第27話 悪友からのお誘い
二人で始めた勉強会のおかげで、俺の特別課題は順調に終わりを迎えようとしていた。
5教科すべての科目で特別課題が出された時は、夏休みまでに終わるはずがないと死を覚悟していたが、綾音の教え方が上手いこともあってか自分でも驚くほどのスピードで進めることができたのだ。
まあそんなことを直接言ってしまうと、『やっぱり私って凄いでしょ』と言われかねないのでやめておく。それに何だか最近、あいつと顔を合わすと妙に恥ずかしくなってしまうので、そもそも褒めるなんて無理な話しだ。
そんなことを考えながら昼休みで賑わう教室で一人頬杖をついていると、突然頭上から哲也の声が聞こえてきた。
「おい直人、今度の日曜暇か? 暇だよな?」
なんで尋ねておきながら断定してくるんだよ、と俺は不満に思いぎゅっと目を細めた。するとそんな自分を見て、哲也がくつくつと喉を鳴らす。
「その顔は『なんで決めつけるんだよ?』って不満に思ってる顔だろ?」
「わかってるなら聞くなよ……」
俺はそう言うとため息をついた。予定を聞かれたということは、これまた面倒くさそうなことに巻き込まれそうな気が……
何となくそんな嫌な予感がした俺は、ここは寝ることにしようと決めて頭を伏せようとした。
が、机に突っ伏せるよりも先に哲也の声が耳に届いてしまう。
「今度の日曜、花火大会があるだろ? それにクラスの何人かで行くことになったんだけど、直人ももちろん来るよな?」
目を輝かせながら同意を求めてくる哲也に、俺は思いっきり苦笑いを浮かべる。
「いや俺はいいって……だいたい人混み苦手だし」
「何つまらないこと言ってんだよ直人! 花火大会っていえば夏の一大イベントで、しかも女子も一緒に来るんだぞ?」
女子が来るから何だよ、と俺は怪訝な表情を浮かべる。というより、女子が来るのなら尚更行きたくはない。
そんなことを思いますます眉間の皺を深めるも、一人テンションが上がっている哲也はおかまいなしだ。
「あーあ、わかってないな直人は……。女子が来るってことは女の子の浴衣姿が見れるんだぞ? お前だって浴衣姿を見てみたい女子とかいるだろ?」
「いねーよそんなヤツ……」
「嘘つけ。沙織ちゃんだったら見たいくせに」
「……」
不意打ちのように久しぶりに聞いたその名前に胸の奥が一瞬チクリと疼いたが、不思議とあまり痛くはなかった。
南さんの浴衣姿を想像するという発想は無かったが、代わりに何故か綾音のことを考えてしまいそうになり、それも違うと俺は慌てて首を振った。
「直人、お前も高校生だったら今のうちに青春を謳歌しとかないと、あとで後悔したって戻れないんだぞ?」
「べつに花火大会に行かなかったぐらいで後悔するわけないだろ。それにそんな日こそ家でゴロゴロできるのも俺たち高校生の特権だと思うけどな」
俺がそんな持論で反論すると、哲也はありえないと言わんばかりに目を大きく見開いた。
「お前なぁ、いくら捻くれてるからってそんなジジくさいこと言うなよ」
「…………」
どうやら俺が自分なりに青春だと思った選択肢は、哲也にとってはジジくさいものだったらしい。けれど、だからと言って俺の考えは変わらない。
だいたい、祭りや花火でキャッキャするのは女子だけだろ。
「何にせよ俺は絶対に行かないからな。だから当日家まで押しかけてくんなよ」
俺は頬杖をつきながら面倒くさいという表情を全力でアピールした。哲也は自分から約束しといて当日寝坊でドタキャンすることもあれば、約束もしていないのに突然家まで押しかけてくることもあるのだ。
だから事前にしっかりと釘を刺しておかないと後々面倒なことになる。
俺が断固として自分の意見を変えないと感じ取ったのか、哲也は「ノリ悪いなー」とぶつくさと言いながら自分の席へと戻っていった。その後ろ姿がどことなく寂しくも見えたが、俺は心の中で強く言い切る。
花火大会なんて誰が行くもんか、と。
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