空から女の子が!
部屋で一人、何に集中するでもなく布団に寝転がって羽根を見つめていた。
炎のように明るく美しい羽根。
はぁ と溜息が不意に出る。
ゴミ箱にはチケットがクシャクシャに丸められて捨てられている。
早く帰ったせいでやる事もない。
スマホも弄るつもりにならない。
フルルちゃんが泣いて飛び込んでくる姿がふと浮かんでくる。
ポツリポツリと外には雨が降り始めているのに、依然として羽根は残酷なまでに美しい。
突然、大きな爆発音がした。
雷でも落ちたのだろうか。
数百メートル先で水蒸気が上がっている。
「すげぇ…」
きっと宿舎には誰もいなかったのだろう、反応する人はなかった。
僕は傘を持って、気分転換にでもなるんじゃないかと少し期待しながら、面白半分でそこに向かった。
つい80メートルくらい先だから宿舎にニアミスだったかもしれないな、と思う。
スニーカーの泥は気にしない。
「焦げくさいな…暑い」
水蒸気でムシムシしている上に木の焦げた匂いが漂っていて不快指数はマックスだった。
一瞬、誰かが雷に打たれたのでは無いかとゾッとした。
そこに何者かが倒れていたからだ。
しかしその服には焦げた後はなく、むしろ破られているように見える。
なんか…見たことあるぞ。
あの厨二のスザクじゃないか?(失礼)
「っ大丈夫ですか?!」
「お主…は…」
翠の瞳がこちらを捉えるが、直ぐに気を失ってしまったので急いで担ぎ上げて宿舎に寝かせようと咄嗟に思った。
服が所々破れて肌が見えていて…なんかその…背徳感はなきにしもあらず。
だがそんな事を言っている場合じゃない。
割と軽い体を持ち上げて運んでいく。
汚れた体をゆっくり布団の上に下ろした。
…一樹の布団だし…汚れてても女の子が寝てたんだからきっと許してくれるだろう?
「ひどい傷だ…」
パークに連絡を入れて引き取ってもらわなければ。
きっと僕のところでは上手く対処できない。
スマホで電話をしようとした時、スザクはバッと手を伸ばして僕の手からスマホをはたき落した。
「痛てっ!何すんだよ!」
「いい…それは…ひつようない…」
スザクは布団から這い出して外に出ようとしている。
「ちょっ、寝てなきゃダメだって!」
「黙れ!我にはまだやらねばならぬ事が…」
パタリとまた倒れてしまったので焦って布団に再度寝かせる。
ぎゅ〜っ とスザクのお腹が鳴った。
「お腹…減ってるの?」
無言でスザクは顔を手で覆った。
「はい、神さまには粗末かもしれないけど…」
仕方なかったのでカップラーメンを1つ開けて差し出した。
明日はきっと一食しかありつけないに違いない。
「我は火炎の化身じゃ!こんなもので満足など…」
と言いつつスザクは慣れない手つきで箸を持ち、麺を啜った。
「これは…なかなかに美味」
なんかわろけてくるね。
「そういや、なんでスザクさんは落ちてきたんですか?この間あった時も急いでセルリアンを倒していたし…」
ゴフッとスザクが麺でむせた。
「ケホケホ…お主、この間の羽根を渡した青年か」
「覚えてなかったんですか…」
「いや、我の羽根の輝きが感じなかったのでの」
「でも僕、持ってますよ、ほら」
羽根をスザクに見せる。
再びスザクがゲフッと麺でむせる。
鼻に入ってしまったのか強く鼻ですすったあとに話し始めた。
「はぁ、何の悪戯のつもりじゃ。我の輝きを塗り替える者などおったじゃろうか」
「塗り替える…?あ、この間言ってた特殊レギンスなんとかってヤツか…」
「何じゃって?」
「いやいや、独り言です…」
うん、神っぽくないな、この子。
初めて見たときから強者感満々ののじゃ…ロリかは怪しいが厨二娘にしか見えなかったが。
で、割とあまり触れなかったが…
「輝きが塗り替えられたってどういう意味ですか?」
箸で羽根を指しながらスザクが言う。
「輝きとはフレンズだけでなく万物に宿る物じゃ…ズルズル…輝きは元々流転する物にして集まる水のようなもの。それぞれの持つ、言わば『色水』とでも言うべき個性に満ちた輝きがあるのじゃ…ズルズル」
「それで?」
「強い輝きを持つものは濃い色水と言ってよい。何物にも染められていなかった自然からの輝きを自らの色に染め、時には別の色の物でさえそれを上書きするのじゃ…ズルズル」
「なるほど。じゃあスザクさんより強い輝きを持っていた何かが…」
「上書きしたと言う事じゃ。じゃがの、輝きがあれば必ず落ちる影もある…この恐ろしいまでの輝きを秘めたるこの島はその輝きと影のバランスを保つことでやっと存在しておる…ズルズル」
「その影っていうのは…セルリアンの事ですか?」
「左様。じゃが…ズルズル…ちとここの所、そのバランスが取れておらぬ…この島を守る最後の四神として我が立たねばならぬのじゃ」
スザクはラーメンを食べ終えたようだ。
箸を消し炭にし、次にカップを燃やそうとしたので慌てて止めた。
「青年、名を何と申す」
「た…タクミです」
「タクミ、世話になったの、お陰でもう少し動かそうじゃ」
ニコッと笑うその顔はとでも可愛く、背負うものなど1つも感じさせることはない。
「あ、それとの、その羽根の輝きはもはや我の物では無いが…我を呼ぶことはできる。何かあったら必ず…」
「呼びますよ」
「よろしい」
スザクはベランダの手すりに手をかけると、バッと空に舞い上がっていった。
空は曇りに戻っていた。
一樹がその後上機嫌で帰ってきて、自分の布団を見て驚いたことは言うまでも無い。
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