イノマタタクミは人外なのか?



フルルは一人、部屋の隅っこで頬杖をつきながら座布団に座っていた。

何か物思いにふけるように、シンヤとマサキの研修をじっと眺めていた。


「はーい、じゃあ一旦休憩しようか、お昼持ってくるねー!」


マコさんはそう言うと、ドアを開けて廊下に出て行った。

フレンズ三人と男二人が取り残される。

微妙にまだ気まずい空間。


「あ、えーっと、ホッキョクギツネちゃんが好きな食べ物ってあるの…?」


いたたまれなくなったシンヤがそう言ったが…


「私、プレーンのジャパリマンしか食べないの」


つーんと突っ返されたっきり、会話はストップしてしまう。

あるよねこう言う空間。


「…ねぇ、シンヤくんとマサキくん?ちょっと来てー」


「「あ、はい」」


フルルが二人を呼び出し、廊下に出る。


バタンとドアが閉まる。


「はぁ…二人ともまだまだだねぇー…」


室内なのに厚着のままでフルルが言う。


「シンヤくんは続かない話はしちゃだめ!マサキくんはハクトウワシちゃんと目をあわせる!ちゃんと人と話すようにやってれば仲良くなれるよー?だからもっと頑張らないとだめだよー!」



「お、やってるやってる」


廊下の向こう側の角に隠れて、その様子をマコさんも伺っていた。


「二人とも、恥ずかしがらないでドンドン行かないと」


「「ドンドン行かないと?」」


フルルちゃんが二人を寄せて耳元で小さく言う。


「どんな女の子も、落とせないんだからね」


「「でっっっっ!弟子にしてください!!!」」


完成!フルルヒエラルキー!




光の中にいた。

まるで、厚い雲に覆われた海に、一筋の日光がベールになって祝福するよう。

そのベールの中にいる。

光の中を動き出す。

その奥に誰かの影が見える。

誰だ…

もう少しで顔が見えそうなんだ。

ずっと前からあなたの事を知っていたような気がしてならない。

物心がつくのよりもずっと前からアナタの声を知っていたような…


「夢を見ておるな?」


「はぇ?」


パチンと周りの空間は無くなり、一気に暗転する。

すぐにそこが洞穴だとわかった。

方向感覚を失い、近くの壁に頭を打ち付ける。


「痛ぁっ!」


「動くな危険!」


ビャッコは指の先から閃光を迸らせ、軽く周りを照らす。


「…ここは?」


「アタシの家兼、アタシたちの神殿」


「神殿?パークに洞穴の神殿があったのか?」


「パークが出来るよりずっと前からだニャ」


ビャッコがジェスチャーで、近くの岩に腰掛けるようにさせる。

ビャッコは何かを探して、暗闇の中でガチャガチャとモノを壊しまくっている。


「あった!お主酒飲むか?」


「あの、仕事中なんで…」


「ちぇーっ、つれないやつね」


ビャッコは陶器でできた大きなとっくりから直に酒を飲んでいる。


「くぁーっ!ナイスお供物!」


「あの…なんで僕が連れ去られたんですか?」


そう尋ねると、ビャッコはグイッと僕の目を覗き込んだ。酒くs(神の力で抹消されました)


「お主、スザクに会ったでしょ。羽根は?」


「羽根…?あぁ、あの羽根…どこにやったっけ…」


ビャッコはニヤニヤしながら続ける。


「お主の心の中から、三種類の輝きが見える。だがその中の成分には、スザクの輝きも含まれている」


「…どゆことすか」


重く、相手の意識を操るかのようにビャッコが言う。


「…人間じゃなくなっちゃったねぇ」


「…はい?」


「クスクス…お主のような者を見るのは初めて…後できっと役に立ってもらうからニャ!」


ビャッコが突然胸に触れてきて、思わず変な声が出てしまった。

するとまるで電気ショックを流されたかのような衝撃が身体中に走る。

光のベール、バランス、誰かの影が、

誰かって、誰かって、誰かって、誰かって、


誰だ?


「うわぁっ!」


ドタンドタンと廊下で大きな物音がした。


「きゃぁっ!」


それに続いてマコさんの悲鳴。

廊下で説教中のフルルと二人もそれを聞きつけて、彼女のもとに駆け寄ってくる。


「ど、どうしたんすか!」


「息が…でき…ない…」


そこには階段の下で背中を押さえて伸びているタクミと、そこで心配そうに背中をさすっているマコさん。


「タ、タクミ…大丈夫?」


「タクミ君、いきなり上の階から転げ落ちてきたのよ…ビックリしたわー…」


「うーん…」


いきなり出てきた先は階段の上だった。

数段だったからいいものの、もう少し上だったら骨を折ってたかもしれないじゃないか…あの虎め…


人間じゃなくなったって…


どういうことだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る