第13話 二次災害

 窓に映っていた奇妙な世界がやっと消えた。

 どうやら変な呪いは解けたようだ…………が、

 

 何なんだよ何なんだよ何なんだよ、あのクソ女!!

 

 奇妙な世界が消えても、俺の怒りは消えることなく相変わらず胸の中で暴れている。

 

 友達ができないだと? 彼女なんて一生作れないだと? 初対面の人間に向かってアイツの方こそ言い過ぎだろッ!

 

 俺はふんと鼻を鳴らして腕を組むと、姿が見えなくなった相手を睨みつけるように目を細める。すると狭くなった視界の中に、角野先生の顔が映った、


「おい三島、さっきから授業妨害してるくせに随分と態度がデカいな」


「えッ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺は慌てて組んでいた腕を解いた。そして「す、すいません!」と急いで頭を下げると、周囲からクスクスと笑い声が生まれる。


「もしかしてまだ窓に変なものが映ってるのか?」


「い、いやその……もう……大丈夫です」

 

 先生の問いかけに、俺は消え入りそうな声でそう答えた。いやむしろ、俺自身がこの場からすぐにでも消えたい。

 先ほどよりも笑い声が大きくなった教室の中で、俺は出来るだけ身を隠そうと頭を低くする。が、もちろん無駄な抵抗だ。


「はぁ……」

 

 俺は頭を抱えながらため息をつくと、チラリと窓の方を見る。あの女に腹が立ったのは事実だが、さっきまで自分が見ていた光景が現実だったとはまるで実感が持てない。青い空にのんびりと浮かんでいる飛行船を見ると、余計にそんな気持ちが強くなってしまう。

 

 やっぱ俺、あの女にぜったい取り憑かれてるよな……

 

 幽霊じゃないとか死んでないとかあの女は口うるさく言ってたけど、そもそも風呂場の鏡や教室の窓に現れる時点で明らかにおかしい。幽霊や悪霊じゃないとしたら、あれは相当タチの悪い生き霊か何かだ。


「まさか……俺の死期が近づいてるとかじゃないだろうな?」

 

 俺は一瞬そんなことを考えてしまいゾクリと背中を震わせてしまう。後輩の女の子に失恋した直後に暴言女の生き霊に取り憑かれて死ぬとか、俺の人生どれだけツイてねーんだよ。


「あーマジでわけわかんね……」とぼそりと呟いた俺は、あの女の姿もろともさっきの映像を脳内から追い払おうと頭を掻きむしる。が、そんなことをしたところで瞼の裏にも脳裏にも刻まれた映像は簡単には消えてくれない。


 また出てきたりしないよな、あの女……

 

 そんな恐怖がふとよぎり、俺は手を止めると恐る恐る窓のほうをチラリと見る。視線の先に見えたのは、さっきと同じ青空といつも通りの田舎の風景。良かった、とりあえずこれで恐ろしいことは……

 ふぅと小さく息を吐き出して、視線を再び黒板の方へと戻した時だった。視界の中に不気味なほどにっこりと笑顔を浮かべて俺のことを見ている角野先生の姿が映る。


「…………」

 

 俺は全力の苦笑いを浮かべると、心の中で思いっきり叫んだ。

 あの女、マジで許さないッ!

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