おさそい
で、クッソ遠いここから歩いて帰るってわけ。
バスは遅れてて来るのが1時間後、それだったら歩きながら食べて行ったりする方がいいんじゃないかって話になった。
道には沢山のフレンズ、人、屋台。
こちらにまで美味しそうなチュロスの匂いが漂ってくるので、フルルちゃんを引き止めるのに一苦労だった。
「タクミ!ポップコーン!」
「タクミ!肉まんたべたい!」
「タクミ!限定のジャパリマンだって!」
もちろん僕の財布の紐は壊れた。
「んふ、おいしー」
「幸せそうでなにより」
笑顔でサンドイッチを頬張る彼女に皮肉をぶつける。
バカにならない位金を使ったぞ?
テーマパークの食べ物の値段って分かるよね?
「ねぇタクミー、あとどれくらいでつくの?」
「あともう少し…サンドイッチ…半分以上残ってたよね…」
「いまたべた」
これがアイドルの真実である。
一方その頃
「待て〜っ!」
「ヒトにはつかまりませんよ〜!」
一樹はアードウルフと狩りごっこをさせられていた…とは言っても人間にとってはガチ運動すぎるのだが。
「ひぃ…死ぬ…ゔぅ」
「あははッ!カズキ君頑張ってー!」
「うおおおおおおおおまてやぁぁぁぁぁ!!!」
「ひいっ!」
いやあ可愛いお姉さんに応援されると力とか色々…溢れ出て来ますね。
しかも追いかけてるのもこれまたキュートな少女なわけだし?そりゃ全力を出すしかないよね☆
(アードウルフちゃん超逃げて)
フルルという大食漢…大食人鳥によって経済的破綻を迎えつつあるブルーな拓海とは対照的に、こちら一樹グループはキャッキャウフフしている模様。
白黒の尻尾を追いかける一樹だったが、やがて力尽きたようでガクリと地面に手をついて伸びてしまった。
「カズキ君大丈夫?!」
「あっはは…はしゃぎ過ぎたかな…」
髪に泥をくっつけたまま笑う一樹。
「ホラ、お水。水分補給しないとだめでしょ?アードちゃんも!こっちおいで!」
「うはぁ!ありがとうございます」
手渡された水をゴクゴクと一気に半分程のみほす。
アードウルフも少し水を飲むとマコさんにじゃれ始めて百合百合している。致̶し̶た̶い̶
「タクミ君、ほっといちゃったけど大丈夫かなぁ?」
「アイツの事だし、フルルちゃんに食べ物でも買わされてるんじゃないですか?(当たり)」
「アハハ、タクミ君、フルルちゃんに頼まれたら断れなさそうだしね!(大当たり)」
マコさんがアードウルフのポニーテールを指でゆっくりと手櫛でとく。
––白い肌の綺麗なうなじが見える。
「でも本当に、タクミ君も、カズキ君も頑張ってるよねぇ」
「え?」
「私さ、結構ここに慣れるのに時間かかったんだけどね…君たちもまだ仕事しっかりできてなかったりするところはあるけどさ、それでもしっかりしてるなーって」
「いや…俺は…アイツより全然ガサツだしバカだし…しっかりだなんて」
「…そうかなぁ?」
優しく微笑みながらマコさんが言う。
確かにマコさんは他と比べ物にならない美人だし、スタイル抜群、いい匂いまでする。
だけど、そんなにまで人を惹きつける要素はきっとそれだけではないんだな、と俺は思う。
そうだよ、いつだって簡単だったじゃないか。
ただ、出かけないかと誘うだけ。
なのに…なんでこの人を前にしてしまうとこんなにもそれが難しいんだろうか?
木陰のベンチに座る二人。
一人は食べ物を両手に持っており、もう一人は残りの研修生活2週間をどのようにして乗り切るかお金の計算を急いでいた。
「タクミー?食べる?」
「いや、いいよ…ペットボトルに部屋から水を汲んで行けば飲み物代が節約できるか…」
「…もしかして、お金…使い過ぎちゃった?」
「あ!いや気にしなくていいよ、多分自分でなんとかできるから」
「うん…」
なんか少し悪いことしたなって顔をしている。
あんまし女子にお金の心配をさせるのは良くないことなのでは?と思っているのだがどうだろうか。
「なんか…ごめんね…」
「いやいや、本当大丈夫だから。さ、そろそろ帰ろうか」
僕はベンチを立とうとした。
「タクミ!あの…あ…あのね…」
「うん?」
「あの…これ…」
彼女は申し訳なさそうにポケットから少しヨレてしまったチケットを二枚取り出した。
「これ…これ…タクミにあげる。マコさんと二人でいってきたら?」
それは水辺から少し離れた海洋エリアにある水族館のチケットだった。
「なんで…気にしてるんだったら本当に大丈夫だよ、そこまでしてもらっちゃ…」
「ううん、タクミはだまって受け取ればいいの!今日いちにち迷惑かけちゃったでしょ?」
「でも…マコさん…いつ空いてるかは…」
「来週の火曜日、休みで予定ないっていってたよ」
面白そうな目つきでこちらの脇腹をフルルちゃんが小突いてくる。
「それは…ありがとう!」
「ふふん、来週帰っちゃうんでしょ?楽しんできてよ!じゃあ、かえろ?」
「うん…ありがとう」
フルルちゃんとは少し早く別れることにした。
それで僕は…僕は…マコさんを誘いにいく。
ぼぼぼぼぼ僕…年上の女の人と出かけるのって初めてかもしれない…
てか…これデートのおさそいになるのか?
ヤバい(ヤバい)=ヤバい@ヤバい。
心臓がドキドキしてきた。
後ろ手にギュッとチケットを握りしめる。
「マコさん、良かったら僕と今度の火曜日に一緒に水族館に…マコさん、僕とお出かけしませんか?…あああ違うなぁ…」
そんなこんな一人でしている間にマコさんと一樹がいるところまで戻ってきた。
グッと親指を立てるフルルちゃんがフラッシュバックする。
よし、あとはマコさんを見つけて––
心臓が止まった。
向こうを向いたベンチに、マコさんの明るい長髪が見える。
その隣には…一樹がいる。
二人で楽しそうに何かを話している。
よく聞こえない、そっと後ろからさらに近づく。
「…さ…の……すけど…すか?」
近くの自販機の裏に隠れて耳をすます。
なんで僕はこんな盗み聞きをしてるんだ?
はっきりと一樹の声が聞こえる。
「まじすか?マコさんも来週の火曜日予定無いんだったら…俺と…俺と遊園地行きません?」
「えー!何それいいじゃん!いこいこ!」
「よっしゃ!俺、マジ楽しみです!」
気がつくと、僕はバス停に並んでいた。
彼女に悪い。フルルちゃんには後で断られたとか何とか言っておけばいいだろうと考えている。
いや、元から何もなかったんだからプラスマイナスゼロってことで納得しよう。
そう強く思っているのに、僕が握っていたものはただの二枚の紙切れだった。
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