第29話 神社の謎
夕食時、俺は相変わらず不機嫌のまま姉の隣に座っていた。
「あんたね、いつまでそんなムスっとした態度で
「うっせーな、別に拗ねてねーよ」
俺はそう言うと、箸で摘んだ白米をやけくそに口の中へと放り込む。
もちろん機嫌が悪い理由は隣に座っている姉のせいだ。テスト結果と進路アンケートのことで散々ガミガミ言ってきたくせに、同じ話しをついさっきも掘り返してきて、母親とばーちゃんにもバレてしまったのだ。
「はぁ……出来の悪い弟を持つとほんと心配だわ」
「…………」
いつもなら売り言葉に買い言葉ですぐに姉に反論するのだが、今回ばかりは圧倒的に立場が不利なので何も言えない。なのであからさまに不機嫌なオーラを身体から放ち、姉に無言で抵抗する。
「
さすがに不便に思ったのか、成績と進路のことで
「でも直人、勉強はちゃんとしておかないとダメよ」
「……」
はい、と聞こえるか聞こえないかの声でぼそりと呟くと、俺は項垂れるようにため息を吐き出す。隣では姉がしてやったりの顔でニヤついているので本当に不快だ。
こういう時、同じ男である父親がいれば頼りないとはいえ助けてくれるのだが、運悪く今日も残業でこの場にはいない。
ばーちゃんに関しては孫の成績に興味が無いのか、それとも何かお叱りの言葉でも考えているのか、さっきからお茶を飲みながら黙っている。そして何気に、そんなばーちゃんが一番怖い。
この流れだとまた姉が小言を言ってきて立場がますます悪くなりそうだと思った俺は、ばーちゃんから怒られるのを避ける目的も狙って話題を変える。
「な、なあばーちゃん……そういや
唐突すぎる俺の質問に、「え?」と姉と母親がきょとんとした表情を浮かべだ。けれどばーちゃんだけは特に気にする様子もなく俺の質問に答えてくれる。
「はて……結鈴神社が他の地域にもあるなんて話しは聞いたことがないけどね」
「え?」
ばーちゃんの言葉に、今度は俺が目を丸くしてしまった。話題を変える為に、ちょっと気になっていたことを軽く聞いたつもりだったのだが……なんだか妙な展開になってきたぞ。
「他の場所にないって……じゃあ結鈴神社はこの町にあるだけなの?」
「あんたバカじゃないの? どう考えったってそういうことでしょ」
何故かばーちゃんではなく隣から返事が返ってきた。だけどムカつくから無視する。
「確かにそのはずだよ。私が幼い頃から結鈴神社といえば、あの場所しか知らないからね」
「……」
再び答えてくれたばーちゃんの言葉に、俺は思わず黙り込んでしまう。
おかしい……以前綾音が訪れたと言っていた神社の名前も間違いなく『結鈴神社』だったし、それにばーちゃんが言っていた通り縁結びで有名な神社とも言っていた。
けれど綾音の訪れた神社は廃墟なんかじゃなく、随分と賑わっていたらしいけど……
どういうことだ? と首を捻って考えていると、再びばーちゃんの声が聞こえてくる。
「そういえば昔祖母から聞いたことがあったね……たしか、結鈴神社には『表』と『裏』の顔があるって」
「表と裏の顔?」
俺はばーちゃんの言葉を聞き返すと、きゅっと眉根を寄せた。
「ああそうだよ。どんな物事にも表と裏があるように、人の魂もそれは同じこと言える。自分の魂の裏側では同じ魂を持った別の人間が生きていて、結鈴神社はそんな二つの世界に現れては、同じ魂を持つ者同士を呼び寄せる力もあるとか……」
「それってつまり……」
ばーちゃんの話しに、何かが意識の片隅に引っかかった。それを確かめようと俺は「うーん」と眉間に皺を寄せたまま考え込む。が、その違和感の正体を捉える前に、「ところで……」とばーちゃんの方が先に口を開いた。
「直人や、今度の試験は大丈夫なんだろうね?」
「げッ!」
うまく話しを逸らすことができたと思っていたのに、嫌な話題がまさかのブーメランのように返ってきた。しかも、恐れていたばーちゃんの口から。
「い、いやそのー……」と冷や汗タラタラでぎこちなく言葉を濁していたら、ばーちゃんがすっと日本刀のように目を細めた。
「三島家に頭の悪い男はいらないよ。もし今度一族の恥を晒すようなことがあれば……」
「…………」
俺は姉にも学校の先生にも見せたことがないくらいに、「頑張ります!」と素直に何度も頭を下げる。
だからばーちゃん……そんな風に不気味に笑うのだけはやめて!
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