第48話 暗闇

 暗闇の中、かすかに誰かが自分のことを呼んでいるような気がした。

 その声に私はそっと瞼を開けてみるも、やはりそこに光はなく、同じような闇がどこまでも続いているだけ。

 ここがどこなのか、自分がどうなったのかもわからず、私は思わずその場にしゃがみ込んでしまう。ぎゅっと抱え込んだ自分の身体は、まるで死んだように冷たくて、そのあまりの冷たさに一気に恐怖がこみ上げてくる。

 

 誰か……

 

 ぼそりと唇を動かしてそう呟くも、頼りない自分の声はすぐに暗闇へと飲み込まれてしまう。そんな深い闇を見ていると、得体の知れない何かが近づいてきているような気がして、私はぐっと唇に力を入れて叫んだ。

 

 誰か助けて!

 

 必死になって声を絞り出そうとしたが、まるで自分が水の中にいるみたいで言葉にならない。代わりに唇の隙間から入り込んでくるのは、冷たい恐怖と、心が崩れてしまいそうなほどの寂しさ。

 そんな感情に刺激されるかのように、怯えた心が徐々に記憶を取り戻していく。

 

 そうだ、私は……

 

 途切れ途切れになって脳裏に浮かんでくるのは、意識を失う直前の記憶。

 私の手を強く握ってくれたお母さんの手、手術台に寝かされた自分を照らす無機質な白い光。

 それらを思い出すたびに、胸の奥に入り込んだ恐怖がぎゅっと心臓を締め付ける。


 もしかして私はこのまま……

 

 全身を飲み込んでいく恐怖のせいで、私はうまく呼吸をすることもできずにその場に倒れ込む。


 お願い……私は、まだ……

 

 助けを求めて必死に腕を伸ばすも、どこに向ければいいのかわからない。

 そんな自分をこの世界から消してしまうかのように、暗闇が私の身体を這い上がってくる。怖くて必死になってもがこうとするが、冷たくなっていく身体は言うことを聞かない。意識が遠のいていく。

 

 嫌だ……私は……私はまだ……

 

 少しずつ重くなっていく瞼に耐えきれず、私はゆっくりと目を閉じる。さらに暗闇が濃くなった世界の中で、再び誰かが呼んでいるような声が聞こえた。その声の主にすがるように、私はそっと呟く。

 

 直人、助けて……

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