第47話 運命は共に

「そんな……」

 

 息を切らして登り切った石畳の階段の上で、俺は思わず声を漏らした。

 目の前には、土砂崩れによって見るも無残な姿へと変わり果ててしまった景色が広がっていた。

 かろうじて生き残っていた御神木のおかげで、そこにかつて神社があったことだけはわかる。


「あの台風のせいだ……」

 

 台風が来た日を境に、どうして綾音と会えなくなってしまったのか、その理由がやっとわかった。

 俺は呆然としたまま御神木のところまで近づくと、神社を覆い潰すようにのしかかっている巨大な岩を見上げる。


「これじゃあ綾音に……」

 

 会えない。とそう呟きかけた瞬間、俺は再び胸の奥に痛みを感じてその言葉をぐっと飲み込んだ。おそらく綾音は、今も一人で戦っている。自分の夢を叶えるために、そして、俺との約束を守るために……


「こんなところで諦められるかよ」

 

 突き刺さるような胸の痛みを今度は覚悟へと変えると、俺は急いで岩の後ろに回り込む。雪崩のように積み重なった岩の隙間からは、粉々に壊されてしまった神社の屋根や柱が飛び出していた。


「たぶんこの辺に……」

 

 俺は岩と岩の隙間に身体をねじ込んでいくと、綾音と繋がるきっかけとなった、あのお賽銭箱を探した。薄暗いな中、頭上から激しく降り注いでくる雨のせいで、急速に身体の体温が奪われていく。


「あった!」

 

 思わず声を漏らした俺の視線の先には、岩の隙間のさらに奥、土砂に半分以上飲み込まれてしまったお賽銭箱の姿が僅かに見えた。 

 その瞬間俺は残った力を振り絞ると、細くなっていく隙間に上半身を突っ込む。そして、腕を伸ばせばお賽銭箱に届きそうな距離まで辿り着いた、その時だった。突如頭上から爆発音のような大きな音が響いた。


「え?」

 

 その音に驚いた俺は、ハッと視線を上げる。すると僅かな隙間から見えたのは、自分の真上に向かって一直線に落ちてくる巨大な岩の塊。


 しまったーー

 

 心の中でそう叫んだ時にはもう手遅れで、巨大な岩はほんの数メートルのところまで迫っていた。直後、感じたことのない恐怖が全身を飲み込む。

 そしてその瞬間、俺はすぐに悟ってしまったのだ。


 綾音にとって今日が運命の日というのであれば、魂の繋がっていた俺も、同じく運命の日になっていたということを……


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