第45話 灰色の朝

「お母さんもお父さんも、ずっと見守ってるからね」

 

 翌朝、灰色の空が窓の向こうに広がる中、ベッドに寝かされたまま手術室へと向かう私に母が言った。


「うん……」

 

 腕に何本も繋がれたチューブをぼんやりと見つめながら、私はぼそりと呟く。自分の運命を決める瞬間が近づいているというのに、空っぽになった心は不思議なほど何も感じなかった。

「頑張って」と涙目で私の手を強く握りしめてくれた母と別れた後、私は看護師や医師と一緒に、手術室へと続く扉を抜ける。

 無機質で人工的な蛍光灯の明かりが続いた後、手術台に寝かされると、今度は無影灯むえいとうの光が私の視界を覆った。


「大丈夫だからね」

 

 そばにいた看護師の優しい声が聞こえた直後、私は自分の意識がゆっくりと遠のいていくのを感じた。おそらく、麻酔が効いてきたのだろう。世界が少しずつ壊れていくように、視界に映るものがぼんやりと混じり合う。

 この瞼を閉じれば、私はもう二度と目を開けることはないのかもしれない。

 うつろうつろになっていく意識の中で、私はふとそんなことを思った。


 もしも目を覚まさなかったら、私の魂はどこに行くのだろう……。もしかしたら、お父さんに会えるのかな? それとも……

 

 視界が完全な闇に包まれる瞬間、瞼の隙間から何かが溢れ落ちたような気がした。

 思い出をたどっていくように頬を伝うその感覚に、意識が途切れる刹那、私の心に浮かんだのは、優しく微笑みかけてくれる直人の姿だった。

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