第7話 スパークリング

ドンドン…!!

今日は街の遅めの花火大会だ。はやる気持ちを急かせるように彼の家に足を運ばせる。

下駄の鼻緒が痛いのに無理やり走ろうとする。鼻緒は悲鳴をあげ、私の足を締め付けようとする。


小さな丘を上がってやっと着いた。


ピンポーン…

こういうのをストーカーと、世でいうらしい。

どた、どた、どた。

相変わらずうるさい足音…。

ガチャバン!

相変わらず可愛らしいお顔。

「…なに?帰って。」

全てを終わらせるつもりで来た。

あなたの顔、仕草、何一つ忘れれば、嫌われれば大丈夫、たっちゃんのところに普通に戻れると思った。


でもー


「ねえ…もう嫌い?」

「君のそういう所が嫌いだよ、せこい。」

「せこい?」

「そんなこと聞かれたら普通の人は嫌いって言えないと思うよ。ほんとにきらいだったらどうするの?」

「たしかに。」

普通に会話をする。

「でも、帰って。」

いつも、会話をするとき顔を見てしまう。

その話をあさと君にしたとき、お前それは違うよと言われた。

どうして

怒ってても笑いながら言うやつなんているよ。

「それでも私は顔を見ちゃうな。嫌いとか言ってても嫌いじゃないかは目を見ればわかる。」

「なるほど?」

ねえ、あさと君。

「嫌いじゃないと思ってる。」

「それは君がそう思いたいだけだよ。甘えたいんでしょ。君の悪い癖だ。」

私の悪い所を全部知ってて全部言ってくる。

私はそういう所が好きだよ。

「結局、私が嫌いになれないとあさと君のこと忘れられないって気づいた。」

「…嫌いだよ、僕は。」

「うん。」

「ほんとに。嫌いだから、帰って。」

目は鼓動を揺らさず、口も固く紐で閉じたようになっている。

「…なに?まだなにか?」

「ううん。」

「嫌いだよ、なほちゃん。だから帰って?」

「ストーカーで捕まる?」

「…うん。」

「私は嫌いじゃないよ。」

「知ってる。でも、帰って。」



こうして、私たちは二度と会うことは無かった。

彼が今どこで笑っていて、何を見ていて、私と同じ花火を見ているかなんて知らなくて。

きっと今も彼は花火なんて見ずに、大好きなハンバーグをあっためて食べているんだろうと、そう思った。

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