サンドスター


何があったか知らないが、ある程度シンヤとマサキにフレンズたちは心を開きかけているようだ。

というか二人とも少し饒舌になった?感じだった、マサキについては明日の遊ぶ予定まで立ったようだしあまり不安はない。


「コストコに行くわよ!」


「パークにコストコってあるのか…」


だがシンヤがまだ微妙な感じだ。

ハクトウワシは割とフランクな方だから打ち解けやすいのかもしれないが、ホッキョクギツネはと言うと閉じこもるタイプの子だった。


「どっか行きたいところとか、ある?」


「別に無いわ…汚れたく無いもの」


「そっか…」


ぐう…これは辛いよなぁ…

結局シンヤは落ち込んで帰ってきた。




「はぁ…俺嫌われてるんですかね…」


「そ、そんな事ないと思うよ!ただちょっと相手が悪かったっていうか…少し難しい子だったんだよ」


ロッジの休憩所のベンチに座って、二人でホットレモンを飲んでいる。

隣の会議場からガヤガヤと笑い声が聞こえている。

明日はパークの定期休業で、(それでまさかもハクトウワシと約束を簡単に取り付けられたのだが)数名のグループで会議室を借りて飲み会をしているらしい。

目の前を風呂上がりの酔っ払いが通る。


「うーん…俺が口下手なんですかね…」


「…いつかは仲良くなれるよ」


「いつかじゃなくて…今すぐがいいですけどね」


シンヤはボトルの底を額につけて、虫の影が点々としている蛍光灯を眺めている。

自動販売機がブーンと低い振動音を出している。


「ねぇ、シンヤ君は何で獣医学部に入ったんだ?」


「…夢…なんですよ…」


「夢?」


シンヤはその姿勢のまま、ボトルから手を離してバランスをとる。


「新しいモノを見つけ出して多くの生に良い影響を与えたい。全ての生き物がより良く生きる世界を作りたいんです、サンドスターを使って、ね」


ガラッとドアが開いて、ウェーイの声と同時にタバコの匂いが流れてくる。

目の前の自販機で一人がビールを買い始めた。

察するところ、何かの罰ゲームでビールを奢らされているのだろう。

5000円札を入れて何本ものビールを買っている。


「この大学はそういった事業にも注目してるんでしょう?他の大学の研究機関は見向きもしないらしいですけど」


半分まで残ったぬるい暖色のボトルが額から落ち、それをシンヤが受け止める。


「俺はサンドスターに可能性があると思うんです」


「それも無限の可能性がね」


ビールを買っていた男が突然喋った。

ヒロミだった。


「ちぇっ、兄貴かよ」


「はは、罰ゲームでね、12人分奢りだよ」


ヒロミは軽く顔を赤らめながらも、爽やかな好青年である印象を抱かせる立ち振る舞いだ。


「ヒロミーっ!逃げたんじゃねーだろうな!」


「はーいここにいるよ!…まったく…」


シンヤは少し邪険に彼のことを眺めている。


「サンドスターには無限の可能性がある。星の力が込められている。勝手にどこかのフレンズが妄想した作り話だと言うヤツも多いみたいだけど、実際にエネルギー足りうる。しかも」


少し間を置いて、印象づけて言う。


「生物を更なる高みへ導く力がある。例えばテレパシー、telekinesis、自然を意のままに操り自らをヒトの体から解き放つ力を持っている。全ての事象を屈服させ時空さえも捻じ曲げる力がね」


『人間じゃない』、その言葉を思い出した。


「けっ、始まったぜ、また兄貴の厨二病が」


「へへっ、嘘じゃないんだぞ?今はまだ空想の域を出ないだけでさ」


ヒロミはビールを抱えて会議室へ戻っていった。

シンヤが深く溜息をつく。


「はぁ…マジでアイツと関わってもロクなことが無いんですよ…今日は嫌な1日だな…」


「羽根…」


「はい?」


「…いや、何でもないんだ…僕らも風呂に入りに行こうか、マサキ君を呼んできてくれる?」


「分かりました!」


シンヤはボトルをゴミ箱の小さな穴に命中させて階段を素早く降りていく。


「俺、高校時代はエースのピッチャーだったんすよ!」


そう朗らかに叫んで、踊り場から下っていった。




カポーン…

と音が響く大浴場。


削られた花崗岩や玄武岩の上に桶がピラミッドのように重なっていて、木炭の置いてある小さな石の器のオブジェから湯が湧き出ている。


「はーっ…心の汚れが洗い流されるみたいですね」


「極楽極楽…」


よーく見ると、シンヤ君もマサキ君もなかなかのイケメンである。

シンヤ君は今時の若いモテ男のようで、マサキ君は流石山岳部の筋肉である。

それに比べて僕は…

劣等感を抱くばかりである。


頭の上に乗ったタオルに、蒸気が吸い込まれていく。

時々漂ってくる微かな硫黄の匂いが鼻をくすぐる。


「マサキ君、明日の予定は固まったんでしょ?」


「はい、少し遠出ですけど…海洋エリアですね、往復1時間半くらい」


「良いよなぁマサキは…」


「もっと羨ましがってくれてもいいんだぜ?」


「ウゼぇ」


シンヤが手で水鉄砲を飛ばす。


「やったな!」


「ちょい待って他に人はいないけ バシャーン!


あっ察し。


まぁたまには悪くないか、こうやって今しかない時間に楽しむのmバシャーン!


「お前たち…覚悟しろよっ!」


バシャンバシャンとお湯が跳ね、すごい量の水煙が上がる。


この時間を無駄に使うことほど、有意義なことは無いんだろう。

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