!」」」


「「え?」」


ごめん全然聴いてなかった。

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