近づくサヨナラ



「そうです…はい…フンボルトペンギンです…はい、はい…分かりました、9時ですね…はい」


「どう?大丈夫だった?」


「あ、はい9時から予約が取れました!」


ひとまずマコさんにフルルちゃんの体調不良を報告しておくと、電話をかけてからとアドバイスを貰ったのでそうした。


「うーん心配ね…辛くないといいけど…」


「フルルちゃん…なんかあったかなぁ…」


「え?」


「いや…アニマルガールって、輝きで体を維持するんですよね…何か不安だったりして体調を崩すって事を聞いたことがあって…」


「…君、偉いね」


ちょっと驚いてマコさんの方を向く。


「しっかり調べてるし、自分の担当のフレンズの為に沢山考えてあげてるんだね!」


「い、いやぁ…」


こちらにその笑みを向けられると、正直言ってちょっとつらい。

でも、とても嬉しい。




「心拍数は正常です」


スザクは酸素マスクを投げ捨てて車から出ようとするがカコ博士に取り押さえられる。


「離せ…我は…我は…!」


「いい加減になさい!守護けものでも神でもなんでもいいけどね、私達にとって大事なのはあなたの幸せなの!何か辛いことがあるなら頼りなさい!」


「…そうじゃな…我一人では…到底どうにもならないことなのかもしれん…じゃが我にとって大事なのはお主らの幸せなのじゃ!守護の務めは…果たさねばならぬのじゃ…」


カコ博士がスザクの手を包み込むようにして握る。

するとスザクは鼻水をすすり始め、涙をこぼした。


「情け無いのう…なさけないのう…」


「何であなたがそこまで追い詰められているのか、教えてもらえる?」


優しくカコが聞く。

ズーッと鼻水をすすり、涙を拭きながらスザクが顔を上げて言う。


「我は…我は所詮は偽りの神じゃ…自然の意思には…到底かなわぬ…」


カコが頭を撫でる。


「均衡じゃ…秩序なのじゃ…抗えん…」


「落ち着いて…そう、ゆっくりでいいのよ…」


「我は守ることができん…お主らは逃げるしかないのじゃ…治るまでは…頼む!この通りじゃ!フレンズに逃げ場を用意してくれ!この島におる者を逃がしてくれ!」


スザクはカコ博士の白衣を千切れそうなほど強く掴んでいる。

カコ博士は無言で頷く。


「評議会に連絡よ」




近くにジャパリマートがあってよかった。

フルルちゃんの為に飲料ゼリーを買ってきた…後で経費から落ちてくれ頼む。


ビニール袋から取り出して蓋をあける。

顔を近づけてきたから多分これは咥えさせろって意味だと思う。

うーんだんだん思考が読めるようになってきたぞ。

悪戯でゼリーの袋の部分を少し握ってみる。


「んぅぐぅ?!」


「ブフッ…ククク…」


ほっぺたがブクッと膨らんで、目に見えてビックリする様に少しツボる。かわいい。

いやいやそんなムスッとしないでよ。


「頭はまだ痛い?」


「うーん…よくなったけどまだかなぁ…」


近くの水道でタオルを濡らしてきたので、フルルちゃんを横にしておでこの上に乗せる。

若干熱い。

そして少しボッとしているような感じだ。

今日一日居てやれないのもつらい。


柔らかい毛布をかける。


「ゆっくり休んで。明日はゆっくりでいいから」


「うん。ありがとうタクミ」


まだ2時間ほど早いが仕事は切り上げた。

で、帰るにもまだバスが来ないな…


突然スマホに通知が来た。

あ、そういえばここに来た時にパークの職員用連絡メールを入れたっけ。

スワイプして何気なく見る。


「…え?」




「…え?…分かりました」


マコさんが電話を切る。

ポツポツ雨も降り出してきたのでアードウルフを送っていった後だった。


マコさんが不思議そうな顔をしている。


「どうかしたんですか?」


「ん…あぁ、パークから連絡が来て…予定にないパーク全面メンテナンスがあるって来たんだけど…なんか妙なのよねー…」


「妙…ですか?」


「カズキ君のメールボックスにも来てない?」


「…あ、ありますね…」


メールを開く。


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宛先:Kazu1216@k_mail

件名:パークの全面メンテナンスについて


8月16日より急遽パークの全面メンテナンスが行われます。期間は未定です。16日までにご予約いただいたお客様には追って通知が入ります。また、パークの一般職員、飼育員、清掃員は期間未定の休業とし、 宿泊施設を本土に設けますのでそこでの生活をお願いします。

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「16日って言うと…?」


「月曜日ね」


あっぶねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…マコさんと遊園地行けなくなるとこだった…


「このメール、メンテナンスの理由もないし…全面メンテナンスなんて聞いたこともないし…期間未定なんて変でしょ?」


「そうですね…俺らの仕事はどうなるんすかね…」


「うーん…残念だけど途中で中止かもね…でも本当は戻りたいんじゃなーい?大都会東京に!」


「東京かぁ…」


そういえば戻る事なんて考えてなかったな。

ずっと続くもんだと思ってた…

かわいいアードウルフとも仲良くなったしかわいいマコさんとも仲良くなった…

そういやレポート書いてない。オワタ。


もうあんなに憧れて出てきた東京にはあまり興味はなくなっていた。

俺は…ここが好きになったみたいだ。

名残惜しい気がする。


またここに来れば出迎えてくれるのだろうか?

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