追跡
「だから知らないって…」
「むぅ…ならいいけどよぉ…」
布団から泥を払う一樹。
上手くごまかせたようだ。
バンバンバンと乱暴にノックする音。
そんな騒音立てたっけ?と少し慌てる。
「入るわ!」
ガチャリと鍵がかかっていたはずのドアが開けられて土足で2、3人の防具を身に付けたガードと一緒に見覚えのある女性が立っていた。
「カコさん?」
「拓海君じゃない!もしかして貴方がスザクを見つけて部屋に入れたの?」
あちゃぁ。
コソコソと一樹が言う。
「お前こんなデカい女の人と知り合いなのかよ」
一樹が胸を下からすくうようなジェスチャーをする。
「知り合いというか…被害者に近いけどね」
「異変なし…もうここにはいないのね…」
「あの…皆さん土足なんですけどとりあえず脱いでもらっていいですか?」
「脱いでもらっていいですか???」
カコさんにだけ向かって言うな一樹よ。
「ああ、すまなったわね。しっかり綺麗にしてから帰るわ」
カコさんがハイヒールを脱いで玄関に置く。
ここ畳なんだけどね…
「ところで、スザクはどこへ?」
「えっと…飯食べさせて帰しましたけど…」
「どこに行ったか、分かる?」
「すいませんそこまでは…」
「…お騒がせしたわね…は-1番、床を綺麗にしてあげて頂戴」
「お、俺すか?!」
ガードの1人に掃除を押し付けてカコさんは部屋から出ていった。
申し訳なさそうに続いては-1番も出ていった。
「…ガードも大変だな…」
「お掃除、完了しました」
「ありがとう。は-3番、レーダー展開」
「了解」
猫耳の付いた大きなバス、ジャパリバス…
に完全に偽装されているこの車はパークのトップの機密について調査するための専用車両。
中には最新の機械が積んであるのだ。
「高温による微弱な気圧変化、確認。北東方向から南東へ高速で対象移動中」
「急ぐわよ。何の意図で行動しているのか確認しなければ…もしかしたらセルリアンの異常発生にも繋がっているかもしれないわ」
「「「了解」」」
運転手である「は-2番」はスマホのトラックからインディー・ジョーンズのテーマを大音量で流し、アクセルを強く踏んだ。
「で?上手くいったの?」
「ぅぅーん…」
またそうやって彼女は適当にはぐらかす。
「上手くいかなかったんでしょ」
「ぅぅーん…ちがうんだけど…タクミにはしあわせになってほしいっていうかなんていうか…」
「上手くいかなかったのね…」
ペンギン達が5人でテーブルに腰掛けて気だるい時間を過ごしている。
「おまたせしました!喉にいいお茶です!」
「ありがとうマーゲイ。凄いな、アルパカに教えてもらったのかい?」
「はい!皆さんに喜んでいただきたくて!フルルさん、ジャパリマンもありますよ?」
「うん…いまは、いいかな…」
「オイオイ、ヘコむなって。もっとロックにいこうぜ〜?」
「小石とかプレゼントしてはどうですか?」
「あなたたちねぇ…」
ロイヤルペンギンのフレンズが制止する。
フルルは腕の中に顔を埋めて静かに目を瞑った。
あの子は喜んでくれているだろうか。
もしそうだとしたら…私と一緒にいるよりもきっと楽しいはずだから。
一樹は案の定、マコさんをデートに誘ってOKされたという話で大興奮していた。
僕はもう既に開き直っていたので大丈夫。
大丈夫だってば。
だからもう寝させてくんね???
一樹の話が終わる気配がなかったのでバレないように目を閉じて闇の中へ落ちていった。
鳥の鳴き声で起きる、というのは一番あり得そうでない現象だと思う。
事実、今日は誰かの遠吠えで起こされたし。
パークは普通の世界にないように思える…
ありえない魔法のようなことばかり起きていく。
中でも一番ありえないのは夜中の3時に起こされることだと思う。
飼育員の仕事ブラックすぎでは…?
でもここまで訴えられていない理由もなんとなくわかる気はするのだが。
よし、気をとりなおした!
もう大丈夫、マコさんに会っても絶対笑顔で2人のデートを見送れるくらいにはなってるさ!!
「おはよー!カズキ君、タクミ君!」
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